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#INTERVIEW 高橋秀行「3,776.12」展 インタビュー

2024年1月26日

高橋秀行「3,776.12」展 インタビュー

広告写真の分野で活動しているフォトグラファー 高橋秀行さんの写真展「3,776.12」がライカプロフェッショナルストア東京で開催されている。

3776mといえば、日本を代表する霊峰「富士山」の標高だ。世界遺産にも登録され、登山者も絶えない魅力的な姿は、プロ、アマチュアから一般の方まで、その姿を写真に捉える人は多い。

「日本で一番撮られている被写体」と言っても過言ではない富士山をなぜモチーフに選んだのか。広告写真を生業とする高橋氏がどのように富士山と対峙しているのか。きっかけから撮影時の苦労話、「広告写真と作品制作」はどう干渉しあうのか、話を訊いた。

Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)

坂田 最初に、富士山を撮影しようと思われたきっかけを教えてください。

高橋 自分の中で撮影したい衝動に駆られるのは、「心が動かされたかどうか」が大切です。

人物も同じです。今でいえば大谷翔平さんを撮ってみたいし、僕が心を動かされたかどうかが重要なんです。富士山は子供の頃、どこかへ遊びに行く時に、車窓から初めてホンモノを見て感動しましたし、その姿が心に焼き付きました。その時から「いつか富士山を撮るだろうな」と漠然と思っていました。

高橋秀行さん。

坂田 幼少の頃から「思い」は始まっていたのですね!

高橋 そうなんです。小学生の頃から富士山は一つのビジュアルとして、自分の中の「心を動かされたフォルダ」にずっと入っていて、いつか撮ってみたいと思っていました。「桜」もそうですね。

坂田 富士山は私も子供の頃、大阪から東京へ向かう新幹線の中から見たのが初めてでした。その時は「おお〜」ってなりました(笑)。

高橋 画家でも小説家でも「光景」や「情景」とか、その場の「雰囲気」だったり、心が動いたものって、表現者なら何かしら心に留めていると思うんです。

富士山と桜は被写体が偉大なので「表現するのが難しい」とか、「よく写らない」とか言われますが、「そろそろトライしないと間に合わないだろうな」という気持ちが僕の中にあって…。きっと山にも登らなければならないだろうし、それには体力的なこともある。1年2年で撮り切れるものではないですし。

展覧会のキービジュアル。

広告写真を30年以上撮り続けてきて、未だに広告写真でも難しい部分があるのに、もう始めないとまずいなと。

本格的に撮り始めたのは2018年頃からです。きっかけは幼い頃に心を動かされことですが、「その理由って何だろう?」と考えた時に、写真家はその被写体と向き合うことで解決していく、その答えを探しにいくという本能があるんだと思います。

坂田 頭で考えることも大切ですが、富士山のように“被写体が動かない場合”は、行動(撮影)しながら考えることが大事なんですね。

高橋 2020年以降のコロナ禍では「外出は控えるように」という話もありました。車に乗って、富士山を撮りにいく時はアシスタントもいませんし、誰とも会わないため、ある意味コロナ禍で作品制作のペースが上がりました。

坂田 本格的に撮り始めて5〜6年経つわけですね。撮影初期に比べて経験値を重ねると、季節や天候、撮影場所等、色々と見えてくるものがあると思うのですが、当初の思いから心理的な面を含めて、変わってきたことはありますか? 

高橋 ありますね。

坂田 こんな言い方は適切ではないかもしれませんが、無我夢中で撮り始めるわけじゃないですか。そこから経験値というか、情報とかノウハウが蓄積されていって、少しずつ冷静さを取り戻すというか…。

高橋 坂田さんから「どのような視点、コンセプトで撮っているのか」と質問レジュメにありましたが、やっぱり富士山って、撮らされちゃうんですよ。

坂田 撮らされてしまう?

