写真に興味を持たれたきっかけから教えてください。
学生時代は、ずっとスポーツに力を入れていました。ボクシングなのですが、割と強い学校に在籍していたので、そちらの道に進もうと自分でも思っていました。
途中で肩をこわしたり、体の故障でそのままアスリートとして歩むのが難しくなり、どうしよかと悩んでいた時期がありました。
ある日、夜中に帰ってきてテレビをつけたら、某テレビ局で報道カメラマンと山岳カメラマンの特集をしていたのを偶然見たんです。
フォトジャーナリストの長倉洋海さんの特集も見ました。その時は“内戦国の子供達の笑顔”を撮影されていたんです。それまでまったくカメラには興味がなかったのですが、その写真に、ぐっと引きつけられました。写真を始めようと思ったのはそれがきっかけです。
ドキュメンタリー写真がきっかけだったのですね。
そうです。スポーツもしていたので、報道カメラマンに憧れました。「写真の道へ進もう」と、写真の専門学校へも通いました。ただ学校はどちらかと言うと和気藹々とした感じで(笑)、楽しかったのですが、あまり刺激を受ける場所ではなかったです。
本当に写真にはまったのは、博報堂フォトクリエイティブ(現 博報堂プロダクツ)に入ってからですね。
1年目は、覚えるとか慣れることで必死なのですが、2年目あたりから楽しくなっていました。「とにかく作品を撮りなさい」という社風で、社内に現像所もあって、スタジオも使わせてもらえる環境だったのが、ありがたかったです。
報道ではなく広告系に進まれたのですね。
そうなんです(笑)。20歳の時、世の中で目にする圧倒的なビジュアルの強さというか、自分が計り知れない写真の世界があることにも強く影響を受けていて、あっという間にその魅力に引き込まれていきました。その中で、広告撮影の多い博報堂プロダクツに入ることができました。
当時は「広告写真ってこんな風に作るんだ」という衝撃がすごかった。ハードワークですし、終わったら朝方まで飲みに行って、スタジオで泊まって、また現場、という日々で毎日があっという間でした。プロダクツにいらしたフォトグラファーもすごく優秀な方々で、僕にとってはヒーローでしたね。
一見、真逆の世界に感じますね。
矛盾しているように聞こえますが、自分の中では報道という意識は常にあるんです。リアルなことだったり、真実だったり…。現在もマスの仕事とは別に、旅の写真や自分のまわりの家族や友人の写真を撮ることも、定期的に続けています。
写真でできることは、広告とかメディアに載せて伝えるものでもあるのですが、“一人一人の思い出”とか“個人に寄り添って残せる”という意味も大切にしています。広告や雑誌の仕事をしていても、報道や記録という本質の部分は今でも変わらないと思っています。
ライティングの技術はいつ頃から習得されたのですか。
独立してからです。プロダクツ時代は様々なタイプのフォトグラファーに付きましたが、ライティングについては自分のものとして理解できていなかった気がします。退社後に、1年半ほどファッション・フォトグラファーのお手伝いしていた時期がありました。その人は自然光がメインで、照明を当ててもライト1灯とか。
それまでは20灯以上ライトを使うのが当たり前の世界から、今度は自然光のみ、プラスしてもレフ板のみ撮影で、たまにストロボやキノフロ1灯加えるだけという…。とてもシンプルなスタイルでした。「そこにある光を活かしながら、強い写真、カッコイイ写真も撮れる!」ということを学びました。気がつけば、ファッションフォトにのめり込んでいました。
自分の中では、ファッションも広告的な作り込みもどちらも面白くて、今でも「広告も音楽とファッションでどれが好きですか?」と聞かれることはありますが、どれが好きとかという偏りがないんです。色々なジャンルの撮影をしてきた経験値が今に繋がっていて、混ざり合っている気がします。
例えば、製薬会社のインナー向けの機関紙があるのですが、それは実際の社員の方や病院の先生など一般の方を撮るわけです。どこに連れて行かれるかもわからず、撮影時間も短くじっくりライトを組んでいる時間もないようなところでの対応力とか。プロダクツ時代からの経験がそういう撮影にも役立っていますし、ドキュメンタリー的な写真を撮るのも楽しいです。
一番大切にしているのは「光」「色」「対応力」ですね。とにかくその場の光、加える光、それを意識しています。
最新の小型バッテリーストロボ「Profoto B10」を使い、ハウススタジオとその屋上、砂浜で撮影しました。今回のテーマからを教えてください。
