鶴田さんの最近のお仕事を教えてください。
主に広告、エディトリアル、CDジャケット、CMの撮影をしています。比率としては広告が70%、エディトリアルが15%、ジャケットと映像で15%くらいですね。
フォトグラファーとして心がけていること、大切にされていることがあれば教えてください。
僕の場合、人を撮ることがほとんどです。被写体の方とは一期一会で接して写真を撮らせていただくので、せっかくだからできれば会話もさせていただきたい。被写体の方とのコミュニケーションを大切にしながら撮影するように心がけています。
話しながら撮影をされる感じですか?
いえ、撮っている最中に話しかけることはほとんどありません。撮影前や写真の確認中などに話しかけてコミュニケーションをとるようにしています。なので、被写体の方のリサーチにはじっくり時間をかけるようにしていますね。映画に出ている俳優の方だったら、出演作を2〜3本は観るようにしています。ただ押し付けがましく話すのは嫌なので、「あの時はどうしてあんな顔をしていたんですか?」みたいに疑問に思ったことを聞くようにしています。
会話ができるように撮影に臨むこと。これが一番のポリシーかな。
綾瀬はるかさんのANAのグラフィック広告をはじめ、竹内まりやさんのCDジャケット、スタイリスト北村道子さんとの「SWITCH」のファッション特集など、錚々たる方たちと長年お仕事をされ続ける理由がそういった部分にあるんですね。鶴田さんはネガで撮られている期間が長かったですが、どうやってデジタルに移行されましたか?
デジタルカメラが出てきて、デジカメで撮らざるを得なくなり、デジタルで自分のトーンを出すために様々な実験をしました。デジタルネガとかいろいろとやりましたよ(笑)。早々にデジタルを取り入れて写真を撮られている方を見て、「自分もこんなトーンを作りたいなあ」と羨ましく思っていたのですが、いざ自分でデジタルを扱えるようになった時に、あまりにもできることが多すぎて困りましたね。ネガのプリントだと狭い範囲で色を出そうとしていたのに、デジタルだとできることが多すぎて…どう対処していこうかなと。
カラーフィルターで数パーセントを露光するとか、そういう微妙なことをされていましたからね。色をいかようにも変えられるデジタルの自由さに戸惑った感じでしょうか。
自由すぎて、できることの幅が広すぎて、すごく戸惑いました。あと色ですね。紙で見ていたものをモニターの透過光で見ると、トーンの出方とかが全く違いますよね。その違いにも戸惑いました。広告写真にしても作品にしても結局はプリントが着地点なのに、プリントにした時に「モニター上の色と違う!」ということになってしまうことにも当惑しました。
そう考えると、モニターで見た色がプリントでそのまま出せる組み合わせが、僕にとっての最良ですね。
ところで、現在使っている撮影機材を教えてください。
カメラはCanon EOS 5DとSONY α7を使っています。レンズはいろいろですね。
15年くらい前に、最初に購入したカラーマネジメントモニターはEIZOの70万円くらいするもので2台使いしていました。当時はプロ用のカラーマネジメントモニターを取り扱っているメーカーはEIZO以外にほとんどなく、しかも高くて…。10年ほど使っていましたが、経年劣化で使えなくなってからは、iMac Proをプリントの色に合うように調整して使っています。
今回、BenQの写真・動画編集向けカラーマネジメントモニター「SW270C」を使っていただきました。
色域についてあまり詳しくないのですが、Adobe RGBは印刷分野の標準色の色域をカバーしているので、プロフェッショナル用途としてはAdobe RGBの色を表現できるモニターが好ましいと言われていますよね。いま使っているiMac Proの色域はDisplay P3なので、Adobe RGBと比較するとグリーン(G)系の再現幅が若干狭いんですよね。でも今回お借りした「SW270C」はG系の再現幅が広く、G系の中のトーンがプリントに近い感じで持っていける印象を受けました。
繰り返しますが、商業印刷や印刷物の仕事が多い僕にとっての最良のモニターとは、モニターで見た色がそのままプリントで表現できる組み合わせです。印刷のイメージに近い色を再現してくれる「SW270C」は、僕のモニターに対す願望を叶えてくれました。
紙に印刷した色に近い色を再現してくれるモニターが鶴田さんの中では一番だということですね。一昔前は何十枚もプリントを出して色の確認をしていましたが、信頼できるモニターがあると効率化できそうですね。
今でも何枚もプリントを出して確認していますが、「SW270C」のようにモニター上で色の方向性を固めていけたら、何枚も何枚もプリントを出して色の確認をする作業が減ると思うので、時間的にもコスト的にも効率化できると思います。
今回のモニターの表示色は16 bit LUTを備えた 10 bit(約10億7,000万色)です。
ハイライトのトーンがきれいに再現されているなと思いました。ハイライトの階調って飛びやすい部分ですが、ディテールまでしっかり再現されていて、きれいなグラデーションで驚きましたね。逆光や半逆光でフレアを狙った写真ではハイライトに近い部分が飛んでいるか、飛ばずにディテールが出ているかで印象が違ってきますから。人肌をレタッチする時などにもいいなと思いました。
内蔵キャリブレーションがないことは気になりましたか?
