富田さんの最近のお仕事を教えてください。
基本的にビューティの撮影が多いです。人物の肌とか女性の美しさを引き出していく仕事です。それだけに肌の質感やトーンはとても重要視していますし、一番気を使っている部分です。
現在はビューティ撮影が多いとのことですが、そこに行くまでの流れはどのような感じだったのですか。
以前は雑誌の仕事をしていて、ELLE JAPONやマリ・クレール、流行通信とか、ファッションフォトが中心でした。もともとはヘアメイクになりたかったんです。
ヘアメイク志望だったのですか。
そう。それで最後までヘアメイクになるか、フォトグラファーの道に進むか、ずっと2択で悩んでいました。
撮影する道を選び、フォトグラファーとしてファッションを中心に撮っていましたが、ずっとメイクの事も引っかかっていて…。ビューティの仕事(撮影)をすると、ヘアメイクの考えていること、クライアントの望んでいることが、手に取るようにわかるんですよ(笑)。
コスメに興味があった事はフォトグラファーの仕事としても意味があったし、クライアントとの信頼関係も築いていけたかなと思います。別にファッションをやらなくなったわけではないんですけど(笑)、その流れで徐々にビューティの仕事が増えてきました。
リーマンショックがきっかけで、またファストファッションの台頭もあり、アパレルの力が徐々に弱くなってきていると感じていました。それに対してスキンケアやコスメは堅調ですよね。そういう時代の流れもあったと思います。
化粧品は消耗品なので、減ったら買い足しますよね。
そう。だからなくならないんです(笑)。それに一度良い化粧品を使うと、もうそれよりも下のクラスには落とせなくなってしまう。
女優も、コスメブランドに出られるというのはステイタスとしても意味があります。「美しい人」って認められたわけだから、そのアウトプットには力が入りますよ。
富田さんが撮影で気をつけている、こだわっている部分って何でしょうか。
広告の場合は、モデルの顔の向きや、どこに商品やコピーが入るかなど、ある程度絵コンテが決まっています。
それに沿う方向ではありますが、自分の中で「ベストなものが撮れるまで撮影を終わらせない」という覚悟で臨んでいます。
雑誌の場合は少しゆるい感じの方が「いい味」出すこともあるけれど(笑)、広告は「何が何でもキレイな写真を撮る」という信念みたいなものがあるんです。撮られる女優さんも気合いが入っていますし、フォトグラファーとして第一線で活動を続けていくためには、妥協しないことです。
例えばこのSOFINAでいうと、1シーズンで女優は一人しか起用されません。たくさん女優もいる中で、春夏に一人、秋冬に一人だけなんです。なのでクライアントはもちろん、被写体のためにも「一番ステキな写真だ!」と思ってもらえているかどうか。撮られる側に「う〜ん」とか、不安があるままで終わらせたらいけないし、「皆が納得するまで撮りきる」という事を心がけています。
ちなみにカメラは何を使われていますか。
最近はフジのGFX100、GFX50s、ニコンZ7あたりが多いかな。広告の場合、人物以外にも背景や、コピー、製品写真が入るので、人が中央にいることが少ないんですよね。
GFX100は1億画素クラスのセンサーサイズなのに周辺でもAFが効くので、これを使いだすと他のデジタルバッグに戻れなくなってしまう(笑)。
今回、BenQの新製品「SW321C」を数週間使って頂きました。まず率直な印象を教えてください。
ずばり言うと、クオリティに対してコストパフォーマンスが高いと思いました。
広告撮影の場合、現場ではフォトグラファー用、クライアント用と、モニターを2〜3台繋いで使います。「SW321C」の実勢価格を見ると、22.5万円(税込)くらいじゃないですか。例えばアップルの新しい32インチシネマディスプレイ(Pro Display XDR)だと、マットスクリーンタイプで約66万円(税込)ですからね。しかも別売りのPro Standを付けると約77.7万円!(税込)。この価格だと、3台買えますからね。すごいです。
