はじめに「イイノ・メディアプロ」の業務内容を簡単に教えてください。
佐々木 イイノ・メディアプロは、撮影スタジオを中心として、ロケ撮影チーム、プロダクションチーム、それとイイノ グラフィックイメージという構成です。
スチルのレンタルスタジオとしてスタートし、撮影とそれに付随する形でデザインやレタッチ業務を行なっていました。ロンドンのビックスカイスタジオとアライアンスを組んでいたこともあり、プロダクション業務に関しては、海外案件が多く、逆にこれからは日本国内の仕事を強化していきたいと考えています。
ロケコーディネート業務もされていますね。
佐々木 そうですね。欧州案件の日本での撮影コーディネート、またその逆も行なっています。
「イイノ グラフィックイメージ」はどのような業務になりますか。
佐々木 イイノ グラフィックイメージは、広尾のスタジオができた1年後に、レタッチ部署とデザインオフィスを兼ねて2000年に立ち上げました。
スタート時は広尾スタジオ内にありましたが、業務拡大に伴い人数が増えたため、2009年に表参道へオフィスを移転しました。その後、2014年に広尾と表参道オフィスを現在の南青山オフィスへ統合する形になって4年になります。人数構成としてはレタッチャー14名と、マネージャー4名が在籍しています。
スタジオで撮影した写真データがこちらに持ち込まれるのですか。それともスタジオの使用に関わらず、レタッチ案件を受け付けていますか。
中島 部署設立当初は「スタジオに併設されているレタッチ部署」的な位置づけでしたが、今はレタッチカンパニーとして、イイノのスタジオで撮影されたもの以外に、レタッチだけで依頼される仕事の方が圧倒的に多いです。
そういう意味では、レタッチのセンスやクオリティに関してたくさんの経験と実績を積むことができ、より高いレベルにアップデートできていると思います。
佐々木 イイノグループとしては映像の4K・8K撮影のサポートも始めていますので、ワンストップに近い状態まできていますね。
スタジオがあることで、レタッチという範囲だけでなくビジュアル制作に関して様々なノウハウを持っています。経験豊富な撮影スタッフや機材面でのサポートを含めて、一つの撮影に関われるやりとりが濃密にできるのは、弊社ならではかなと思います。
中島 スタジオがあって、撮影スタッフが同じ企業で働いている、というメリットは大きいですね。ロケにレタッチャーが立ち会えなくても、その現場で仕事をしているスタッフと撮影後にコミュニケーションがとれるのはメリットです。
海 僕は他の会社を経験していないのですが、イイノ グラフィックイメージを希望したのはやはりスタジオと連携できるレタッチカンパニーがいいなと思ったからです。
中島 スタジオスタッフとレタッチャーが組んで作品制作をしたり、年齢の近いスタッフ同士が一緒に成長していける土壌があるのがいいよね。
海 同期のスタジオスタッフがいるので、検証したいことがあればテスト撮りをしてもらえるのはありがたいです。イイノは若いスタッフが多いので、写真業界の流れとか今流行っているトレンド、カルチャーの情報交換とか、そういうことができるのはある程度、人数がいる会社のメリットです。
レタッチャーの機材系の環境を教えてください。
佐々木 弊社のレタッチャーは全員、MacProを使っています。
中島 一部シルバーの筐体もありますが(笑)、ほぼ最新機種を使っています。新型のMacProを待っているのですがなかなか発表されないですね。