スタジオで撮影する際、他社のカラーマネジメントモニターを2〜3台借りて使うことがあるのですが、X-Rite i1 Proでキャリブレーションしても色が合わないことって多々あるんですよ。アシスタントと一緒に彩度やコントラストなどを1台ずつ調整して色を合わせていくので、かなり大変な作業なんです。でもこの調整をしておかないとクライアントから「大丈夫なの?」と言われてしまうので、すごく大切な作業でもある。
僕の場合は撮影ごとにi1 Proで測色して細かく調整していきたいので、内蔵キャリブレーションはなくてもいいかな。「SW270C」からキャリブレーション時間が大幅に短縮されているので、負担も感じませんでした。
「SW270C」は4Kではないのですが、解像度に関してはどうでしょうか?
5KのiMac Proと比べてしまうと、もう少し解像度があってもいいかなという印象を持ちましたが、僕はモニターで見た色がプリントで出せることを大事にしているので、不満に思うことはありませんでした。
仕事でレタッチまでされることはありますか?
エディトリアルの場合は自分でしています。すべてレタッチャーの方にお願いしているわけではないので、モニターはすごく大事なんですよね。作業をし始めると12時間くらいずっとモニターを見続けるので、目が疲れないこともすごく大事。「SW270C」は目が疲れにくくて大いに助かりました。
こういうことって実際に使ってみないとわからないと思います。銀一やヨドバシの店頭では体験することができるそうなので、読者のみなさんにもぜひ体験していただきたいですね。
Adobe RGBモード、sRGBモード、モノクロモードを切り替えられるホットキーパックG2(OSDコントローラー)は使われましたか。
もちろん、使いました。これ、便利ですね! 印刷物の仕事、Webの仕事とさまざまな仕事のレタッチ作業を同時に進行することが多いので、ボタンひとつで簡単に切り替えられるのはすごくいいと思いました。
あと、僕の場合はそれほどありませんが、最近の風潮としては印刷物とWebを同時に展開する仕事が多くなってきているので、Adobe RGBとsRGBなど別の色域を横に並べて同時に表示できるGamutDuo(ガマットデュオ)機能なんて、絶対に便利ですよね。
インターフェイスについてはいかがでしたか?
USB Type-Cだし、ケーブル1本でパソコンへの60W給電もできるので便利でしたよ! 普段はアシスタントに任せてしまっているので、僕は全く詳しくないんですよね。そんな僕でもケーブル1本でサッとパソコンとつなぐことができて使いやすかったです。
「SW270C」はiMac Proと同じ27インチです。昨年末あたりに銀一やアマゾンでも15,000円前後も値下げされ、実勢価格84,000円〜92,000円くらいになりました。
手が届きやすい価格ですよね。高機能かつフード付きでこの価格帯なら、非常にコストパフォーマンスが高いと思います。実は、僕も1台購入しようと考えているんです!
そうなんですね! 購入しようと思った一番の決め手は何ですか?