安いから性能が悪いのかって言ったら、そんなことはなかったです。私の運営しているGO-SEESのレタッチ部門、Pygmalionでは、EIZOのColor Edgeを使っていますが、Color Edgeと比較しても遜色なかった。大きな違いはオートキャリブレーションが付いていないだけです。
光源ムラについてはいかがですか。
撮影現場では、クライアントも一緒に写真をセレクトしていくわけですが、よく2枚の写真を並べて表示します。それで「どちらがいいか」という比較をして絞っていくわけですが、左右(両端)の色と明るさが変わらないのがすごくいいですね。
うちの今使っているモニターだと、向かって左側が明るいんですよ(笑)。そうすると左に置いた写真の方がキレイに見えちゃう(笑)。皆さん「左の方がいい」ってなるわけです。
BenQからお借りしたこのモニターは、ユニフォミティ(均一性)がちゃんととれているので、使いやすいです。
キャリブレーションのPalette Master Elementも、ダウンロードして使ってみましたが、簡単ですごく使いやすかったです。
ひとつ思ったことは、キャリブレーションをする際にColor Edgeのソフトだと「印刷用」という選択項目があるんです。Palette Master Elementもケルビンやルクスを調整できますが、日本の印刷環境を想定した「5000ケルビン、ガンマ2.2、80〜120カンデラ」あたりの設定が「印刷用」ボタンでワンクリック設定できるとさらに便利です。
フォトグラファーによっては、現場での写真の見栄えをよくしたいために、カンデラの設定を上げがちなんです。でも一般的な商業印刷では再現できない色域もあって、そのまま作業すると、後で困った結果になってしまうかもしれません。
「印刷用」というセッティングがあれば、そのモードで現像、レタッチすれば、例えばWebサイト用には「A」を納品して、印刷用には「B」を納品するというように、デザイナーに写真を渡す際もスムーズに作業が進められます。ソフト上で改良できることなので、アップデートで対応して頂けるとよりいいかなと思います。
BenQのカラーマネジメントモニターでは初めての32インチです。
32型のサイズ感はいいですね。いまレタッチは27インチモニターを使っていて、撮影現場ではアップルの30インチを使用しています。現場は派手な発色で見栄え良く、でもレタッチは印刷に対応した環境で、という使い分けです。
カラーマネジメントモニターで、32インチで4Kだと、もっと高くなりそうですが、かなりコストは抑えられていますよね。それができる理由が知りたい(笑)。
メーカーとしては必要な機能は入れるけれど、オートキャリブレーションは省くとか、割り切って考えているとのことです。
それは良いかも。キャリブレーターも安くなっていて3万円くらいからありますね。我々は内蔵キャリブレーションはあまり使わないんですよ。
そうなんですか?
精密に色を合わせるには、結局「ハードキャリブレーションを定期的に行う」のが必須なんです。だったらその分、価格が安い方が助かる、という考え方はありますね。
簡易的にはできるので、週一でオートキャリブレーションを実行しますが、プリンターとも色合わせをしないといけないので、結局月に1回はハードキャリブレーションをとるんですね。だったら内蔵でなくても、いいかなと思います。
視野角は上下178°でほぼ水平です。
視野角が広いのはいいですね。斜めから見ても、上から見ても色のトーンが変わらない。写真をセレクトする際に、写真を複数表示して何名かで見ても、見え方が同じなので作業がはかどります。地味に思えて、こういう所が大事なんですよ。
SW321Cは4Kモニターですが、富田さん的には解像度は足りているのか、もしくはそれほどなくてもよいものですか。
レタッチ作業は拡大表示して行うので、4Kの解像度はそれほど意識しなかったですね。ただ仕事で使うデジタルカメラ自体が1億画素クラスになってきている事を考えると、4Kはあった方が良い気がします。
これは伝わるか微妙ですが、フォトレタッチをする時に「画像をつかみやすい」というのがあるんです
「画像をつかみやすい」とは?
