プロフォトから新しく発売されたライトシェービングツール「OCFソフトボックス90cm Octa」「OCF ソフトボックス30x120cm」。
⼈物やスチルライフ撮影に最適なこれらの製品を使い、主にビューティで活動中のフォトグラファー八木淳さんに撮影を依頼。プロフォトユーザーでもある八木さんに、新型ソフトボックスの印象、光を作る面白さを訊いた。
Photo:Astushi Yagi(SIGNO) ST:Masumi Yakuzawa Hair:Koki Noguchi(Tron)
Make:uchiide(shu uemura) Model:ロンフォイ/希美(STANFORD) BTS Photo:谷川淳 Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
— 少し遡りますが、フォトグラファーを目指すきっかけから教えてください。
僕の場合は、若い頃は将来の夢みたいなものはなくて、ただ周りに美容師やダンサーなどの知り合いがいて、何かクリエイティブに携わる仕事をしたいなと、漠然と考えていました。
当時、気になっていたのがミュージックビデオ(以下MV)でした。「MVを撮りたいなあ」と急に思い始めて(笑)、その時は建築関係の仕事に就いていたのですが、土日を利用しながらムービー撮影のアルバイトをし始めていました。
地元の宮城では、映像を撮る仕事はブライダル関係のものしかなく、ムービーのアルバイトを土日だけしていたんです。それを続けているうちにそこの社長から「カメラ(スチル)も面白いからやってみたら?」と言われ、カメラを買って撮り出したら、それが意外と面白かった。
先ほど話した美容師の知り合いも多かったので、その人達と「作品撮りしようか」ということで撮ってみたら評判がよくて、その店舗のポスターとして使ってもらったり…。そういう撮影を続けているうちに、将来は職業にしたいなと徐々に思うようになりました。
建築の仕事をしていた会社の上司に「撮影の仕事に就きたい」と相談したら、都内レンタルスタジオ出身の方を紹介されて東京で話を聞き、「フォトグラファーを目指そう」と決めました。
— まずレンタルスタジオに入られたのですね。
そうです。自分が入社したのは月島のエガリテ スタシオンで、1年ほどお世話になりました。それが2001年頃です。
カタログ撮影が主で、ある程度パターン化していたので、1年間学んだ後、フリーのロケアシになりました。1年半ほど様々な撮影現場を経験し、そのあと富田(眞光)さんの所へ入りました。
— 富田さんの所で学ばれたことはなんですか。
まず撮影現場のライティングに驚きました。「ああ、これが自分が求めていた現場なんだ」と(笑)。ロケアシで入っていた頃は、カタログ撮影やベーシックな仕事が多かったので、富田さんのところでモデルやタレント撮影の現場を経験して、かなり刺激を受けました。
2000年頃は、デジタルカメラやMac、Photoshopを使ったレタッチの技術が盛り上がり始めた時代です。僕も撮影だけじゃなくて、レタッチも覚えたかったんですね。富田さんの名前はその当時は勉強不足で知らなかったのですが、募集職種がアシスタントとレタッチャーだったので、自分が望んでいたタイミングとご縁があったのだと思います。
— ビューティレタッチでは第一人者ですね。
すごい方だったということが、入ってからわかりました(笑)。富田さんのビューティレタッチは、今のレタッチテクニック界の基礎になっているし、僕もあの時に学んだ技術がいまもベースになっています。ロケアシをしていた当時は「このままフリーランスとしてデビューしたいな」とも思っていたのですが、しなくてよかった(笑)。
撮影やライティングに関しても「見て学べ」的なスタンスもありますが、富田さんは“なぜこのようなライティングになっているのか”質問すると、一つ一つのライトの理由を理論的に教えてくださるので、ものすごく勉強になりました。
直アシを辞めてからは、語学留学を兼ねてロンドンへ行きました。“一本立ちをする前に海外経験をしておきたい”という意味もありました。それで1年ほど向こうで生活をして帰国しました。パリも近いですし、欧州で写真やアートに触れて、たくさん刺激を受けました。
— プロフォトの製品はいつ頃から使われていたのですか。
月島のエガリテにプロフォトが入っていたので、写真を始めた当初からプロフォトのストロボは使っていました。おそらくPro-7が発売された頃だったと思います。僕にとっては使い慣れた機材と言えます。
— 帰国、独立後はどのようなカメラを使われていたのですか。