事務所のほかにもうひとつ作業ができる環境を作らないといけなくて、カラーマネジメントモニターを探していたところに、“モニターの色をプリントで再現できる”「SW270C」に出会い、購入したいと思いました。「SW270C」とノートパソコンのセットで作業環境を構築したいと思っています。もちろん、価格が安い点も魅力的ですね。
今後、進化、改良してほしい点はありますか?
予想以上に箱が大きかったので、修理に出したり持ち運んだりすることを考えると、もう少し小さくしていただけると助かりますね。新しい作業場所はそんなに広くないですし…。ずっと部屋に置いておくことを考えると、コンパクト化してもらいたいかな。
遮光フードも付いてくるので、その分箱が大きくなっているのでしょうが、「もう少し小さくしてほしい」という意見は多いようです。
本体と遮光フードを別々の箱にしたら、小さくなっていいかもしれませんね。あと欲張り過ぎかもしれませんが、スイッチ入れてからの起動がもう少し早いといいなと思いました。
3年間保証や、修理期間中に同等性能の代替機を貸し出してもらえる有償サービス(1回につき税抜5,000円)「センドバックサポート」を設けるなど、ユーザーからの意見を反映したサービスも強化されています。
修理期間中に作業が滞ってしまうのは非常に困るので、それは良いシステムですね。カメラだって修理に出すと代替機を貸し出してくれることが当たり前になっているので、モニターもそうなっていってくれると助かります。
ユーザーから好評のムラ補正技術「ユニフォミティ」はどうでしょうか?
スタジオで借りた2台のモニターを使って写真を比較表示することって結構あるのですが、ある時、Aのモニターで見ている人は右の写真のほうが明るく見えると言い、Bのモニターで見ている人は左の写真のほうが明るく見えると真逆の意見だったことがありました。あの時はかなり焦りましたね。フォトグラファーにとって色は死活問題に直結しますから。ムラ補正があると隅々まで正確な色や明るさを表現してくれるので、安心して使うことができると思います。
プロのフォトグラフラファーであれば色に責任を持つのは当然のことです。「SW270C」のようにコストパフォーマンスの高いカラーマネジメントモニターなら、2台目以降の購入を考えている方や、若いフォトグラファー、レタッチャーなど取り入れやすいと思います。ただどうしても個体差があるものなので、自分の目指す色(僕の場合であれば紙にプリントした色)に合わせてキャリブレーション後に微調整するといいかもしれません。僕はそれなりの経験値があったのでiMac Proでも調整できていましたが、やはり「SW270C」を使ってしまうとカラーマネジメントモニターのほうが良くなりますね(笑)。
写真家は色に責任を持つ立場です。自分の作業環境を見直すためにも、フォトグラファーには「SW270C」のようなカラーマネジメントモニターを試してもらいたいですね。
BenQ SW270C
主な仕様
27インチ WQHD (2560 x 1440) の解像度
Adobe RGB 99%、sRGB 100%、Rec.709 100%、DCI-P3/Display P3色域を97%カバー
Palette Master Element(無料ダウンロード)によるハードウェアキャリブレーション
視野角(左右/上下)178°/178°
10bit(約10億7,000万色)カラーディスプレイ
遮光フード 標準装備
正確な色再現を可能にするAQCOLOR技術採用
ホットキーパック(OSDコントローラー)付属
Pantone/CALMAN認証取得
Photographer
鶴田直樹
日本大学芸術学部写真学科卒業後、日本デザインセンター、CC(株)レマンを経て、1991年鶴田直樹写真事務所。現在に至る。
現在の主な仕事:エディトリアル、CDジャケット、グラフィック広告、CM等。 2009年、GALLERY SPEAK FORにて個展19ROOMS、赤々舎より同名写真集。
会員:日本広告写真家協会会員
受賞:APA賞・毎日広告デザイン賞
個展:2009年 19ROOMS(GALLERY SPEAK FOR)
グループ展:
2014年 INFINITY VS-NINE PHOTO STORIES OF MONA(SHIBUYA PARCO MUSEUM)
2013年 INFINITY3(LIM ART)
2012年 INFINITY2(IN STYLE PHOTOGRAPHY CENTER)
著書:2009年「19ROOMS」(赤々舎)
http://tsurutanaoki.com