「KYOTOGRAPHIE」は初参加なんですね。
そうなんです。新型コロナの影響で、展覧会が9月まで延期になりましたが、当初は5月開催の予定でした。実際は2019年の春頃に「京都のお寺で展示してみませんか」とお声をかけて頂きました。
会場となる妙満寺は「雪の庭」と呼ばれる枯山水の名園があるお寺で、京都三名園(雪月花)の一つと呼ばれています。花の庭は現存していませんが「月の庭」は清水寺にあります。
妙満寺は、もとは京都市内の中心地にありましたが、昭和43年に「昭和の大遷堂」を挙行。現在の岩倉の地に移ったそうです。
京都市内から少し北に上がる感じですが、敷地も広く、本堂からは比叡山が真正面に見える素敵な場所です。そこの大書院での展示になります。
お寺での展示は趣がありますね。
初めは、お寺のイメージから“敢えて遠ざける”ことを考えたり、この空間で何を体感してもらうのか模索しました。ただ「雪の庭」のあるお寺で、雪山の和風な作品を静かな気持ちで観覧できる「荘厳な自然の写真」を観て頂くことが良いものになると感じました。大自然の景色の中に自分の身を置くと、いつも例えようのない畏敬の念に打たれて立ちすくみます。それを再体験する空間にしようと思いました。
KYOTOGRAPHIEのほかの展示会場から、ひとつだけ離れた場所に位置するので「妙満寺まで出かけて見たい写真」、落ち着いた広い空間で浄化されるような、お寺に沿ったテーマにした方がいいと判断しました。
コンセプトはどのようにして考えたのですか?
自分たちの住むこの場所は、忘れがちですが実は天体なんですね。“星に住まわせてもらっている”感覚を、もう一度お寺で呼び覚ましてほしいと思い、これまで発表してきたシリーズに新作を組み合わせています。やはり今回は特別にお寺という空間や、その場の空気や風を感じながら、体感してもらうという環境が、コンセプトに大きく関係しています。
お寺は掲出するための「壁」がないですね。
そう。巨大な日本家屋なので、構造が柱と梁と襖なんです。壁にかけられないデメリットをどうするか。「雪の庭」が枯山水なので、「白砂に岩が点在」しているかのような展示イメージを膨らませていきました。
それで、写真を枯山水の岩に見立てたような配置にしてみようと計画しています。
なるほど!
枯山水の庭園の中に、自分が入っているような感覚を味わって頂けないかなと思っています。枯山水の回遊式庭園のイメージです。
あと襖絵ならぬ、「襖写真」を作ります。
襖写真! 確かに壁がないので襖か屏風しかないですね。
昔の人も襖に絵を描いたのは、そこしかなかったからでしょうね。
基本的には照明を入れず、自然光のやわらかい光のみにしています。少し暗くなるけれど、徐々に目が慣れてきて、そこに絵が浮かび上がってくるような見せ方をするつもりです。
3年前「FLAME/SURFACE(2017)」という展示をしたじゃないですか。それは噴火した火山が、地球内部からのエネルギーによって山を形成して、という場所を撮っていたわけです。ガスが噴出しているところとか。
展示する作品は、成層火山を撮ったものです。大地は黒くて、そこに雪が積もっていて雪解けで所々地表が出てくる。それが枯山水の岩のようにも見えてくるような場所を狙って撮った写真です。
雪山の写真を使ったプリントを襖に加工しているのですね。
そうです。本当は襖なので和紙でやりたかったのだけど、大書院の襖は一般家庭のものとはサイズが違ってかなり大きいこともあり、その大きさに見合う和紙がなかったので断念しました。
改めて見ると、お寺の襖って大きいですね。
そうなんです。近くで見ると吸い込まれるくらい大きいです。出力した紙もマットではあるので、雪と山肌が白と黒の水墨画のようにも見えてきます。
山肌の陰影が立体的で、外からのやわらかな自然光で観覧して頂きます。妙満寺の江戸時代からの時空を超えて、溶け込んでくれるといいですね。
(上)これは南極の写真です。4×5でパノラマ風に撮った7連シリーズです。大地に雪が積もっていますが、温暖化で少し溶けてきている状況を捉えています。
こちらの部屋は『GRAIN OF LIGHT』という海のシリーズで“海の波動”を撮ったものです。
展覧会『GRAIN OF LIGHT』 インタビュー(アーカイブ)
全てに共通するのは「生命としての地球」をコンセプトとして撮っていて、それが「仏の永遠性」という法華宗としてのお寺の概念とも合っている気がしました。
小さな3畳の部屋もあります。日本って、茶室のような空間でのもてなしとか、狭い空間に宇宙を見出したりしますよね。そういうことをこの三畳間でやりたいなと思っています。