製品によって、ムラがわかりづらいとか、キレイに仕上がっているのかよくわからない(感覚的なものも含めて)感があるんです。うまく言いづらいのですが。
EIZOのモニターでも、安いシリーズの製品でレタッチすると画像を掴みづらいんです。でもColor Edgeの高いモニターだと、細かい部分までムラがわかったり、描写力が高いと作業がしやすい。これは実際に使ってみるとすぐにわかります。
今回「SW321C」でレタッチをしてみましたが、EIZOのハイエンドシリーズと遜色なかったです。ピタッときました。価格が安いので、そこはいい意味で驚きました。
32インチって、いま使っているApple Cinema Display 30インチよりも少し大きいんですよね。たった2インチの差なんですが、かなり使い勝手が違います。先日某スタジオで撮影した際、60インチの大型モニターで写真を選んだのですが、それだとセレクトも早くできました。
32インチは、日常的に使うサイズとしては最大なので、写真をたくさん並べてセレクトもしやすいですし、レタッチルームにデザイナーやクライアントが来た時でも、大きいと見やすいですよね。もしかしてプロには万能かもしれない。
これを使いだすと「大きいのっていいな」って思いますね。持ち出す移動のことさえ考えなければ(笑)。
AQCOLORシリーズは、3年保証+センドバックサポートがあります。
それもいいですよね。仕事に支障をきたすわけにはいかないので、有料でもすぐに代替機を貸出してくれるのは安心です。有償サービスを始めたのはここ2年くらいだそうですが、プロサポート的なサービスはやっぱりあれば嬉しいですよ。
若手フォトグラファーへもオススメできますか。
最新の32インチで22.5万円は魅力的な価格だと思います。大きさもいいしね。ただ若手にもColor Edgeやプロフォトあたりはデフォルトになっているので、銀一やヨドバシカメラなど常設されているショップで、自分で触って体験してみて欲しいね。
BenQは27インチで、6万円代からハードウェアキャリブレーションに対応した製品があるようなので「ファーストカラマネモニター」を導入するなら、そこからスタートしてもいいと思います。
今後、BenQに期待することはありますか。
フォトグラファーはもちろん、デザイナーやデザイン事務所が導入してほしいです。デザイン事務所って、27インチのiMacで作業しているところが多いんですね。それでこちらがレタッチ途中の写真を送ると「赤いですね〜」とか言われちゃう(笑)。でもこちらはキャリブレーションをとった正しい色味で作業をしているので、おかしいのはデザイナーのモニター環境なんです。
写真の色味やトーンを共有して方向性を決めていくので、「同じ色で見る」というのはめちゃめちゃ重要なことなんですよ。でも「正しい色味のモニターを使う」という認識が、デザイン業界にはまだあまりないので、是非デザイン事務所に広げていって頂きたいです。
特にRetinaは発色が派手ですが、表面のパネルもギラギラしているじゃないですか。でもこのSW321Cの新型パネルは、ほんとに無反射というか黒いというか、スーパーノングレアですね。自分の影も写り込まないのですごく作業がしやすい。目も疲れにくいので、四六時中モニターを見ているデザイナーやレタッチャーには是非使ってほしいです。後は良い製品を出し続けていくことで、ブランド力は自然と上がっていくと思います。
BenQ SW321C
主な仕様
32インチ 3840 x 2160 (4K UHD)の解像度
正確な色再現を可能にする「AQCOLOR」技術採用
Adobe RGB 99%, DCI-P3/Display P3 95%, sRGB/Rec.709 100%カバー
CalMAN認証およびPANTONEカラー認証取得
Palette Master Element(無料ダウンロード)によるハードウェアキャリブレーション
視野角(左右/上下)178°/178°
10bit(約10億7,000万色)カラーディスプレイ
HDR10 / HLG対応
USB-TypeCポート搭載(60W給電可能)
遮光フード(縦・横)を標準装備
Photographer
富田眞光
1960年 生まれ。
2000年 株式会社GO-SEES 設立。
2000年 GO-SEES 青山スタジオ 設立。
2007年 GO-SEES Pygmalion 設立(レタッチ部門)。
2008年 GO-SEES 広尾スタジオ 設立。
http://tomitamasamitsu.com/