テーマは「静と動」です。ハウススタジオとロケで、二つのテーマをどう持っていくか。またB10を使う中での「写真の印象」「光質の違い」「屋内と外の違い」をどう表現するかを考えました。
ハウススタジオのキレイな自然光が入る空間で、ストロボを使っている感じがわからない空気感を出すには、どうすればよいかを考えてライティングしています。
「静と動」というテーマは、モデルを含めてスタッフで共有していました。室内の撮影は「静」なのですが、「動きがある中にも『静』を出してほしい」と伝えました。実際は動いているのですが、全体の佇まいは「静」を表現できていると思います。
このシチュエーションは、大きく紗幕にバウンスさせたライティングでした。
大きな窓から入る自然光を活かしながら、また建物の影や奥行き感を意識しています。「ストロボの光は硬い」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、B10はやわらかく光をバウンスさせた時の光質がいいですね。あのサイズで、プロフォトの全てのリフレクター、アタッチメントが使えるのが素晴らしいです。
B10はコンパクトなサイズで色々な機能が付いているじゃないですか。TTLも明るいLEDも。これ1灯あれば、ある程度の撮影は対応できるんじゃないですか。ボックスも傘も、ビューティディッシュも付けられる。あと今回の撮影でも使いましたが、専用フォルダーでカラーフィルターがすっきりと装着できるのも良いです。
でも一番凄いのはiPhoneの「Profotoアプリ」ですよ(笑)。Air Remote TTLは、3つのグループ制ですが、Profotoアプリは、1灯ずつコントロールできる*。しかも全灯に個別の名前をつけられるので便利です。アシスタントの数も減らせるし、ちょっとしたロケなら自分一人でもこなせます。砂浜で撮影した距離くらいなら電波も余裕で届くので、このアプリは使えますね。
*Air Remote TTLで一つのグループに1灯ずつ割り当てて、1灯ずつコントロールすることも可能です。ただしAir Remote TTLでは光量を確認することができません。Profoto アプリでは手元で光量を確認することができるというのが一番のメリット。
B10の最大出力250Wsは光量としてはどうでしょうか。
正直な話、手元に製品が届くまでは「ちょっと物足りないかも」と思っていました。でもテストで使い出してみて「ほんとに250Ws?」って思うくらいです。ディフューズやバウンスをするとその分、光量が落ちますが問題はなく、光がキレイだなと思いました。同じB10でも「オクタ」と「ビューティディッシュ」と「ちょうちん」で光質が変えられます。B10本体が2灯とアタッチメントが数種類あれば、たいていの現場は事足りる気がしますね。
お借りしている間に、福岡ロケにもB10を持っていきましたが、まず軽い(笑)。移動が楽でした。撮影場所が家の玄関先で、外光が入る状況でした。逆光が少し強かったんですね。「手前を起こしたい」という時に、LEDのモデリングをつけて撮影しました。モデリングの色温度も無段階で変えていけるのが、めちゃくちゃ使えたんですよ。
定常光も光量があるので、ムービー撮影もOKでした。ストロボを持ってきたのに、映像にも使えるのはすごく良かったです。ちょっと本気で導入したいと思っています。
普段はオパもよく使うので、プロフォトのオクタとかビューティディシュを使えば、コスメ系の撮影もB10でいけちゃいます。そんな事言うと上位機種が売れなくなるかも(笑)。ビューティ系の撮影が多いフォトグラファーも十分使えるんじゃないですか。
屋上のシーンなど、動きが激しい状況でも、250Wsの出力でこれだけの動きを止められる。またシャッタースピード、閃光速度を変えることで、ビシっと止めたいところ、少しぶらしたところを表現できるのは、この光量で凄いことだなと思いました。
ケーブルがないので、室内でもロケでも動きやすいですね。
そうなんです。移動が楽なので、ライティングを詰めていくスピードもあがります。
最後の砂浜の撮影では、波打ち際にライトを立てていました。あれはコードのあるストロボでは危険なので出来ないですね。B10はスタンドに付けているだけなので安心です。撮影当日は風もあまりなかったので、ウエイトを使わずスタンドだけでしたがまったく問題なかったです。ヘッドが軽い分、スタンドの安定性もあがります。
