デサントから発売されているウェア「DESCENTE SKI premium collection Graphic by KAHORI MAKI」。こちらはアーティストの牧かほりさんがデザインでコラボしている商品である。
このウェアを用いて、牧さん、スタイリストの飯嶋久美子さん、フォトグラファーの宮原夢画さんが作品を制作。どのような流れでこの作品が生まれたのか、また昨年からのコロナ禍で感じたことなど、座談会形式で3氏に話を伺った。
竹取物語 / moon princess
DESCENTE SKI Collection 2020
Graphic:Kahori Maki Photo:Muga Miyahara ST:Kumiko Iijima Model:Chikako Takemoto Make:Susumu Kayaki Hair:Atsushi Takita Casting:Oi-chan Special thanks:Shiho Minami
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
デザントと牧さんがコラボをはじめたきっかけは何だったのですか。
牧:スキーウェアの仕事をする以前に、デサントが扱っている「ルコックスポルティフ」のシューズでコラボをしていて、それを見られていた別の担当からお声をかけて頂いたのがきっかけです。
ウェアは主にヨーロッパ向けの商品だったので、日本の雰囲気を折り込みたいというのはスタート当初からあって「和」をベースにしていました。
一昨年は「桜」と「コウモリ」を描きました。昨年販売された2020年バージョンは「竹取物語」でした。テーマ自体は、クライアント側から与えられて、そこからイメージを膨らませて描いています。
このウェアの販売は欧州のみですか。
牧:当初はそうでしたが、2020シーズンは神田のスキー専門ショップ等で販売されていたようです。
ウインタースポーツ用のウェアで作品撮りは珍しいですよね。
牧:2020年版はカタログ用の商品カットのみで、キャンペーン用の写真を撮らなかったんですね。それはもったいないと思い、長年の知り合いでもある飯嶋さんにも相談して、作品を作ることにしました。
飯嶋さんの方で相談された時にどんな風にスタイリングしようと思われたのですか。
飯嶋:牧さんとは1年くらい前から定期的にお会いしていて「何か一緒にやろう」と言う話はしていました。この作品のスカートにも使っている“牧さんのグラフィックを使った生地”も、以前からたくさん預かっていたんです。
牧さんの世界観が大好きでよくわかっていたので、オリジナルの生地も活かして、ダウンも活かしつつ、動きがあるものがいいなと思いました。また、夢画さんともご一緒したいと思っていたので、打ち合わせを始める当初から、夢画さんにもお声をかけさせて頂きました。
モデルについては動ける方がいいなと思っていたので“モデル兼ダンサー”という条件でキャスティングを相談したところ、候補として上がったのがChikako Takemotoさんでした。
Takemotoさんはダンスパフォーマンスもインスタに上げていますね。
飯嶋:そうなんです。Chikakoさんは別のプロジェクトで夢画さんに一度撮って頂いたことがありました。顔見知りなので企画の話をするにも安心感がありましたし、あと彼女の顔が和的なので、今回のテーマにも合っていると思いました。
牧:撮影は昨年の12月半ば頃だったかな。
牧さんと夢画さんはいつ頃からのお知り合いですか。
牧:私と夢画さんが初めてご一緒したのがタブロイド判のビジュアル誌「IQUEEN」でした。
宮原:確か、北乃きいさんをフィーチャーした2012年頃ですね。懐かしい(笑)。
牧:その時もすごく衝撃的でしたけど、私は夢画さんのコラージュ作品や「散華sange」シリーズが大好きで、今回飯嶋さんと話していて、夢画さんに撮ってほしいなと思ってお声がけしました。
宮原:ありがとうございます。牧さんとは家も近所でしたし(笑)、お互いのエキシビジョンにも出かけたりしていましたね。
スタイリングで意識したことを教えてください。
飯嶋:商品はスキーウェアなので、ダウンではあるのですが動き辛さはないんですね。軽くて暖かいのですが、アウターと言えばアウターなので上半身をレイヤーで見せるとかは難しい。
そのため、動きの良さをウエストから下半身に出せるよう工夫したり、和風のテイストをどう入れるかを考えました。全てを和風にしたくはないし、そのさじ加減を気にしました。ポージングとしては、ダイナミックな動きと、シャープでソリッドな2パターンを考慮して準備しました。
宮原:スタイリングの調整はあったけれど、現場ではChikakoさんに自由に動いてもらったことで、よい絵が撮れましたね。
夢画さんの方で意識したことはありますか。
宮原:撮影前に衣装とか、上に着るダウンの資料とか、スタイリング関しての情報はもらっていました。ただ当日を迎えるまで、上着はダウンで下はグラフィカルな布地なんだけど、動いたらどうなるんだろうと。
「竹取物語」って、しんみりとしていて月明かりが天からふわっと射していて…、みたいなイメジがありました。でも静かな中にも動的な熱量を感じる世界観って表現できるのかどうか、多少不安もありましたが、飯嶋さんが話されていたようにスタイリングはよい形で準備できていたと思います。
