プロフォトから発売されたモノブロックバッテリーストロボ「Profoto B10XとB10X Plus」。
コンパクトでも本格的な光質を得ることのできるこれらの製品を使い、ファッションや広告で活動中のフォトグラファー 笹口悦民さんにスチルとムービーの撮影を依頼。LED定常光の光量もアップしたB10X(Plus)を使用した印象を訊いた。
Photo:笹口悦民(SIGNO) ST:TAKAO(D-CORD) Hair:KIYO IGARASHI(SIGNO)
Make:Yuko Mizuno(D-CORD) Model:中島沙希(Tomorrow Tokyo) BTS Photo:谷川淳
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
はじめに、笹口さんがフォトグラファーになろうと思われたきっかけを教えて下さい。
自分の祖父が建築家だったのですが、すごく多趣味な人で、そのうちの一つとしてハマっていたのが写真でした。フィルムカメラもたくさん持っていたので、僕が大学の夏休み中にカメラを借りて使ってみたら面白かった。そこからですね。
祖父のカメラで写真を撮り始めたら楽しくなってきて、すぐに大学の写真部に入ったんです(笑)。僕は経済学部だったので、それまで写真のことは何も知らなかったんです。
お爺様はアート系に関心があったのですね。
そうです。絵も描いていましたし、古いライカとかも色々持っていましたね。でも僕自身は子供の頃からカメラを触っていたわけではなく、大学に入ってからなので比較的遅い方かもしれません。
でも写真を撮ってみたら、不思議と自分の思い通りの写真が撮れたんです。今思うと、スポーツとかと一緒で、速く走れる人って教えられただけで速く走れるわけではなく、運動神経がいいとか、体幹が強いとか…。頭角を表す人って、元々の身体能力の高さがある方が多いと思うんです。写真や絵もそれと似た部分はあるのかなって思っています。
練習を積んだからと言って、絵がずば抜けて上手くなるというのは難しいですよね。
人が本来感覚的に持っている素養はあると思うんです。僕の場合、絵は全然ダメだし、字も汚いし、楽器もできないけど(笑)、なぜか写真だけは、自分が想像したものがアウトプットできていたので、「写真(撮影)の仕事が向いているかもしれない」と思って。親には強く反対されましたが(笑)。
笹口さんは、経済学部ですよね。
「就職しないで、カメラマンのアシスタントになります」って言ったら、めちゃくちゃ怒られましたけどね(笑)。祖父のカメラで写真を撮り始めていた大学2年の頃、自分が写真家になって仕事をしている夢を見たんです。これはお告げなのか、前世なのか、夢からガバッと目醒めて、その場ですぐカメラを買いに行ったのを覚えています。
すごい行動力ですね! フォトグラファーの安部英知さんにつかれたわけですが、実際の仕事をしていく中でイメージとの齟齬はありましたか?
実は学生時代に、マガジンハウスのBrutus編集部でアルバイトをしていたこともあって、色々な写真家の手伝いをしていました。当時から活躍されていた篠山紀信さん、三好和義さんほか錚々たるメンツの方々の現場を見せて頂いていたこともあって、直アシについてから特に撮影現場でギャップを感じることはなかったですね。
マガジンハウスを始め、雑誌がカルチャーを引っ張っていましたしね。
90年代は雑誌が売れていて勢いがありましたし、その中でいい仕事をたくさん見させて頂きました。皆さん個性的で、撮影というか仕事の仕方がバラバラなんですね。35mmカメラでパシャパシャ撮る人もいれば、8×10でじっくり撮る方もいます。そこで思ったのは、正解はなくて「自分の考え方でやればいいんだな」ということでした。
自分の考え方でスタイルを確立していくことが大事ですね。
そうですね。「Brutus」は割とオールラウンドな媒体で様々な撮影を体験できたのですが、本腰を入れてファッションフォトを勉強したいと思い、安部英知さんに2年半ほど付いて、学ばせて頂きました。
プロフォトを使いはじめたのはいつ頃からですか?