最近は、女性のアシスタントが増えています。撮影機材は大きくて重いものが多いため女性に運ばせるには気を遣いますが、B10のセットはとにかく軽いのでアシスタントにも優しいですね。
砂浜の撮影はモデリングをつけっぱなしでしたが、バッテリーも持ちましたね。
一般的にバッテリーは低温に弱いじゃないですか。日が暮れてからはどんどん寒くなって(笑)、車のセンサーでは8度くらいだったかな。少し風も出てきて体感温度も寒かったですが、十分持ちましたね。
砂浜を舞台のようにしたかったので、カラーフィルターを入れていますが、これもアタッチメントとしてすっきり収まるのはいいですね。テープ止めしているよりも見た目もいいし、風でテープが剥がれるとか、そういう心配がまったくなくなります。
水、炎、煙、粉など「瞬間光ならでは」の不確定要素を入れたいとお願いしました。
1本で3分間発煙し続けるカラースモークを使いました。被写体はもちろん、広い範囲に拡散するスモークも止める必要があります。砂浜では6灯のB10を使っていますが、余裕の光量でした。もしかしたら4灯でも大丈夫だったかも。
ストロボの光が強すぎても月明かりが活かせないし、光量と閃光速度が変えられるからこそ、あの撮影はうまくいきましたね。
B10はコンパクトですが、最大出力以外の性能はジェネタイプと変わらないんじゃないですか。それこそ、砂浜に着いた時は真っ暗でしたが、LEDのモデリングも明るくて、現場を照らしたり、懐中電灯がわりにも使えましたね。
モデリングが明るいので、カメラ周りのセッティングも助かりましたね。
そうですね。モデリングを最大出力にすることで、真っ暗な場所でも光の広がり方がある程度計算できるので、セッティングしやすいです。
しかもバッテリーもすごく持ちました。最初、ハウススタジオで2灯使っていた時に、テストも兼ねて発光させていたので、「割と電力を消費しているな」と思って、屋上で撮る前に充電していたんですね。チャージ時間も割と速かった気がします。
自然光とのミックスで使うのもすごく馴染むし、ストロボで作った少し強い世界観の絵作りもできるし、オールラウンドに対応できるなと感心しました。
夜の砂浜のカットは「能舞台」のようです。
「竜宮城」ってスタッフは言っていました(笑)。海に反射する月明かりとB10で舞台のように作れるってすごくいいですね。雲に隠れて月明かりがなくなってからは、それはそれで被写体とモデルへのストロボの光が効いているなあと。
海が見えなくても奥行きを感じますし、動いているのに「静」を感じます。
モデルの葵さんが動いている途中を切り取っているのですが、拡大してもピタッと止まっているんですよ。閃光速度の速い「フリーズモード」にしていますが、真っ暗の中で動きを止められるのはすごいです。冬の澄んだ空気の中で、モデル、衣装、スモークが光で映えましたね。
伊藤さんにとって「光を作る」意味、面白さって何ですか。
暗闇の撮影は別として、僕はハウススタジオでもロケでも「自然光を作りたい」と思っています。人工光で自然光が作れたら、あとはどんな応用も利くのではないかと。
どれだけ自然光に近づけるか、そこから崩したりアレンジしたいなというのはあります。「ストロボで自然光表現」とか「作った光感」をなくすのは難しいですが、それができた時のキレイな光なら「いい写真」が生まれると信じています。
Profoto B10
最大出力: 250Ws
出力レンジ: 10 f-stop (1.0-10)
HSS出力レンジ: 10 f-stop (1.0-10)
定常光: 最高2500ルーメン 3000-6500ケルビン
バッテリー容量: 最高出力での最高発光回数400回 最大定常光出力で最長75分
バッテリー充電時間: バッテリーチャージャー 3.0Aを使用して最大1.5時間で充電
大きさ: 175×150x110mm (スタンドアダプター含む)
重さ: 1.5kg(バッテリー・スタンドアダプター含む)
https://profoto.com/jp/b10
Phtographer
伊藤大介
博報堂フォトクリエイティブに在籍した後、フリーランスフォトグラファーとして独立。
広告、ファッション、CDジャケットなど、アスリート、タレント、ミュージシャンを数多く撮影。動きのあるビジュアル作りが得意。2014年 SIGNO所属。現在はスチルからムービー撮影までの幅広く活動中。
http://signo-tokyo.co.jp/artists/daisuke-ito/