高橋 そう。「絵になる」んです。「誰が撮っても、ある程度いいものが撮れているんじゃないの?」という考え方に支配され始めるんです。その場所に、その時間にさえ行けば、いいものが撮れると思うこともあるんです。撮れば撮るほど、感じます。

「今、富士山に撮らされているなあ」って。たぶん「桜」にもそういう感覚があるんだと思います。

写真家という表現者が表に出ないで「富士山はやっぱり素敵だね」「凄いね」みたいな。写真家が主語にならずに富士山が主語になる。僕が意図することとは違ったメッセージになりがちなんです。

坂田 被写体が偉大ですよね(笑)。

高橋 偉大だし、あんなに綺麗な独立峰は他にないですからね。

自分は「こう撮りたい」と考えて向かうけれど、ラッキーなことに“すごい現象”が起きていたりすると、自分は「これを撮りにいこう」と思っていたのに、そっちに夢中になってしまう。それで、帰ってきて後悔することも多々あるんですが(笑)、それはそれで面白いんですよね。

今まで自分が富士山を撮ってきた経験、過去の情報、天候を調べたりして対峙しますが、とにかく「相手が超えてくる」。こっちはそれを「さらに超えよう」とする。それがいつまで経っても噛み合わない(笑)。そこが面白さであり、悩まされ続けているところなんです。

坂田 天気や状況を予想していっても、いい意味で裏切られてしまうんですね。

高橋 例えば「富士山の四季を撮りたい」という方もいると思うのですが、僕はあまり考えていなくて、いま紅葉だからとか、そういう意識はないんです。

もちろん紅葉の時期にも行きますが、「紅葉の富士山」を撮りたいわけではなくて、「紅葉がおこる秋に富士山はどういう表情をしているんだろう」とか。うまく言えませんが、そういう感覚で行くことが多いですね。

坂田 絵になる山だけに、絵葉書的な構図に「無意識にさせられてしまう」のかも。

高橋 撮らされないようにしたいんですよね。でもそれがとても難しくて。

一人で長時間山と向きあっていると色々考えさせられます。写真は瞬間を撮る、あたり前のことですが、富士山を撮影している時って、なぜか写真を始めた頃の感覚、無我夢中だったことや、上手くいかなかったこと、そして心の底から嬉しかったことなどを思い出すんです。言葉では上手く伝えづらいのですが、初心というか、「写真を撮る」という基本的なこと、「瞬間」の意味などを教えてもらえている気もします。

坂田 たくさんカットがある中で、まだ一部分しか見せて頂けていないと思いますが、その中での印象として、富士山本体だけではなくて、富士山を含めた環境とか「周囲の状況を含めた富士山像」を撮られている気がしました。

普段、高橋さんがインスタにアップされている「日常の中の違和感やユーモア」みたいな状況の中に、富士山が入っていたりとか。

高橋 そうですね。そういうライフスタイルとか、富士山以外のものを入れていくと自分の好きな「写真」になりますね。僕は「富士山が無い」日常を送っています。富士山がライフスタイルとして存在していることは「セレンディピティ」であり、作品制作におけるテーマのひとつでもあるんです。

ガッツリ正面から向かい合った自然と競演している富士山もあるし、目線、距離感を変えると、いろんなモノとの競演がある。その瞬間、表情、シーンの多彩さが富士山の良さなんじゃないかな。

坂田 人が写っていなくても、体温的なぬくもりを感じる写真は、普段の高橋さんらしい作品な気がします。

高橋 ありがとうございます。富士山だけを撮っていても、自分の中の本質的な向き合い方はそんなに変わっていないと思います。

坂田 足繁く通わないと見せてくれない表情もありますよね。富士山は動かないじゃないですか。その富士山の周辺は徐々に発展していく中で、その情景も含めて、富士山なのかもしれないですね。

高橋 色々なことを試したくなるんですよ。フォーマットもこれでいいのかなとか。トンネルの中から見てみるとか。

坂田 今回の展示はライカプロフェッショナルストア東京で開催されますが、ちなみにカメラはライカで撮られているのですか。

高橋 ライカですね。スマホなどで撮る時もありますが、展示作品に関しては全てライカで撮っています。「ライカギャラリーで展示するから」という理由ではなくて、愛機の一つでもあるライカで撮りたかったんです。