今回、BenQの4Kカラーマネジメントディスプレイ「SW271」を1ヵ月間使って頂きました。色々印象を伺いたいのですが、まず4Kの解像度はいかがですか。
海 僕の使っているモニターが少し古い機種ということもあって、SW271を使い始めたら、レタッチワークのモチベーションが上がりました(笑)。画面の明度ムラをほぼ感じないのと、輝度も適度に高くて画像が見やすくなりましたね。
フォトグラファーが横に座って長時間立ち会われることも多いんですね。「視野角178°」って書いてありましたけど、隣に人がいて作業を進めるような状況で、斜めからモニターを見ても画面が見やすく、印象が変わらないのがありがたいです。
中島 立会いの時にお客さんがいちいち立ってセンターに来なくても確認できるね。
海 お客さんに移動して頂くのも申し訳ないじゃないですか。僕の場合はモニターをお客さんの方へ向けて、自分は少し見にくい中で作業していたのですが、今は割とその中間程度の角度で済むのでレタッチャーとしても作業効率が上げられたし、立ち会う方もストレスが減ったと思います。
中島 視野角って、何気に大事だよね。
佐々木 作業途中で何度も紙に出力して出すのは非効率なので、モニター上でbefore/afterを共有しながら作業を進めることが多いからね。
中島 最近は最終媒体が紙(印刷)ではなく、Webという案件も増えていますので、「作業のしやすさ」という点では、視野角は広いにこしたことはないです。
海 今後、Webというかスマホやタブレットなどの「画面上で完結する仕事」が増えていくと思いす。高解像度の端末が増えてきて、4Kが当たり前になってくると、レタッチも今まで以上の精度が求められます。それを考えると、モニターもそれに合わせてアップデートしていかないといけないですね。
27インチというサイズはいかがですか。
中島 普段は24インチを使っています。古いモニターだと4:3比率なので、ソフトのツールを置くとどうしても画面が狭くなってしまってダブルモニターにしたくなるんですね。
海 「SW271」はアスペクト比が16:9なので、Photoshopのパレットツールを出しておいても、1台でも十分使えます。癖で2台使っていますけど(笑)。
レタッチ作業に関して4Kの解像度のモニターはどういう印象でしょうか。
中島 僕が使っているモニターがフルHDなんです。それよりもはるかに解像度が高いので、細かい部分まで見え過ぎちゃう(笑)。
始めは戸惑ったのですが、これに慣れてきてしまうと、今ままでは拡大しながら作業していたものが、それほど拡大率を変えなくても大きな画面で全体とディテールが共によく見えるようになったので、そういう意味では作業効率が上がりましたね。
フルHDで作業している方は、使い始めだけ違和感があると思いますが、慣れると戻りたくなくなりますよ。
海 Photoshopでレタッチ作業をする時は4Kモードにして、メールを書いたり、Webを見る時はフルHDの解像度に切り替えて使っています。
色域に関して、Adobe RGB 99%、sRGB 100%カバーはマストな性能ですか。
中島 そうですね。キュリブレーションを取る時も、必ずAdobe RGB表示で行います。
モニターの表示色は10bit(約10億7000万色)です。8bit(1670万色)との違いはあります
海 アンダー目の写真、もしくはシャドウに近い部分のトーンは、今まで使っていたモニターよりも、トーンがよく出ている印象です。
佐々木 暗い写真で違いを感じている?
