東京・渋谷区千駄ヶ谷に、昨年オープンした「TOGU STUDIO」。
ここはフォトグラファーの小暮和音さんと、レタッチャー 小柴託夢さんの撮影を主体とした株式会社コントラストと、クリエイティブディレクター 大輪恭平さんが率いるクリエイティブカンパニー「株式会社むすび」が共同で立ち上げたスタジオだ。
編集部は「TOGU STUDIO」に伺い、小暮さん、小柴さんにインタビュー。日芸の同期という二人が、撮影とレタッチで手を組んだ経緯、また「むすび」との協業で生まれるこれからの可能性について、話を訊いた。
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長) Photo:村上貴滉(CONTRAST)
小暮さんが撮影の仕事を目指したきっかけを教えてください。
小暮 はい。もともと小暮家が代々写真家の家系でして、僕で4代目なんです。ただ自分が写真で食べていこうと思ったのは、僕が高校2年生の時、祖父が亡くなった日でした。
おじいちゃんが死んだ日に「亡くなった祖父と一緒に家族写真を撮ろう」ということを父が言い出したんです。普通亡くなった人と記念写真を撮る発想はないと思いますが、カメラマン一家なので、自然な流れで僕がサイバーショットで撮ったんです。
後日「すごい絵写真が撮れている」ということで父がコンテストに出しなさいと言うのでアサヒカメラに応募したら特選に選ばれました。小さい事かもしれませんが、自分の写真が世の中に出たきっかけになりました。
その後、写真評論家の大竹昭子さんが編集された「この写真がすごい 100Photographs 2008」という書籍がありまして、大竹さんが「すごいと思った写真100点」の中に、選んで頂けました。
この本の中で、森山大道さんや梅佳代さんなど錚々たるメンバーの間に選ばれ、それが書店に並んでいるのを見て、そこから「自分の撮った写真を世の中に出していきたい!」という決意が芽生えました。
その流れで日芸(日本大学 写真学科)に進まれたのですね。
小暮 そうです。父が日芸の写真学科出身だったこともあり、自分も日芸を目指して入りました。本当は卒業後すぐに父の仕事を継ぐつもりでしたが、学生時代にインターンで中村成一さんにお世話になり、そこから高井哲朗さんやAPAのフォトグラファーの方々と出会って、広告写真の魅力に惹かれていきました。
コスメなどの商業写真は華があってかっこよかったですし、広告写真を学べる環境で候補を考え、そこからアマナへ入社しました。
当時アマナにいらした黒川隆広さんが学生向けの撮影実習を開講されていて、それも小柴とも一緒に受けにいっていましたね。
小柴 ブロンカラー(アガイ商事)主催のセミナーだったと思います。
最初は池袋にスタジオを作られましたね。
小暮 はい。独立後はフリーとして、取材や記録撮影等の仕事等をしていましたが、中々本来やりたいブツ撮りや広告の仕事に結びつかなくて…。それでかなり無理をしてでも「自社スタジオを作ろう」と思い、投資したのが独立1年後の2016年ですね。スタジオを構えたことで仕事が増えてきて、自然と広告の仕事にも繋がっていきました。
ブツ撮りは、自社スタを持っている人の方が依頼しやすいかも。
小暮 そうですよね。実は最初にスタジオを構える段階から、小柴とも物件を見に行ったりしていたよね。でもあそこ(池袋のスタジオ)で一緒にやっていなくてよかった。それは今ほんとにそう思う。
小柴 そうだね(笑)。
小暮 お互いに4年目とかで、まだまだ経験を積む状況だったと思うし。
今日伺っている北参道のTOGU STUDIOを立ち上げたのは昨年ですね。
小暮 そうです。2022年の5月にオープンしました。
TOGU STUDIOを共同で立ち上げたクリエイティブカンパニー「むすび」とは、5年ほど前に福士蒼汰さんのビジュアルでお世話になっていたのですが、そこから意気投合してブツ撮りとか、色々仕事を依頼して頂いていて、その関係が3~4年ほど続いていました。
「池袋が手狭になってきたので移転を考えている」という旨の話を代表の大輪さんにしたところ、「よかったら一緒にやりますか」という流れになりました。
最初はお互いに条件を擦り合わせつつ、物件も1年間くらいかけながら色々探していて、やっと北参道で見つけた感じですね。
「むすび」にとっても、撮影部門が近くに存在することでメリットがあると考えたのですね。