アシスタント時代から知っていました。ただ当時は日本製のストロボを使う機会が多かったかな。直アシで仕事をしていた頃は、Pro-5とかを使っていましたね。
笹口さんの写真はライティング重視というか、光を操っている印象があります。
自分の写真の好みでもあるのですが“ドラマ性“というのをいつも意識しています。写真には動画のような起承転結はないんですけど、一瞬の時間の中にドラマやストーリーを注ぎ込むことができる。それは演出でもあるのですが、そのドラマ性を演出するために、自分にとって「光」はすごく大事な要素なんです。
逆にフラットな光は僕にとっては惹きつけられるものではないので、そういう環境でも何かしらアクセントになる状況を作ります。例えば自然光の撮影でも片方は黒く締めるとか。どこかに手を加えることが多いです。
独立した当時は、日中シンクロをよくやっていました。ロケでもストロボを使うことが多かったですね。
自然光もいいですが、フラットに見えてしまう時もありますね。
僕は1枚の写真で全てを見せる必要はないと思っています。一つ一つの撮影で強調したいものがあるので、それを「光」も交えて見せていく作業が好きなんです。ただ当時はコメットのお弁当箱みたいなバッテリータイプしかなくて…。その後に「Pro-7b」が発売されて、すぐ買いにいきました(笑)。あれはすごく使ってましたね。
発電機を持っていくことを考えれば「Pro-7b」は便利でした。
Pro-7bは海外にも持っていきましたね。当時、ルイ・ヴィトンの仕事をしていて「世界遺産シリーズ」というのを継続して撮らせてもらっていました。
ヴィトンの鞄を持って、ローマ遺跡やアフリカの喜望峰とか、インドのマハラジャと一緒にお城を訪ねて、そこにヴィトンの鞄を置いて、Pro-7bでライティングをしてカッコいいビジュアルを作っていました。
屋外でもスタジオでも光を作って演出していくのが笹口さんのスタイルになっているのですね。ロケとスタジオ撮影ではどちらが多いですか。
完全な外ロケは少なくて、ロケでもハウススタジオ等の空間を活かした感じのところか、白ホリのスタジオが多いですね。
今回、和洋折衷なイメージで撮影をお願いしました。
坂田さんから「和」を意識してほしいという依頼がありましたが、僕自身、年齢を重ねるにつれ「日本ならではの美しさ」に興味を持つようになっていました。
日本の美って“侘び寂び”とか“禅”とか、シンプルなものの中に豊かさを見出す方向が有名ですよね。でも浮世絵とかを見ていると、装飾的だったりするのでそういう対極的なものもあると思うんです。
僕はここ5〜6年、歌舞伎というか、中村屋の若手を中心にバックヤード(楽屋)を撮っているんです。歌舞伎を見ていると演出過剰というかすごく派手なんですよ。舞台装置も派手、衣装も派手、メイクも派手。派手を重ねているのですが、最終的なアウトプットに品格がある。今回の撮影も背景の襖は派手なのですが、そこを目指したいなと思いました。
「派手 on 派手」なのに、上品に見える、ということですね。
日本独自の纏め方というか…。宝塚歌劇団などもそうですよね。演出が過剰なんですけど、安っぽさは微塵もないじゃないですか。ここの金屏風を「舞台」と捉えて、その前で何かを演じてもらう、ということを意識しました。
モデルが着物を着るとあまりにもベタになるので、スタイリストには「ファッションというよりも彫刻的なオブジェを作るつもりで衣装を考えてほしい」とお願いしました。
モデルを中島沙希さんにした理由は、日本人とも西洋人とも違う中庸な感じというか、地球人っぽくない(笑)イメージに着地したかったからです。金屏風と合いそうにないものを敢えて合わせることでの違和感とか“不調和の調和”を狙いました。
左サイドの自然光に見える障子ごしの光は、中庭に設置したB10X Plusの光ですね。
そうです。自然光は使っていなくて、外光含めて完全にライティングして作っています。
撮影当日は曇天だったので、障子越しの自然光では暗くて、照明機材がないと厳しい状況でしたね。
B10X Plusを3灯、外から当てています。建物自体がビルの谷間にあるところで、外光が降り注ぐ感じではないので、今回は照明ありきのシチュエーションでした。直射にしたのは、LEDの光量を有効に使いたかったのと、障子自体がディフューザー代わりになっていましたから。ISO感度は800で撮影しています。
このシチュエーションなら自然光の代わりにB10X Plusでもいけるのですね。
大がかりな撮影なら12Kwとか大きめのHMIを使いますが、スチルがメインの場合や撮影スペースが限られる時は「バッテリーストロボ+LED」は、かなり助かりますね。
定常光をずっとつけていましたが、筐体の熱(温度)に関してはどうですか?