モデルのChikakoさんがメイクも終わって、衣装を着て出てこられた時点で「完璧だな」と思いました。ダンサーでもあるChikakoさんには、少し大ぶりな動きをしてもらって撮影しているんですが、その動きの中でも着物の袖がなびくような、ニュアンスが出せたかなと思います。
風は一切当てていなくて、彼女の動きだけで撮影しているんです。でもモデルの動きと、その仕草から出るレイヤード感とかが、計算し尽されたスタイリングだなと感じました。
Chikakoさんは「竹取物語」というテーマと今回のメイクや衣装の中でどう動くべきか、という点で“思考+感性の良さ”みたいなものもすごく出ていたと思います。みんなのクリエイティビティがうまく合致したことで、よい作品に仕上がりました。
そもそもウェアもスカートも、元の柄がすごいんですけどね(笑)。
飯嶋:確かに。「かほりワールド」がすごい(笑)。
牧:飯嶋さんに預けていた布のことは考えていなかったので、それをここに使うとは流石だなあと思いました。
他の衣装も色々合わせたりもしましたが、このメンバーで作るならやり切った方がいいなと思って。結果的に強いビジュアルになりましたね。
「月明かり」って、空から直線的な光が落ちてきているイメージがあります。
宮原:照明は1灯のみです。前半はソフトボックスをフロント目から当てていましたが、後半はディフューザーをとって、光が狭い範囲にストンとピンポイントに落ちるように照射しています。それによって、月明かりのようなしっとりした世界になったかなと思います。
月に照らされた空間でかぐや姫が舞っている感じがしました。背景のビジュアルは後で加えたものですね。
宮原:牧さんがグラフィックをコラージュ合成することで、完成度がグッと上がりました。
飯嶋:そう。あっという間に、写真と合わせていくからほんとにすごいよね。
牧:まさか飯嶋さんが「この生地を選んでくるか」というのもあったし、夢画さんの撮り方、モデルのパフォーマンスしかり、一人一人の力がレイヤーになっているから、ここまで出来たんだと思います。最後に夢画さんの出来上がった写真を見てから、グラフィックは直感でコラージュしています。
飯嶋:いいカットがたくさんあって、選ぶのが逆に大変だった(笑)。
宮原:セレクトはけっこう時間かけたよね。
牧:絵を入れることを前提とした場合、写真だけで成り立っていない方が良かったりもします。
飯嶋:牧さんは最初からその視点で写真を見ていたよね。
牧:そこがまた難しい(笑)。「このポ―ジングかっこいい!」というのも欲しいし、ちょっと外した写真の方が、合成した時に完成度が上がったりするんです。
差し込む絵が強すぎると、完成形としてのバランスが悪くなりますね。
宮原:バランスが絶妙でした。僕も広告の仕事とかで、自分の写真とお会いしたこともないイラストレーターの絵をミックスされたり、グラフィックと合わせられるケースがありますが、仕上がりを見たら「えっ!」(汗)というのもありますから。
牧さんの感性がすごくいいので、僕としては絵をコラージュしたことによって、自分の写真のグレードをさらに上げてもらえたのがありがたかったし、すごく嬉しいです。
クリエイティビティを高めるために、ミニマムなチームは有効なのかもしれないです。
宮原:でもね、スタッフはみんな自己主張は激しいんですよ、実は(笑)。
牧:メイクも強いしね。
宮原:Chikakoさんの踊りも激しいし、撮る僕もボルテージの上がり切っている瞬間を捉えているので、全体にtoo machなところもあるんですよ。でも全員の見ているベクトルが同じだったから上手くいったのであって、一人でもずれていたりセンスがマッチングしなかったら寒い感じになる可能性もあるんです(笑)。
そういうことにならずに、みんなの力が上手くフィットしたから完成度を上げられたのでしょうね。このチームでもっと色々作りたいな。
飯嶋:ほんとですね。
牧:テーマをまったく変えてやるのがいいね。
宮原:撮り溜めて、作品展とか出来るんじゃないかな。
コンセプトをきっちりと立てて、やりきったビジュアルは少ないと思っているので、是非このチームでの新作にも期待しています。
話は変わりますが、昨年から続くコロナ禍で、皆さんの中で感じたこと、変化などありますか。
宮原:昨年の緊急事態宣言が出た後は、広告系の仕事は一旦止まりましたね。雑誌の仕事は少し入りましたが、この状況は厳しかったですね。
企業も広告代理店も感染に関してナーバスな時期でした。夏が過ぎてからは戻ってきてはいますが、現在もまた緊急事態宣言が出ていて、仕事は先行きが見通しづらい状況です。
牧:作家としての夢画さんの活動もありますよね。
宮原:時間が出来たことによって色々なことを整理したり、考えたりする時間が増えました。以前のように日常がバタバタしている状況よりは、制作するマインドや作品の方向性が整えられた気がします。
牧:夢画さんはコロナ禍前までは超走り続けていたわけじゃないですか。一旦立ち止まるよい機会と捉えることもできますね。
宮原:そう。全てを犠牲にして20代から走り続けてきたから(笑)。コロナ禍で皆が大変な思いをしていますが、これは“人類への問いかけ”のようにも感じていて…。これを機会に何かが変わっていく、変えていくタイミングなのかもしれない。