独立当初はキヤノン 5D Mark2を購入しました。ただデジタルカメラへ移行していく初期は、色の出方やバラつきで苦労しました。そのため仕事をがんばってフェーズワンを導入しました。経験がまだ少ない分、機材だけは最高のものを使いたいという気持ちがありましたね。
プロフォトに関しては2013〜14年頃に、ブツ撮りをやってみようかなと思った時だったので、D1を4灯購入しました。壊れないので今も普通に使っています。アタッチメントはオパ(ビューティディッシュ)やマグナムリフレクターも使っています。
物撮りを始めたきっかけとしては、土井(浩一郎)さんやSHU(AKASHI)さんのように、ブツをカッコよく撮られるフォトグラファーの活躍も以前から拝見していた影響もありますし、仕事の面でも人とブツの両方を撮れた方が、雑誌案件や広告プレゼンでアプローチできるかなという判断もありました。
2019年には「Y-EN」「A sense of Hong Kong」という写真展を開催しましたが、その後もちょくちょく作品撮りは行っています。
— 仕事としてはビューティが多いですか。
そうですね。ただファッションでお声をかけて頂くこともありますし、ブツ撮りもしますし、バストアップのジュエリーや時計などの商品を絡めた撮影もしますね。ただビューティは確かに多いですね。
— 新しいソフトボックスを使って撮影をお願いしましたが、テーマから先に教えて頂けますか。
今回は「virtual distance」というテーマで撮影をしました。SHOOTING編集長の坂田さんからのリクエストもあり、コロナ禍のビューティであったり、「日本」や「和」の要素を取り入れること、「若手が導入しやすい1灯ライティングでの見せ方」を考えました。
ただ純粋な“和テイスト”ではなく、欧米でもジャパンアニメやコスプレが流行っていますし、そういう要素を取り入れる事を意識しました。
ライティングに関しては「OCFソフトボックス90cm Octa」と「30x120cm」が新たに加わったということで、突飛なことをするというよりも、コンパクトで持ち運びしやすいアタッチメントを“王道的な使い方をすることでどうなるのか”を試してみました。
結論を先に言ってしまうと、コンパクトなソフトボックスでも、白ホリのスタジオで大きなライトを使ったような表現ができるのが良かったです。
— とは言え、シンプルな「1灯ライテインング」「Octa+ストリップ型 2灯」「Octa+ストリップ型 4灯」でそれぞれ表現して頂きました。
そうですね。まず「フロントトップからのOcta+ストリップ型2灯で両サイド」の光は、王道的なポートレート。ビューティに特化した「1灯+レフ」、「全身のラインにハイライトを入れながら、5灯での作り込み」と、それぞれ違います。
使用したソフトボックスのサイズは比較的コンパクトじゃないですか。でも光質は光源と被写体の距離感で変わるので、やり方によってコンパクトさをカバーできるんです。なので、使い方次第です。
— ストロボ本体はB10 Plusを使って頂きました。この撮影のようにライトを近づけて撮る場合は、最大出力よりも最小出力(〜1Ws)まで絞れることの方が重要かもしれないですね。
寄りであればまったく問題ないです。むしろ出力を絞れることで調整しやすいですし、最大500Wsあれば安心です。カメラの感度が上げられる今は、バッテリーストロボのメリットを最大限享受できますね。
— 「1灯+レフ」の時は、芯を下向きに外して撮影されていました。
このケースは、1灯だけれども2灯に見せているんです。被写体の顔部分は芯を外した周辺光で照らし、芯部分の光は反射率の高い大きめのレフで起こしてあげる。そうすることで、レフに反射した光は“補助光ではなくもう1灯当てる”ような役割を与えています。
黒バックで1灯ライトだと、シャドーが落ちやすいし、締まり過ぎてしまう。それを狙う場合もありますが、下からも光を当てることでちょうどよいやわらかさにできる。特に今回はモデルが2人入っているので、少し広めの面で当てるように意識をしています。
ただ光源を近づけ過ぎると銀レフの受ける光の面積が小さくなるので、ほどよい距離感にしているのと、自分が所有する銀レフは強く反射するので、レフ自体にカバーをして少し反射を抑えています。
— 「Octa+ストリップ型 2灯」の方は綺麗なポートレートに感じました。
そうですね。こちらはオーソドックスなライティングです。フロントトップから芯で当ててあげて、両サイドから髪や体のラインにハイライトを入れています。メインのOctaをストレートに当てることと、先ほどよりライトの距離を離しているのでシャープな印象になっています。
このカットもレフは使っていますが、こちらは距離をとって少し起こしているだけです。先ほどの1灯の場合は2灯的な役割を与えていましたが、こちらは補助光的な意味合いがあります。