逆に仕事の場合は目的があるので、そこから逆算してベストなカメラやレンズを選択しています。

オープニングレセプションにて(ライカプロフェッショナルストア東京)。

坂田 本格的に富士山を撮影し始めた2018年から、撮影に関して意識とか考え方に変化はありますか。

高橋 大事なことを思い出したり、気づかせてくれたことが一番大きな変化というか、感じることですね。富士山の撮影に関しては、向かい合って過ごしている時間が特に長く、富士山周辺の自然も含めて対峙しています。そうすると「写真」とは、camera obscuraという「光学的、物理的な制限の中で表現していくもの」という事を、改めて感じましたね。

また、僕は写真家である三木淳先生に学生の頃、短い時間ですが「写真とは記録性(ドキュメント)をともなう映像表現」であると教えて頂きました。その言葉だけは常に意識し、大切にしてきました。今回、あらためて、その言葉の重みというか重要なことを再認識させられました。

富士山と対峙することで、「純粋に写真を考える時間」を持つことができ、作品制作だけでなく、普段の仕事に対してもすごく影響を受けていると実感しています。

現場での空気感と帰宅後に見た写真の違い

高橋 富士山へ出かけて、富士山を見ながらシャッターを切りますよね。そして帰宅して写真を見るじゃないですか。そうすると「こんな風には見えていなかったんだけどな…」と特に富士山の作品制作では感じるんです。

坂田 現場での感動というか見ていたものと、モニター上に写っているものが少し違って見えるのですね。

高橋 そうなんです。でも逆もあって「つまらないかも…」と思いながら撮っていたものが、「こんな風に写っていたんだ!」と思える写真もある。その肉眼で見たものと写真との違い、現実とイメージの違いにいつも驚いています。

フィルムではなくデジタルカメラなので、「撮影時の設定が自分の意識とマッチしていなかったのかなあ」と考えたり。肉眼はすごくアナログじゃないですか。でも機械は色温度や様々な状況をシビアにキャプチャーしますからね。

坂田 いわゆる「記録」と「記憶」ですね。

高橋 そうそう。「すごく真っ赤な夕焼け」の時もあるんだけど、家に帰って見たら「そうでもない」みたいな(笑)。逆もあって、「こんな色相だったかな?」とか「こんなに彩度あったかな?」「あれ?」って。

坂田 なんとなくわかります(笑)。そこで「記録」から「記憶色」へ変換するわけですね。

高橋 それはありますね。調整はするけれど「自分に対して嘘がない」は徹底しています。坂田さんが言われたように、トーンカーブをギュと上げて鮮やかにすれば「いいね!」が増えるよねとか、「世の中こういうことですよね」ではなくて(笑)、「この色を少しだけ強調したい」「この色は少し抑えたい」、コントラストを少しだけ上下するなどは、自分が現場で見て感じたイメージに近づけることでもあり、表現者としてあたりまえだと思っています。

撮影ポイントの見つけ方、決め方

坂田 以前お話を伺っていた際に、富士山を遠くから見渡せる山に登ったり、樹海もそうですし、人気のない場所を夜中に歩くなど、撮影場所を決めることがまず大変だとおっしゃっていました。

高橋 僕も気分屋ですし、富士山も気分屋です(笑)。撮れないことの方が多いですし、現地に行っても姿が見えないことも多いです。

今日(取材日)のようにピーカンで「ものすごく富士山が見える」という状態より、例えば台風の前とか、雪が降った時など、何か特殊な状況や要因の時の方が行きたくなるんです。

撮影に出かけても終始富士山が見えないことも。

撮り始めた時は、自分のイメージに合う場所をとにかく時間をかけて探しました。富士山は360度見られる山なので、人それぞれ「好きな顔」があるはずです。何度も通ううちに「この角度の顔が好き」というのが見えてくるんです。

いまは、敢えて困難な設定や誰も知らないような場所に好んで行っています。今回、写真展や写真集で出している写真も、同じような場所で再び撮ってアップデートする可能性もあります。