牧さんは昨年どういう年でしたか。
牧:私はもともと旅人なので(笑)、仕事で言うと、コロナがあっても無くてもあまり関係ないんですよ。人気ない時はないし、ある時はワァーと忙しくなりますし。
飯嶋:言い方、最高(笑)。
牧:でも一番違ったのは世界堂が閉まり、画材が調達できなくなったり、印刷会社が休業で大判の印刷ができなくなったりしたことかな。
画材は買いにいけないし紙も新調できないので、自分の家にあるもので作品を作らないといけない。その状況の中で創意工夫することで鍛えられました。
A3プリントをたくさんテープで繋げたり、繋げる前のプリントでコラージュしたり。紙ではないですが“MDFボード”を20~30枚重ねて壁面コラージュを作ったり…。不自由な状況が逆にアイデアを考えるきっかけにはなりましたね。
飯嶋:私の場合は、コロナは関係なく、昨年4月に自分の会社にスタッフを入れて、ビジネスモデルを変えていこうという時期だったので、そこに割く時間ができました。この記事が出来上がる頃にはWebサイトが出来ていますが、メキシコのプロジェクトで動いていました。本当なら昨年、牧さんとロスとかメキシコ等で展覧会もしたかったのだけど…。
日常的なところでは、連続ドラマの仕事等が入っていたので、現場の仕事にはそれほど変わった感はなかったかな。
コロナ禍ですが、逆にリモートでメキシコのメンバーと打ち合わせが出来るのはすごいなと思いますね。サイト内の「AMIGOS」っていうところで夢画さん、牧さんにも入ってもらっています。このメンバーでの作品も、日本はもちろん中南米の方々にも見えもらえる機会を作っていきたいと思っていますので、よろしくお願いします!
牧:近くにいても会いづらい状況だから、世界のどこにいてもリモートなら同じだよね。
宮原:都内在住同士でもZOOMするくらい、会えない(笑)。
飯嶋:時差があるだけで距離は関係ない。なんか不思議よね。コミュニケーションの手段も増えて、もっと世の中が楽しくなっていくといいな。コロナが収束したら、出来ていなかった体験型のイベントをやりたいですね。
牧:リアルな事がしづらかったこの期間があるから、収束後の特にコンサートとかエンターテイメントの世界は感動とか興奮も大きいよね。
いまは自粛中なので、今後のリアルイベントの体験はより感動できるかもしれないですね。
飯嶋:旅に行くだけで感動しちゃうよね。
牧:人類の歴史はウイルスとの闘いでもあるので、after colonaでも「もしかしたらまたしばらく行けなくなるかも」と考えたら「今を大事に生きよう!」って思うんじゃないかな。
今まで未来ばかり見ていて、今日の夕陽を見ながら“未来はもっと綺麗な夕陽が見られるんじゃないか”って、半分くらい気持ちがいつも未来を向いていたけれど、コロナ禍になって「今に無限がある」「今に全てがある」っていうことに気付かされたというか…。
飯嶋:いい言葉だね。
牧:自分の想像なんて、今までの経験値の延長でしかないけど、今には無限があるって気づいた。でもこの前、ラジオでこの話したらカットされた(笑)。
飯嶋:「SHOOTING」ではカットなしで(笑)。
牧:写真も「モーメント」ですよね。
宮原:写真は一瞬を切り取るのだけど、その時間を永遠に残していく作業でもあります。
動画はスタートしたら終わりがあるじゃないですか。でも写真は“パシっ”て写した瞬間から永遠が始まるって言うか…。同じようでいて、時間軸の扱い方が全然違うんですよ。映像も素晴らしいけれども、改めて「写真ってすごいなって」考えさせられる時間でもありましたね。
ー コロナの収束を願いつつ、今後の作品制作にも期待しております。ありがとうございました!
牧かほり(グラフィックアーティスト)
花や植物のモチーフを中心に描き、一枚の絵をテキスタイル、プロダクト、映像、空間演出などに展開している。2018年ロサンゼルスで個展、2019年サンディエゴにて壁画制作などグローバルに活動。近年アップル社、Adobe Systems Inc. との共作をきっかけにデジタル作品も多く手掛け、デザインとアートの両方に力を入れている。日本大学芸術学部デザイン学科卒業。
https://www.k-maki.com/
飯嶋久美子(POTESALA主催/ スタイリスト、衣装デザイナー)
文化服装学院アパレル技術科卒業後、スタイリストおよびVOGUE NIPPONでのアシスタントを経て、2000年にスタイリストとして独立。 現在は広告(TV、グラフィック、WEB)、エディトリアル、CDジャケット、音楽PV、舞台、コンサート、映画など国内外で多岐にわたり活動中。
https://www.porom.com/
宮原夢画(写真家・Director of Photography)
1971年東京生まれ。1991年ビジュアルアーツ入学。1992年JPS展入賞。199年ビジュアルアーツ卒業 桑沢デザイン研究所入学 1994年東京・ギャラリー denにて個展『muga miyahara exibition』 1996 年 フリーランスフォトグラファーとして活動開始。写真展多数開催。
https://mmf.uno/