小暮 最初から探していたわけではないと思いますが、僕の方からも相談したことで、「そういう形は面白いかも」ということで興味を持ってもらえたんだと思います。デザイン会社とのコラボって中々ないので、面白い試みだと思います。こうして新しい挑戦のきっかけをいただけた事とても感謝しています。
「むすび」は当時、どちらにあったのですか。
小暮 日本橋ですね。そのためスタジオも当初は三越とか日本橋、銀座界隈で探していたのですけど、地価が高い割には広さがなかったりで、結局は北参道になりました。この辺りは土地もいいですし、クリエイターが集まる地域ですしね。
小柴さんがレタッチャーになろうと思ったきっかけを教えてください。
小柴 日芸でフォトグラファーを目指そうと思っていたんですけど、自分の撮ったものをPhotoshopで加工し始めて、「レタッチって楽しいな」と思ったのがきっかけです。
学校ではレタッチはあまり教えてもらえなかったので独学で勉強をしたり、高井(哲朗)さんのところへ伺ってアシスタントの方に教えて頂いたり。
いざレタッチャーとしての仕事を考えた時に、どこに入ればよいのかがわからずに
迷っていたところ、日芸からプロダクツに入る先輩が多数いて、話も聞いていましたので、自分もプロダクツを希望して、入社しました。
それは「レタッチャー志望」で受けられたのですか。
小柴 そうです。
小暮 我々の学年だと、小柴だけが唯一プロダクツに入社できたんじゃないかな。
小柴 2〜3時間の実技試験もありました。僕の場合は学生レベルではあるけれど、レタッチ技術の勉強は日々行っていたのがよかったのかな。入社したら、全然未熟なことに気付かされましたが(笑)。
自分は高井さんの影響もあって、ブツ撮りのレタッチをしたかったのですが、だんだんと人物のレタッチも楽しくなってきて、今は人物や、タレント案件の方が多くなっています。
でも博報堂プロダクツは様々な広告案件を扱う会社なので、小さなブツから車、風景など、色々なジャンルを扱わせて頂いたのが非常に良い経験になっています。
一つの企画に対して最初から携われることで、打ち合わせ〜撮影〜納品まで、全ての工程を経験できるので、責任も重大ですがその分やりがいもありますね。
博報堂プロダクツには何年いらしたのですか。
小柴 最初の3年位は上司のレタッチャーに付いていて、その後は独り立ちという感じで、フォトグラファーからの直接指名も徐々に増えていきました。色々な案件で経験を積ませて頂きながら、10年弱で独立しました。
小暮さんが代表を務める「コントラスト」に入るきっかけを教えてください。
小柴 昨年はそろそろ自分でどのくらいやれるか挑戦してみたいと考えていたところ、6月頃にそのタイミングで小暮から「スタジオを拡張するから一緒にやらないか」というお誘いも受けました。TOGU STUDIOをオープンしてすぐ位のタイミングだったと思います。
小暮 僕としても撮影業務を広げていこうと思っていた中で、レタッチ業務も必須だなと考えていたので、一緒にやりたいなと思っていた小柴に声をかけました。色々なレタッチャーとも知り合いですが、学生時代から「いつか一緒に仕事しよう」と思いもあったので、それを伝えました(笑)。
小柴 その時はまだ上の4階フロアが空いていたのですが「レタッチ立ち会い」のスペースも設けてくれるとのことで、プロダクツ時代と変わらない環境で仕事ができるのは、自分にとっても良いチャンスをもらったと思っています。
昨年6月以降「撮影+レタッチ」という形態でTOGU STUDIOが稼働し、上階のクリエイティブカンパニー「むすび」とも連携されています。1年弱活動されてどうですか。
小暮 まずこの北参道という立地が良かったと思っています。原宿、渋谷はクリエイターが多い地域ですし、スタジオも210平米あって広いので、お客さんのウケは相当いいですね。「来やすい」とか、制作会社が「クライアントを呼びやすい」等々。
「打ち合わせもここでやりましょう」とか、レタッチの立ち合いも気軽に来て頂きやすいですね。僕たちの仕事って、撮影やレタッチはリアルで進めるので、やはり交通の便が良い場所という、立地は重要かなって思います。
北参道駅出口を上がったビルですし、1Fのスタバにオーダーもできるし、めちゃくちゃ便利です。それに建物の両サイドが全面ガラスで視界もいいですね。
小暮 ありがとうございます。あとは広めにとったメイクルームだったり、サブスタジオ、立ち合いできるレタッチルームなど、自分たちが仕事をしやすい施工をしたので、使いやすいです。