— セッティングする際に、露出計で測られていましたが「光を作るのが早い」という印象でした。ライトの位置も微調整しながらも詰めるのに迷いがないですね。
ありがとうございます。他の方のやり方がわからないので自分のペースではやっています。今は、モニターに写真がすぐに出るので、第一印象がすごく大事だと思っています。
モデルが入って、撮影した写真がパッと出てきた時に「なんかな…」となるよりは「いいね、これ!」ってなった方が、みんなのテンションが上がりますよね。
最初は抑えて徐々に詰めるよりも「一発目にいい写真を見せる。」これは大事だと思っています。その方が、さらにそこから仕上げのクオリティを上げていける可能性もあるじゃないですか。
— 八木さんは元々、RFi ソフトボックス Octa 150cmを所有されているのですね。
150cmのOctaはよく使います。大きな面で近づければ、やわらかい光を作りやすいですし、中に仕込んであるディフューザーを抜くだけでも堅くなります。150cmあると、作れる光の振り幅は広がるのでスタジオでは使いやすいですね。
今回のような寄りカットでしたら120cm、90cmでも使えますし、ロケにも持っていきやすい。でもさらにやわらかくしたいと言う時には、150cmの方がより調整しやすいですね。ただ天高も考えると、120cmか新製品の90cmがあった方がいいなって、思いました(笑)。
— 3シーン目は「Octa+ストリップ型 4灯」で、計5灯使われていました。
そうですね。手前の30x120cmの2灯は、起こし用です。引きでレフ板を使うとムラができますが、細長だと光が均等に当てられますし、出力も微妙なコントロールができるので、どのくらいの強さで服を見せるのか調整しやすいですね。
ブツ撮り以外で、ストリップ型を使ったのは初めてでした。スクエアのソフトボックスで多灯すると場所をとるので使いづらいんですよね。でもこのサイズだとコンパクトだし、ストロボ自体がモノブロックバッテリーなので、場所をとりません。
撮影シーンを見て頂けたらわかりますが、このスペースで5灯使えるのは驚異的だし、コードがないので動かしやすい。壊れないのでD1を使っていますが(笑)、B1XかB10も欲しくなりました。
トップのOctaも頭にかなり近いところから当てています。仕上がりの写真だけを見ると、まさかこんな頭に当たりそうな距離で打っていると思わないんじゃないでしょうか(笑)。もっと大きなスタジオで、面積の広いトップライトを当てている感じに見えるんじゃないでしょうか。
— 「virtual distance」の設定も詳しく教えてください。
世界中がコロナ禍で、人と会うことが難しい状況が続く中、最初にお話ししたアニメの要素を取り入れる流れで「人との距離を気にするようになった女の子が、リアルドールの女の子に仮想的な恋愛感情を描いている」というストーリー設定をしています。
モデルのロンフォイさんはいま、地毛がスカイブルーなんです。このコンセプトを思いついた時に、人形役としてすぐにロンフォイさんが浮かびました。希美さんはドールに恋しているのだけど、ドールには恋愛感情がないのでどこか虚げな表情をしていますよね。その微妙な距離感が出せたらいいなと思って、撮りました。
— 八木さんにとって「光を作る魅力」ってなんでしょうか。
作品制作では自然光で撮るのは良いと思います。ただ仕事であったり、僕の場合はビューティを撮る仕事だと、色の発色であったり、肌やメイクのグラデーションがとても重要になります。そこの技術を持っていないと仕事としては成り立たないんです。
突き詰めていくわけではない、感覚的に作る流行のライティングも、今っぽくてアリだとは思います。ただ技術的なことを知っていて崩していくのか、知らないから出来ないのでは違いますね(笑)。できない中で続けていくよりは、光を作る面白さや難しさも知っていた方が仕事もしやすいし、基礎が出来ているからこそ崩しても担保できるクオリティってあると思います。
強い個性が際立てばその時は注目されますが、流行って移ろうので、一つの方法だけではなく基礎からしっかり学んで応用していくのが重要ですね。
— 長く仕事を続けていく上で、技術を学ぶのは大切ですね。
フィルムの時代は感度もそれほど上げられず、ストロボって“光量を補うための道具”だったわけじゃないですか。デジタルカメラで感度を上げて撮れるようになり、ストロボの役割自体が変わってきていると思うんです。
ビューティを撮っているフォトグラファーとして思うのは、タングステンやLEDなどの定常光もある中で“ストロボならではの光質”もあると思っています。