B10X Plusは筐体が小さいので、撮影前は「排熱対策はどうなんだろう?」と思いましたが、撮影中ずっとフルでLEDを照射していても、熱く感じることはなかったですね。
バッテリー式ですがAC電源も使えるので、室内から延長ケーブルで繋いでいたので、電池切れの心配もなかったです。
右サイドからはソフトボックス+グリッドで1灯使われていました。
窓側の外光から落ちるシャドウが少し強かったので、真横から1灯当てました。特に最初の衣装は黒でしたし。僕らは「タッチ」ってよく言うのですが、「起こす」というと少しフラットにする意味合いもあるんですが、そうではなくて、グリッドをつけて右サイドから少しだけアクセントとして直線的な光(ハイライト)を入れています。
外からの光は、午後から夕方目の感じで角度を決めました。ヨーロッパの建物の場合は天井が高いので、そういう状況を想定した時は、高い位置から光を当てます。レンブラントライトもそうですね。日本は障子文化で天井も窓も低いので、そこまで上げないで2m程の高さから当てています。低い位置からの光が床に反射して、下からも光が反射するのが日本っぽいかなと思います。
スチルのみの撮影だと、1灯でも足りますか?
そうですね。B10X Plusは500Wsあるので、スチルだけなら1灯でいけますね。むしろ少し弱めていたかもしれません。
SHOOTINGとプロフォトとのコラボでは、過去にはメイキングやインタビュームービーは作っていましたが、プロフォト製品を使って初めて「スチル+映像」作品をお願いしました。
スチルカメラはキヤノンで、動画はRED GEMINIを使いました。メイキングの写真を見て頂ければわかりますが、一度構図やライトを決めてからは、カメラを変えるだけでほぼ同じ位置から撮影をしています。
一眼レフタイプのカメラでそのままムービーを撮るなら、ボタン一つで切り替えらればよいので、コンパクトな撮影現場では、もはやスチルとムービーの切り替えは何も苦労がないですね。
仕事の現場でも、スチルとムービーの両方を撮るケースはありますか?
ありますよ。一番多いケースは2セット仕込むパターンです。例えばスタジオで撮る時に先にストロボでライトを組みますよね。それとほぼ同じ位置にHMIを仕込んでバランスだけ調整します。ただそれだと少し面倒というか、機材費も時間もかかります。
最近はブツ撮りもするのですが、商品撮影ではLEDライトを使う頻度が増えました。近づけても熱をあまり持たないし、光量や色温度の調整が楽です。HMIはドーンと照らせても微調整ができないですからね。小さな商品撮影はとても繊細で「この部分だけ少し明るくしたい」とか、そういう時にはLEDが便利です。
今日の3シーン全てでムービーも撮って頂きましたが、短時間で効率よくできた印象です。
ハウススタジオや狭い場所、電源を確保しづらい場所では、瞬間光と定常光が使えるB10XPlusとかは、これからの時代はかなり便利な機材だと思います。
さらに希望を出させてもらえれば、プロフォトのスタジオ用機材でより強いLEDライトがあれば最強ですね。
B10Xでムービーも撮れてしまうことを考えれば、例えば「1〜2灯所有+レンタル」でムービー撮影まで広げられますね。
プロフォトの場合は、アクセサリーがそのまま使えるのもありがたいです。スチル(キヤノン)はISO 800で撮っていましたが、RED GEMINIも同じ感度で撮っていたので、横に置いた機材を入れ替えるだけで、タイムラグもありません。ライティングや光量調整の手間がかからないので、スムーズに進められます。
この撮影ではスチルとムービーの両方をお願いしましたが、今後はセットで求められる仕事が増えていきそうですか?