内装は一から設計したのですね。
小暮 大輪さんと相談しながらコンセントの位置からバトンの位置など、全部はじめから決めていきました。すべて撮影前提で設計してあり、電気容量も180A確保してあるので照明機材も余裕で使えます。細かい話ですが、どの回線をどうまとめるかとかも、電気の業者と打ち合わせして決めています。アガイ商事吉田さんにも電源や機材の事などたくさんアドバイスいただきました。
他にもメイクさんやスタイリストさん、照明技師さんなどそれぞれのプロにご意見を伺いました。
大きめの台車でも搬入しやすいように入り口や通路を広めにとったりとか。カーゴ台車も余裕で通れるので商品や衣類の搬入もスムーズにできます。
明治通りに面している割には、外の音もあまり聞こえなくて思った以上に静かですね。
小暮 そうなんです。先日は、録音部さんも来られてインタビューものとかも録れましたね。あとは「むすび」が入っていることで、デザイン受注から撮影、レタッチ納品までワンストップでできるのは強みですし、デザインの修正、逆に撮影も何かあればこちらでシームレスに対応できるので、スピーディです。
ちなみにコントラストの名刺や封筒、Webサイトもむすびに作ってもらっていて、ちょっとした修正やアップデートもすぐ対応してもらえるので、すごく助かっています。
むすび的にも、今は撮影やレタッチを含めて企画が出せるので、デザイン提案のみだったものが最初から「撮影とレタッチもできスタジオもある」前提なので、仕事がとりやすくなったと聞いています。
デザイン、撮影、レタッチが同じビル内に揃っているのって、いまかなりメリットある気がします。
小暮 そうですね。少人数ということもあり、小回りがきくので、依頼して頂きやすいのではと思います。
コントラストとしては写真と映像制作の比率はどんな感じですか。
小暮 以前は半々でしたが、僕個人としては写真の仕事が増えましたね。独立してからはとにかく仕事をしたかったので、映像制作も受けていましたが…。
グラフィックの方が自分でコントロールしやすいというか、ムービーは沢山の人がかかわるので、それはそれで楽しいのですが、自分の持っている技術を含め、写真の方が自分の土俵で勝負できる感はあります。ムービーをやるにしても“スチルカメラマンが撮った絵”を意識していきたいです。逆にブツ撮りに関しては、ムービーの仕事もオファー頂くことはありますね。
とは言え「むすび」にムービープロデューサーやプランナー、プロダクションマネージャーも所属しているので、是非挑戦したいと思っています。それに今年5月より、3年前にアシスタントしてくれていた川村将貴というフォトグラファーがコントラストに参加するのですが、彼は動画も得意なので、とても楽しみです。
これからが楽しみですね。
小暮 「むすび」やレタッチャーの小柴とも連携し、ようやくファシリティ面では落ち着いてきました。場所もやれることも大幅にアップデートできているので、今後は仕事をさらによい方向に拡げていければなと思っています。
僕自身は広告写真が好きなので、世の中のたくさんの人の目に触れる広告、影響力のある写真、「あの広告、見たよ!」って言って頂けるような仕事を増やしていきたいですね。
TOGU STUDIO
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-38-14 スタンション北参道3F
https://togu.studio/
MUSUBI Inc.
https://musubi.studio
小暮和音(Photographer)
1990年 東京生まれ
2013年 日本大学芸術学部写真学科卒業
アマナグループ株式会社Vda入社。吉田明広氏に師事
2014年 株式会社PARADE設立と共に参加 坂本覚氏に師事
2015年 アマナグループ退社
2016年 小暮和音写真事務所を設立
2019年 株式会社コントラスト(CONTRAST Inc.)を設立
AWARDS
APAアワード:北島明賞
小柴託夢(Retoucher)
1990年 東京生まれ
2013年 日本大学芸術学部写真学科卒業
(株)博報堂プロダクツ入社
2022年 株式会社コントラストに入社
AWARDS
APA アワード:特選賞
The One Show:Merit
NY ADC賞:Merit
D&AD Awards:Wood Pencil
クリオ賞:Bronze
新聞広告賞:大賞
ACC:グランプリ