例えば、同じ場所でも、積雪がある時と山肌や街並が見えている時ではまったく印象が変わります。

富士山が見えなくてもがっかりはしなくて(笑)、見えなくても得るものがあります。「こういう霧の出方をするんだ」とか、「曇りの時は、こういう感じなんだ」とか、そういうのも面白いし、次に繋げるよい経験になります。

坂田 空振りはないんですね。

高橋 空振りでも空振りじゃないように、自分に言い聞かせています(笑)。「空振り」の時もヒントがたくさんもらえるんです。

富士山の近くに行くだけで、時間もかかるし、交通費などお金もかかります。地元の人がSNSで「雨が上がって虹がかかりました」って呟いていても、近くに住んでいない僕は撮れないですから。「現象」という意味では、近くに住んでいて、毎日富士山を見られる人には及ばない部分はあります。

でも限られた時間と条件の中で、撮れるものはあるはずだし、だからこそ見つけられる視点や現象を求めていくだけなんです。富士山を撮ることは誰かと競争することではなく、「自分の中に答えを求め続ける行為」だと思っています。「読み通りにうまくいった!」という撮影は、20回通って1度あるかないかですね。

坂田 とはいえ、残りの19回にも意味があるということですね。ラブコールを送ってもなかなか振り向いてくれない、みたいな。

高橋 そうですね。でもそれが楽しいんです(笑)。

坂田 独立峰なのでどこからでも見えるわけですが、ロケハンは大事ですね。

高橋 だいたい360度、どの方向からも見ていますね。あとは今後、空撮もしたいと思っています。

坂田 先ほど「季節的なことはあまり意識されていない」という話でしたが、見返すと冬が多いですか?

高橋 確かに!今まで撮ったものを見返すと「雪が積もった方が美しいな」と思っているので、積雪時が多いかもしれません。

雪のない「青富士」をはじめ、「黄富士」「赤富士」「黒富士」など色々な富士山を表す言葉があるように、それぞれに魅力的です。いまの時期なら空気が澄んでいるので遠景富士がキレイに見えますね。

マジックアワーのタイミング

坂田 一般的に夜明け、夕暮れ時はドラマチックな光になりやすいと言われていますが、そういうタイミングは大事ですか。

高橋 富士山の形状、また作品を構成するのに自然の要素が多く入り込むので、陽の光が低い方が光、色が複雑に絡み合って、絵になるというか、色彩、立体感が表現された富士山が撮りやすいですね。あと空が入るため、雲の動きやグラデーションの美しさも、朝夕の方がドラマチックで、予期せぬことも起こるので、その時間帯に撮ることが増えますね。

でもこういう(上写真)「ライフスタイル」や「人や生活の匂い」などは昼間に撮るとリアリティがあります。朝に撮る時は、夜中に出たり、車中泊などもします。

でも「ナイトハイク」が一番怖いですね。

坂田 ナイトハイクと言うのは?

高橋 撮影のため、夜の山に登るんです。当然ながら真っ暗な中、山の中に機材一式を持って入っていきます。

LEDライトを頭部につけているんですけど、動物の目がピカピカ光って、ほんとに怖い。ラジオや音楽をスピーカーで鳴らしながら歩かないとめちゃめちゃ怖いです。

「本当の闇」って、こういうことなんだなと。その暗闇で「ガサガサ」って鳴ると「ナニ、ナニ?」って。そのガサガサが聞こえないように、音量を上げたり、歌ったり(笑)。同じ場所に昼間にロケハンに行っていたとしても、夜はまったく違いますから。

坂田 動物に遭遇しますか。

高橋 遭いますね。鹿が特に多いです。熊はまだ出会っていませんが。鹿はここ1〜2年で増えている気がします。車の運転中にも遭遇しますし、先日は10頭くらいいました。

仕事と作品制作の相互作用

坂田 高橋さんは普段、博報堂プロダクツのフォトグラファーとして広告写真を撮られていますが、富士山をテーマに作品を撮るようになって、仕事への考え方などで影響はありますか。

高橋 あります。例えば、僕らは車の撮影もするのですが、「マジックアワー」での撮影は頻度も高いですし、重要な時間帯です。空のグラデーションを映り込ませて、質感や高級感を演出する車の撮影では避けて通れません。