大型の定常光は光量の調整が難しいし、ストロボの方が光量も光質もコントロールしやすいので、ムービー連動の仕事以外では僕はストロボを使いますね。
B1XやB10を数灯使うのと同じ光量をHMIで作るとなると機材も費用も大きくなりますからね。それをこのコンパクトで使えることを考えれば、スチルに関してはストロボに分があると思います。
— 定常光とストロボではビューテイにおいて違いはありますか。
肌への光の入り方とか、キメの出方とか、ストロボならではものがあると思います。キメの中まで入っていく光の質がLEDやキノフロよりもストロボの方が突き刺さるというか、堅さというか直進性みたいなものを感じますね。
— プライベートスタジオを持たれて半年ほどと伺いましたが、なぜ作ろうと思われたのですか。
もともと数年前から探してはいたのですが、コロナ禍で後押しされた気がします。昨年6月頃から医療従事者支援のため、プロモデルを対象に撮影費を頂きポートレート撮影をし、その料金を全額寄付するというチャリティー撮影「Y-EN Blue project」を企画しました。
その活動でたくさんポートレートを撮っていく中、「プライベートスタジオがあればいいなあ」とより強く思い始めました。
あとコロナ禍で撮影業界も影響が出てきているなか。我々クリエイターはオファーされて仕事が発生するわけですが、呼ばれるのを待つだけでなく、呼び込むことをした方がいいかなと考えました。その思いとプロジェクトの事とか、自分で人を呼べる環境作りが大事ではないかなと。
さらに人と会えない、3密回避などでモデルが活動するオーディションが減って、コンポジがより重要になっていたこともありました。メインで使われる写真もできるだけ目に留まるものであった方がいいわけです。そういう考えから自分が撮影できる環境があれば、という思いもありました。空いている時間があれば作撮りにも使えるし、今後はレタッチやライティングなどのワークショップを開く計画もあります。
仕事で「夏の光でお願いします!」と言われるじゃないですか(笑)。自分たちは「分かりました」と簡単に作っていますが、深く考えると実はけっこう難しいんですよ。白ホリって天井に照明がついていて明るい環境ですが、ストロボの世界って“理論上は真っ暗な世界で光を照らす”わけじゃないですか。暗闇の中で光を作るのは、見えているようで見えていないわけで、簡単ではないです。例えて言うなら真っ暗な河川敷で「夏の光を作ってください」と言われているのと同じことなんですよね。
光のまわり方、距離感、角度、出力、アタッチメントなど、光の作り方は経験を積んできたからこそできる技術。僕らの仕事は常に塁に出ないといけないので、最低でもヒットなんです。三振したら次は声がかからないですからね(笑)。カメラマンはカメラや機材がないと表現ができない職業、そういう意味では、プロフォト製品は僕にとってはカメラと同じ必需品です。新しいツールと共に自分も進化していければと思います。
OCF ソフトボックス 90cm Octa / 30x120cm
OCF ソフトボックス 90cm Octa
OCF ソフトボックスオクタ型は、円に近い形状で、被写体の眼に⾃然なキャッチライトを⼊れるため、ポートレート撮影に最適。すべての辺から均⼀な硬さの光が広がり、⾃然な仕上がりになる。オプションのソフトグリッドを使⽤すると、さらに精度の⾼いライトシェーピングを実現する。
OCF ソフトボックス90cm Octa:31,680円(税込)
OCF ソフトグリッド50° 90cm Octa:18,480円(税込)
OCF ソフトボックス 30x120cm
OCF ソフトボックスストリップ型は、⻑辺の光は明部から暗部への落ち込みが緩やかで、短辺の光は落ち込みが急になる。これにより背景から被写体が浮かび上がるため、エッジライトやリムライトとしての使⽤に最適。この効果は、⼈物の輪郭を際⽴たせたり、物体の曲線を強調したりする際によく使⽤される。
OCF ソフトボックス30x120cm:31,680円(税込)
OCF ソフトグリッド50° 30x120cm:18,480円(税込)
Photographer
八木 淳
1977年 宮城県生まれ。
2001年 エガリテ スタシオン 勤務。
2003年 富田眞光氏に師事。
2006年 渡英。
2007年 帰国後から本格的にキャリアをスタート。
Beautyを中心にファション、ポートレート、スティルライフなど幅広いジャンルを手がけ、活躍の場も広告、雑誌、ムービーと多岐にわたる。
2019年6月、初の個展「Y-EN」「A sense of Hong Kong」を開催。
http://www.signo-tokyo.co.jp
https://www.yagiatsushi.com