海 はい。暗い中での微妙なグラデーションが表示されるんです。以前はトーンカーブを使って、一度明るくした状態で修正して、それを戻していたような作業が、そんなことをしなくても表示されたままの色で自然に調整できるというのはいいですね。レタッチがスムーズに行えるので助かっています。「データ(情報)としては残っているのに、モニター上で反映されない」というストレスが減りました。
画像を拡大表示したり、トーンカーブを上下するという作業が減ったわけですね。
海 見たままの状態で作業できるので、時間短縮にも繋がっています。
中島 雑誌サイズなら原寸で作業できます。でもレタッチャーの中には、印刷では反映されないような細かな部分まで、こだわってレタッチしてしまう方がいます。
仕事では「時間と予算とクオリティ」のバランスを考えるわけですが、原寸で作業することは、力を入れるポイントを学ぶためにもいいと思いますね。
ハードウェアキャリブレーションはX-Riteのi1(アイワン)系やSpyderに対応しています。
中島 仕事上、キャリブレーションはマストな作業で、月1回以上は各自でキャリブレーションをとっています。
今回、無料でダウンロードできる「Palette Master Element」を使ってみました。普段はi1Profilerというソフトを使っています。「Palette Master Element」は、細かく設定できるのが便利ですし、操作もシンプルでまったく問題なく使えました。
佐々木 「Palette Master Element」は、色調整後に各色のデルタ値がレポートとして出てきます。デルタ値の差が3.0以下だと、ほぼ同色と認知できるので、数値で見せられると安心できるね。
中島 内蔵キャリブレーションもあるとより便利ですね。ただ内蔵よりもi1proを使ってモニターの中心で測る方が、よりセンサー精度がよいみたいなので併用できると便利かな。
「SW271」は、光源ムラを修正するユニフォーミティ機能はついていないのですが、輝度ムラに関してはいかがですか。
海 お借りした製品が新しいということもあって、輝度ムラ、色ムラはまったく感じないですね。
異なる色空間のコンテンツを横に並べて同時に表示できる「GamutDuo(ガンマデュオ)」機能使われますか。
中島 同じ写真がAdobe RGBとsRGBで比較できるのは便利です。標準で付属している「OSDコントローラー」で、Adobe RGBモード、sRGBモード、モノクロモードを割り当てておけば、簡単に比較できるし、カラーモードを一瞬で切り替えられるのは、すぐにシミュレーション結果を見たい場合に助かります。
モニターフードが標準で付いていますが、レタッチャーの方は必須でしょうか。
海 レタッチにはマストですね。ただイイノの場合は個室になっているため、僕は自分のパーテーションの上を塞いで、部屋全体を暗くして作業をしているので付けないまま、仕事をしています。
あと先ほどの話ではないですが、立会い作業も多いので、横からもモニター画面が見やすいように、フードではなく部屋全体を暗くしています。
中島 うちの場合、スタジオ撮影にもレタッチャーが立ち会って、軽く現場でレタッチすることもあるし、ロケにもモニターを持っていくケースもあるので、フードは必要です。
「縦位置表示」が可能なのですが、仕事では横位置ですよね?
中島 縦位置表示が可能なモニターを使ったことがないですが、これは何気によいかも。
モニター2台体制であれば、1台をツールと拡大画面で修正作業をして、1台を縦位置表示で、「原寸ならこんな感じに見えますよ」という贅沢な使い方ができます。この方法はアリですね。
海 縦位置ポスターやサイネージの仕事ならいいですね。
中島 寄り(拡大表示)で作業している時の修正と、全体を見ている時の修正感が全然違うから。
佐々木 細かいディテールを修正 → プリントで縦位置出力 → クライアント「ん〜。微差だね〜」というパターンは「レタッチャーあるある」なんです(笑)。プリントして時間がかかるわりには非効率な作業になってしまいがちです。それよりも、27インチ縦位置表示で大きく全体を見てもらった方が、ゴールに早く到達できる気がします。
最後に、レタッチャーにとってオススメできる点とは?