大がかりな撮影や企画は別として、デジタルカメラでそのままムービーが撮れる時代なので、両方を撮る仕事は増えいくと思います。B10Xのようなハイブリッドな機材も昔はなかったわけで、カメラのムービー機能が進化したり、編集ソフトが使いやすくなるのと同時に、今回の撮影で「照明機材の進化」も感じました。
ストロボとLEDの光質の違いはどのように思われますか。
ストロボの発光菅とLEDでは基本的な構造が違うので、厳密に言えば光質は違いますよね。でもB10Xの場合は、どちらの光も乳半ガラスを通過してきますし、さらにアタッチメントを付ければ光質も変わるので、そこまで神経質になる必要はないと思います。
フィルムしかない時代はもっとシビアでしたけどね(笑)。最終的にはスチルでもムービーでも色味は必ずレタッチやグレーディングしますしね。実質的には、違和感はほぼないです。
普段はProヘッドも使われると思いますが、B10Xの光質の印象はどうですか。
そうですね。B10Xは、乳半ガラスがついている分、Proヘッドにディフューズ用のトレペを1枚かましたような感覚とほぼ同じかなと思います。
3カット目は、正面から直射しているんですけど、そのまま当てても嫌な光じゃないというか。ガラスを透過することで光の芯が少し緩和されるので、ビューティを撮る際も意外と直射もいいかもしれない。
ソフトボックスをデフォルトで使う癖がある方は、直射を使うことで強さが出せるので、特にB10Xではそういう使い方をしていくのもいいと思います。あとムービーを撮る場合は、直射じゃないと光量が稼げないですしね。近くから当てれば、B10X 1灯でもライティングは可能です。
ハウススタジオって、100Vがほとんどなので、そういう点でも充電をしながらAC電源が使えるタイプは便利です。バッテリーオンリーだと、交換バッテリーをたくさん持っていないと不安ですからね(笑)。
ムービーの撮影でアシスタントがB10Xを手持ちで動きながら撮影をしたシーンがありました。あのように光源を動かすのも軽い機材ならではですね。
そうですね。商品撮影ではよくあるのですが、人物だとカメラ用のレールを敷いたり、仕掛けが大袈裟になりがちなんですよね。でもB10Xは軽いのでアシスタントに動いてもらって、影の動きを演出しました。何テイクかでうまくいきましたね(笑)。
半日のスケジュールで、スチルとムービーの両方を撮れるのは、こういう機材ならではですね。
ヘアメイクやスタイリングの時間も考えれば、撮れ高としては一杯一杯でしたね(笑)。そういう意味では機動力があるし、あの小ささは凄いですよ。
最近はPro-8やPro-10等のジェネタイプばかりで、バッテリータイプはあまり使っていなかったんです。最初に見せて頂いた時は「こんな小さいんだ!」ってビックリしました。それでも光質はハイエンド機種と遜色がないので、コンパクトな撮影では積極的に選びたいなと思いました。
最近のカメラはどのメーカーでも優秀ですよね。技術的なハードルが下がる一方、インスタグラマー的な方を含め、プロと言ってもレベルは様々です。笹口さんから若手へアドバイスをお願いします。
プロとしての技術力や引き出しの多さは大切だと思います。天気も晴れの日ばかりではないので、雨の日はどうするのか、スタジオ撮影を含めて経験値、現場対応力は大事かなと思います。
ただ同じ傘1灯で撮影したとしても、撮る人によって仕上がりは全然違うんですよね。技術の先に感性があるというか…。感性やノリだけでやっていると行き詰まるので、まずはライティングを始めプロとしての技術を高めて“その先にある自分”を見出しいく努力をしていって欲しいです。
僕自身は、今まで雑誌や広告ベースで活動をしてきたのですが、4〜5年前から作家活動も始めました。仕事を抜きにした“純粋に撮りたいものを撮っていく”というスタンスでも活動しています。歌舞伎のバックヤードを撮り始めたのもその一つです。それまで特に歌舞伎が好きというわけでもなかったのですが、舞台そのものよりも“裏の人間模様”に興味があります。出来上がる過程を撮るのが好きですね。
作家活動にも力を入れるのはいいですね。
仕事とは別に創作活動をすることでモチベーションも上がります、最近は毎週のように作品撮りをしています。そういうのを続けていくと噂を聞きつけて「私とコラボしませんか?」という問い合わせも増えてくるんです。女優や俳優、作家からもお声がけ頂いていたり、現代アートの人と一緒に作品を作ったり、色々と輪が広がっています。
いまはSNSの時代でもあるので、ものづくりをしてそれをちゃんと発信していかないとダメですね、自分もまだ上手くSNSは活用できていないですが(苦笑)。今回のProfoto B10XやB10X Plusは性能とコスパのバランスがいい。バッテリー式のLEDだからどんどん外に持っていけます。映像制作にも使っていきたいですね。
Profoto B10X Plus()内はB10X
最大出力:500Ws(250Ws)
出力レンジ:10f-stop (1.0-10)
定常光:最高3250ルーメン
バッテリー容量:最高出力で最大発光回数200回(400回)
最大定常光出力で最長65分
バッテリー充電時間:90分以内
大きさ:235×110x100mm(175x110x100mm)
重さ(バッテリー・スタンドアダプター含む):1.9kg(1.5kg)
本体価格:
ProfotoB10X 249,480円(税込)
ProfotoB10X Plus 289,960円(税込)
ProfotoB10X デュオキット 493,680円(税込)
ProfotoB10X Plus デュオキット 573,980円(税込)
https://profoto.com/jp/b10x
Photographer
笹口悦民
1970年 北海道出身。
1992年 法政大学経済学部卒業 在学中にマガジンハウスBrutus編集部にてアシスタント。写真家安部英知氏に師事。
1995年 独立、以後フリーランスで活動。
2000年 笹口写真事務所設立。
http://www.signo-tokyo.co.jp
http://sasaguchi.com/