ここでは自分なりの「枯山水の庭」を作る予定です。無垢の透明な立方体を漆黒の空間に浮かせ、その上に「光学ガラス」の塊を岩に見立てて配置していきます。この展示では透明なお庭に海を想像し、透明な山をのぞき込むと、火山の映像を観ることができます。
部屋によって趣が変わるので、来場者も楽しめそうです。
上の間では暗い空間で映像を流します。また、フレームの両サイドにLEDを仕組んだ写真を展示します。
雪山を見た後に南極とアイスランドの大地、そして噴火した火山の溶岩の上に苔が再生してきている大地。一度リセットされた大地に、そこから小宇宙をのぞむインスタレーションも予定しています。
BluetoothスピーカーがついたLED型のグラスサウンドスピーカーに、オリジナルで制作した提灯風のじゃばらをつけました。自作です(笑)。
青い海の映像に、行灯からの淡い光の揺らぎ。そこから聞こえる坂本龍一さん作曲の環境音楽。この空間も楽しんで頂けると思います。
「KYOTOGRAPHIE 2019」に行った際、二条城 二の丸御殿 御清所で開催していた、イズマイル・バリー氏の展示の中に「小さな穴から映像を見る」という作品があったのね。部屋がほんとに暗くて、目が慣れてもどこを覗けばよいのかわからないくらい暗かった。
ご高齢の方が見に来て下さることも考えると、安全面にも配慮しないといけないですよね。でも、ただ場を照らすだけではなくて、音に囲まれる感じも面白いと思います。お寺というのは独特の空間だし、普通に写真を並べるのではなく“体感できる展示”にしたつもりなので、他ではできない特別な経験になるかなと。
企画を考えるにあたり、妙満寺のミニチュアを作って色々シミュレーションをしたんだけど、お寺という日本の伝統的な建築構造(環境)の中で、自然光や人工光源をどう活かすかとか、楽しみながら制作しています。
様々な工夫があって、展覧会というよりもインスタレーションに近いですね。来場者も観るだけでなく、深く印象に残る展示になりそう。
ありがとうございます。展示内容とは離れますが、最近「アルコール消毒してください」と、消毒液を施設の入り口に置いてあるじゃないですか。でもあれって説明的すぎて、お寺の入り口に置いておくのはどうかなと思っていたんです。
それで、こんなものも作りました。
これは、まさか自主製作?
そう。何かいい方法がないかなと思って(笑)。
妙満寺の入り口に、和風の“オリジナル消毒スタンド”を作りました。消毒液を置く台も、普通は下から支える“つっかえ棒”が必要だけどそれはやめて、少しずつ大きさを変えた板を設計し、そこに消毒液の機械がちょうど収まるような台を製作しました。
消毒液のスタンドまでオリジナルとは! やりきってますね。
デザイン的でもあり、和でもあり、強度も確保したスタンドになっています。
お寺にも主催者にも、ここまで頼まれていないよね(笑)。
頼まれていないです。でも、いかに説明的にならないように「シャレが効いているなあ」と出来るかなぁと思って考えていたら、ここまでになりました。
4〜6月頃までは「コロナって怖い」とか「出歩きたくない」とか、人々の感情がかなりネガティブになっていたじゃないですか。でもその状況を受け入れるしかなくて、それを「プラスに転換していく」ことをこれから考えていかないと、気持ちで負けていってしまう気がするんです。
展示にはステートメントも必要ですが、それを敢えてお寺の中に貼らないで、展示を見終わって靴を履いて出る時に目に留まるよう、このスタンドの裏側に書いてあります。そこにも秘密があるので、是非観に来ていただきたいです。
「案内用(消毒)スタンド」さえも来場者に楽しんでほしいという工夫はすごい。
「KYOTOGRAPHIE」は今年の5月に開催される予定だったから、お寺の中の展示内容は、2019年にはほぼ固まっていたんです。でも9月まで延期になり「with COLONA」時代になってしまった。
そうなった時にコロナを無視するのではなく、何か新しいものを加えたいと思って、自粛期間中に「菜の花」を撮ったんです。それが最新作になります。
「緊急事態宣言」下で外に人がほぼいない状況の中、自分自身も、花でも撮らないとおかしくなりそうな気分の中で撮影していました。展示に入れる予定はなかったのだけど、急遽加えることにしました。
「星」としての険しい変化の途中を撮っている作品が多いわけですが、そこをコロナ禍とかけて、「冬の厳しい状況を経て、春が来ること待つ。」という希望を込めています。それを床の間に展示しているので、これも見て頂きたいです。
前を向くというか、ポジティブに考えて生きていこう、という想いが伝わりますね。
今後何かを発表していく上で、コロナを避けて通れないというか…。新作の発表も、僕からのメッセージの一つです。