この作品制作を通じて、夜明けと夕暮れをたくさん見ていると、マジックアワーにも色々あることに気づきました。太陽が沈みゆくグラデーションとその反対側のグラデーションだけでも発色が違う、となった時に、「車はこの位置に置いた方がいい」、「人はここがいい」など、よりクオリティを上げるための気づきや知識が身につきましたね。

「この時間設定なら黄色くなるな」、「この時間なら反対側は焼けるな」など、そういうことが感覚的にわかるようになりました。

人物はスタジオで撮影し、車は全て合成だったとしても、「背景や時間帯、シーンやリフレクションはこういう方がいいのではないか」と提案できる。広告写真は1点で伝えることも多いですが、その1枚に対する総合的なクオリティは上がったと思います。

スタジオ撮影での光の作り方って、光をディフューズすることが多いと思います。トレペとか、ビニールとか、アートレにしようとか。自然界には、つまり曇天や雲や霧など、本当に様々なディフューズがあります。「企画に合った光」「自分が欲しい光」をより丁寧に考え、細かな部分や一つの光を大切に作るようになりましたね。

例えば、光源の大きさはもちろん、「直射+トレペ」「傘トレ+ビニール」とか、方法は無限にありますが、「最終的な仕上がり」だったり、「伝えなければいけないメッセージ」のために、光をかなり意識するようになりました。

坂田 自然界の無限のグラデーションをたくさん見ることで、高橋さんの「色の分析力」が増している気がします。

高橋 それはすごくありますね。色の表現にも挑戦しています。世の中に存在する、見ることの出来る全ての色や組み合わせが富士山の廻りには存在してるのではないかとか。

例えば、富士山を撮っていて、黒と黄色、黒とオレンジが合うんだなあと思ったり。そうやって見ていくと、日常にも意外とその組み合わせが多いと気づいたり。

それは人物撮影にも活きていて、タレントさん、モデルさん、スタイリストさんやヘアメイクさんに対しても、自分の意見やアイデアをより明確に伝えられるようになりました。

その逆の作用、広告撮影で培った経験が作品制作に活かされることも多々あります。3分割法や黄金比、コピーを入れるための「間」とか、落ち着いて見られる画角とか。それを作品制作に活かしていることもあります。そこは「仕事」と「作品」で相互作用していますね。仕事だけ、作品だけでは、進化できないと思っています。

広告写真家が作品を撮る意味

坂田 忙しくて作品撮りや発表が出来ていない方も多いですが、先ほどの話のように、両方撮る意味って何でしょうか。特に作品を発表すると、そこには評価も批判もついてくるわけですが。

高橋 広告写真って「伝わらなかったら0点」だと思うんです。100点を求めて企業は高いお金を払ってくれていますし、「伝える」ためにあらゆる手法、手段を駆使し、それを突き詰めていくのが広告写真なんです。

作品制作も「伝えたい」のはもちろんですが、それよりも大事なのはまず「自分が満足しているかどうか」なんです。仕事は伝えるために満足出来ない部分があったり、自分と考え方が100%重ならなくても「伝わる方」を優先します。そこが大きく違います。作品制作は「自分のために突き詰めていく」ことだと思います。

どちらがいいと言うわけではなく、単純に両方をやっている方がいいんじゃないかと思います。自分を突き詰めることが「伝えること」を突き詰める事にも活きますしね。

撮影をオファーする側の変化

高橋 僕は博報堂プロダクツのフォトクリエイティブ事業本部という、広告畑で仕事をしているのでよくわかるのですが、昔は「この(話題の)広告を撮った人は誰?」ということで、調べられて撮影依頼が来ることが多かったと思います。

しかし最近は現場にいても、そうではなくなってきています。むしろアートディレクターも企業側も、個人の作品を見て「普段、こういう写真を撮る人」「こういう考え方をしている人」といった、“個人の姿勢” “個人の個性”をより重要視していると感じます。もちろん撮影実績も大切ですが、そういった依頼のされ方は以前より減ってきている気がします。