中島 ハードウェアキャリブレーションできちんと色の管理ができるのがいいです。それと解像度が高いので、まず写真のセレクトや比較が楽です。
僕たちは膨大な数のRAWデータを見るわけですが、大画面で解像度が高いとたくさん写真が並べられて便利。Capture OneでもBridgeでも、サムネール表示でディテールがわかるので、そこからの比較、セレクト、レタッチするポイント、というワークフローがスムーズに流しやすい。
ただモニターがよくなると、ピントがきているとか甘いとか、フォトグラファーにとっては、今までよりフォーカスにはシビアさが要求されるでしょうね(苦笑)。
今後、アップデートしてほしい点はありますか。
中島 内蔵キャリブレーションはあったら便利、というくらいです。やはり外付けで測る方がより正確だし、安心できます。ロケ先にモニターを持って行く時などは、内蔵されていると簡単に使えて便利だとは思いますが。
佐々木 スタジオもレタッチルームも基本的には測光してキャリブレーションをとっているので、内蔵がマストではないですね。
この性能で実勢価格が約14万円弱ならコストパフォーマンスは高いですよ。個人レタッチャーや自分でレタッチをするフォトグラファーには1台目としてオススメできますし、何十台もモニターを使用する弊社のようなスタジオやレタッチカンパニーには、競争力のある製品だと思います。
実は世の中で活躍されているフォトグラファーの方でも「自己所有はノートPCのみ」という方がいらっしゃいます。自宅にデスクトップ型を導入していない方とか。
雑誌編集部や広告系アートディレクター、レタッチャーなどの外部との写真データのやりとりは自分のノートPCで見ているケースですね。その場合、せっかく良い撮影をしても、その後の色のやりとりに差異が出てしまっているケースが時々あります。
色味はフォトグラファーにとって評価の死活問題です。14万円ならカメラボディ1台買うよりも安いので、そこは最終チェックとして重要な「モニター環境」に投資して頂けたらと思いますね。
BenQ SW271
主な仕様
27インチ 4K UHD(3840 x 2160)の高解像度
Adobe RGB色空間を99%カバー
Palette Master Element によるハードウェアキャリブレーション
視野角(左右/上下) 178°/178°
10-bit(約10億7000万色)カラーディスプレイ
遮光フード 標準装備
http://www.benq.co.jp/product/monitor/sw271/
IINO GRAPHIC IMAGES
佐々木一英
イイノ レタッチグループ マネージャー
1968年生まれ。
北海道出身。
2000年 株式会社イイノ・メディアプロに入社。
中島隆太
フォトレタッチャー
1980年生まれ。
神奈川県横須賀市出身。
写真制作会社を経て、イイノ・メディアプロ入社。
Q:レタッチャーとして心がけていること
A: 完成するまでに、ひとつひとつ丁寧に、作業するようにしています。
丁寧に。とは、ひとつのビジュアルが出来上がるまでに、クライント、CD、AD、フォトグラファー、メイク、スタイリスト、スタジオスタッフ、たくさんの人が関わって、撮影後レタッチという段階に入るので、大変責任感のある役割だと思い、仕事に取り組んでいます。
レタッチに入る前に撮影前、打ち合わせ時にどういったコンセプトで作り上げていくのかをヒアリングするようにしています。
そういう想いで取り組むことで、自分が関わったことがあるビジュアルは、大変充実した時間を過ごせますし、色褪せることなく、自分の人生に充実感を感じます。
Q:レタッチャーとしてのセールスポイント
A: まだまだ経験浅はかではありますが、過去の経験や知識を生かして、日々取り組んでいますので、ある程度撮影手法など相談にのれると思います。
好きなのは、still photoです。TomaKenjiさんShuAkashiさん青木健二さんIshiKanjiさん僕にとっては海外で活躍する憧れの存在です。ユーモアのある広告は好きです。広告は受け取り側は、意識していなくても目に入ってくるので、とても暴力的だ。という表現をどこかできいたのですが、日々生活の中で、面白かったり、癒されたり、つい心動かされるコピーの広告ってあると思います。想い系とかいえばいんでしょうか。そんなジャンルの写真は、好きです。
ベッチャー 海
フォトレタッチャー
1992年生まれ。
2015年 学校法人国士舘大学にて経済学修士号を取得。
2015年 株式会社イイノ・メディアプロに入社。
Q:レタッチャーとして心がけていること
A: お客さんにとって気持ちの良い進行ができるよう、時には遠回りをしてでも寄り添うこと。
Q:レタッチャーとしてのセールスポイント
A: ビューティー・ファッション・プロダクト・・・
全てに誠心誠意を込めてレタッチをしています。
イイノ・メディアプロ
http://iinomediapro.com/