Sferaで開催する「LAND SPACE 2020」について教えてください。
妙満寺は市内から少し北に位置しているので、そちらに興味を持って頂くために、急遽河原町のギャラリー Sferaでも展示することにしました。「LAND SPACE 2020」というタイトルで、こちらを先に見てもらった方が、妙満寺の展示もよりわかりやすくなるのではと企画しました。
「LAND SPACE」は「SHOOTING」でも以前紹介しました。
「LAND SPACE」は、東京、名古屋、福岡等、色々な場所で展示をしているので、Sferaでは少し工夫をしています。
ロケット風のギャラリーのエントランスを入ったところに、スペースシャトルのインスタレーションを展示します。
かなりリアルですね。
そうなんです。宇宙って空気がなくて光を反射しないから、影の部分は漆黒の闇じゃないですか。だから影が真っ暗になるんです。ギャラリーはスポットライトを当ててその影に合わせて黒く塗装してます。
フランスのアーティスト「イヴ・クライン」の作品で有名だったイヴ・クラインブルーの販売が開始されたので、NYから取り寄せました。この顔料をオービターの背景壁面に塗布するので、実際には相当強いブルーに感じるはず。
地球を背景に浮いているオービターを、鑑賞者はさらに俯瞰して見ることになるでしょう。
こだわりがすごい。
その横には俯瞰したような海の写真、後ろを向くと、斜めの台に設置したスペースシャトルの発射の写真が連なって見えるようにしています。
その先が火山写真。地表から噴出している青い炎(ガス)の火山って、地球を構成する要素でもあるので、それって規模がどんどん大きくなると「星の光」と同じなわけです。それを増やしていくと、星になって星雲になっていくわけじゃないですか。なので、スペースシャトルが星雲に向かって飛んでいるように見せたい。そういうコンセプトで展示しています。
Sferaの展示だけでも楽しんで頂けると思いますが、よく考えたらこれは「妙満寺」に出かけて頂くためのフックでもあります(笑)。展示を見た後、階段から1階に降りる場所にも“ある仕掛け”をしているので、それは会場で見て欲しいです。
地球誕生からの時間で見た場合、新型コロナもその歴史の一つでしかないのかもしれないね。
文明の極致が宇宙事業で、もう一つは太古からの星としての活動がLANDなわけです。「LAND SPACE」はそれを合わせたシリーズです。東日本大震災では、地震や津波という自然現象があって、それによって原発事故が起こったのは「自然と人工」という構図ですよね。
僕はそういう対極に興味がって、今回のコロナ禍でも、地球の長い歴史と(その歴史からすると)つい最近急激に進化した人間との間でおこるウイルスや細菌との関係性も、似たようなことを感じています。
実は「太陽を観察できる超望遠鏡」を持っていて、それで太陽のコロナを捉えようとしています。日本で撮るのは偏西風や空気の淀みでなかなか難しいのだけど…。
生命の源って太陽があるからこそ、じゃないですか。新型コロナウイルスって、電子顕微鏡で見た姿が太陽のコロナと似ています。ミクロとマクロの対極の姿が似ているという。まさにイームズの「Powers of Ten」の世界ですよね。そんなことも考えながら、是非この二つの展示を楽しんで頂きたいです。
CHAOS 2020
会場:妙満寺 大書院
キュレーター:太田菜穂子
住所:京都市左京区岩倉幡枝町91
開催期間:2020年9月19日〜10月10日(会期延長決定 10/18まで)
開館時間:9:00〜16:30
入場料:500円(小中学生 350円)
※入場は閉館の30分前まで。
URL:http://myomanji.jp/
LAND SPACE 2020
会場:Sfera
住所:京都市東山区縄手通り新橋上ル西側弁財天町17 スフェラ・ビル 2F
開催期間:2020年9月19日〜10月11日(会期延長決定 10/18まで)
開館時間:12:00〜18:00
休廊:9/23、24、30、10/1、7、8
入場料:500円(KYOTOGRAPHIEパスポート提示で200円)
※入場は閉館の30分前まで。
URL:https://www.ricordi-sfera.com/
KYOTOGRAPHIE
https://www.kyotographie.jp/
Photographer
瀧本幹也
1974年愛知県生まれ。
藤井保氏に師事の後、1998年より写真家として独立し、瀧本幹也写真事務所を設立。
以後、広告写真をはじめ現代美術や、映像では映画やコマーシャルフィルムなど幅広い分野の撮影を手がける。
http://mikiyatakimoto.com/