坂田 個人の考え方が重視されていく傾向ですね。

高橋 そう。「この人はどれだけ写真を愛しているのか」「職人として徹している人だ」「一緒に仕事をすると化学反応が起きそう」など。そういう実績だけではない、ソフト面での充実がオファーを多く勝ち取る要素に、さらになっていくと思います。

それはすごくいい傾向だと思っています。まだ実績を積めていない若いフォトグラファーも作品や考え方を評価されて、仕事を獲得したり、広げていける可能性が増えています。

自分は社内のクリエイターをマネージメントしたり、外部の人を探して提案する立場もあるので、「SHOOTING FILE」などを見る機会が多いんですが、仕事一辺倒よりも、作品を載せている人のページに目が止まるし、そういう人に興味を持ちますね。

富士山って、誰もが知っているとおり世界遺産に登録されています。その選ばれた理由の中に「芸術の源泉」という言葉があるんです。いま、この言葉の「重み」をつくづく感じています。

これまで数多くの作家、画家、写真家、映像作家が、富士山を描くこと、表現することにトライしています。僕も仕事に活かしていますが、違ったテーマやモチーフに対してのインスピレーションも多大に受けていると思うんです。

富士山に関連した芸術は、仕事や生き方、歴史ともリンクすると思います。先人たちは今よりもっと苦労して撮影し、文学における言語化や絵画なども努力されていたんだなと思います。ライフワークとして撮り始めるまでそんな世界遺産の言葉なんて、全然気にしていなかったのですが、最近はこの言葉と富士山の「凄み」を感じますね。

僕はまだその入り口に立ったばかり。これからも継続してこの山と対峙していきたいですね。

高橋秀行写真展 「3,776.12」
会場:ライカプロフェッショナルストア東京
会期:2024年1月18日〜4月20日(火〜土曜日 11:00〜19:00 日曜・月曜定休)
住所:東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル2階
URL:https://store.leica-camera.jp/event/event_ps-tokyo_hideyuki_takahashi

写真集「3,776.12」
アートディレクション:後 智仁(White Design)
判型:A3変型 300部限定
作品数:30点
価格:13,200円(税込)
販売:ライカプロフェッショナルストア東京

3,776.12
蒼穹の下、深淵にたたずむ3,776.12メートルの富士の頂。永遠と刹那、静寂と喧騒の間で無限の光景を纏う。纏うは数多の表情と艶。澄んだ空に青く輝き、赤く燃える薄明、純白の冷たい静寂、漆黒を貫く一閃の光芒。それらは永遠の物語か、一瞬の詩か。富士を前に問い続ける。富士は言葉ではなく、その存在そのもので語りかけてくる。ただそれを受け止め、自らの内なる世界を彷徨う。
それは一つの冒険。未知との対話、自己との再会でもある。答えの断片をつかむかのように、言葉にできない情景、説明できない
引力、触れることの出来ない抽象的な美しさ、その感情の全てを光と影の瞬間にとじこめていく。それぞれの瞬間が、永遠の中で
結びつくように。我々を見つめ続ける巨大な生命、富士。古の時代から未来へと、絶え間なく時を超えて語りかける。その存在は、
高さの数値以上の意味を持つ。3,776.12それはただの高さではなく、生命、時間、歴史、そして物質と精神の交差点を示す象徴である。
あなたの心の中に、新しい富士の風景が刻まれることを願って。

Photographer

高橋 秀行

福井県出身 日本大学芸術学部写真学科卒業。東京を拠点に広告ビジュアル撮影を中心に活動。独自の視点でテーマ、企画をユニークかつグラフィカルに昇華し、観る人の印象に残るライティング、カラー、フレーミングに定評がある。近年では、富士山をはじめ、日本固有のモチーフをコンセプチャルな視点から捉える撮影を精力的に行っている。
日本広告写真家協会 正会員。ニューヨークフェスティバル グランプリ、日本経済新聞広告賞 グランプリ D & AD 受賞 など賞歴多数。
2020年 写真展 「カラス」 LEICA PROFESSIONAL STORE TOKYO 博報堂プロダクツ フォトクリエイティブ所属。
https://www.instagram.com/hidephoto69/

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