資生堂は2020年1月、東京・汐留に「Creative Lab」をスタートさせた。
資生堂には、もともと社内に撮影スタジオがありフォトグラファーが在籍しているが、汐留のビル内に新たに「Creative Lab」がオープン。従来の撮影スタジオからどのように変化を遂げたのか、フォトグラファーであり、クリエイティブ本部のフォトディレクターでもある金澤正人さんに話を訊いた。
Interview・Text:坂田大作(SHOOTING編集長)
まず「Creative Lab」を立ち上げた理由を教えてください。
実はこの「Creative Lab」の名称は、社内コンペをして決めました。従来の「○○撮影スタジオ」という言い方では、今までの考え方から脱却できないのではと思って、より上を目指すというイメージを持って、名付けました。
撮影スタジオ」では、「写真を撮る場所」という名前のままの役割になりますね。
「Creative Lab」は、ただ撮るだけではなく、そこから「新しいクリエーションが生み出される場所」だったり、「情報が発信される場所」という意味を名前に込めています。新たな試みの一つとして「ブロードキャスト・スタジオ」を作りました。
ファシリティを教えてください。
スチルのスタジオが6面、ブロードキャストスタジオが1面、レタッチルーム、メイクルームです。スチルスタジオのうち、1面はかなり天高もあるので、モデルの全身撮影にも余裕で対応できます。
撮影スタジオの面数も増えたのですね。
そうなんです。スタジオも増えてフォトグラファーも増員しました。ただ、たくさん点数を撮るのが目的ではありません(笑)。
スマホやSNSの進化、ECの伸びなど、従来のメディアや広告の枠に捉われないフィールドが急速に発達しているじゃないですか。昔はネット領域に関しては、クオリティが落ちていても消費者は納得していた部分もありましたが、今は、特にコスメティック関係の企業からすれば、表現のクオリティもすごく高くなっていますし、それが求められています。
メディアの特性に合わせながら、しっかりとしたビジュアルを作らないと「いいね!」を頂けない時代になっています。そこは資生堂としてクオリテイコントロールをして、発信していかなければなりません。
資生堂の商品ラインナップは膨大ですよね。
資生堂の製品ブランドはたくさんありますし、撮影カット数も量が多いので(笑)、従来のままではリソースが足りなかったのも事実です。設備もマンパワー的な規模も拡大して、質的な管理もしやすいような方向性に持っていきます。
デジタルの時代、ネットの時代にはスピード感も求められます。納品やアウトプットまでの時間を早めるために、撮影アシスタントとは別に“専属のレタッチャー“を入れました。またマネージャーを入れて、スタッフのスケジュールや撮影の進行をコントロールするようにしています。
レタッチャーを入れることで、撮影スタジオと同じフロアにレタッチルームを設けました。専属のレタッチャーがそばにいることで、スピード感だったり、情報交換だったり、フォトグラファーとのシナジー効果も期待しています。
クリエイティブ本部にはADやデザイナーが多数いる中で「撮ってください!」から「上がりました!」まで、または「こんな感じはどうですか」という一連のフローを“ワンストップでスピーディに”行えるようになります。
動画へも対応されるのですね。
普通のCMもあれば、自社サイト用の商品動画もあります。5Gの時代になるのでSNSを含めた“ライトな動画制作”は確実に増えていきます。そのニーズに応えるためにブロードキャストスタジオを作りました。
また社内放送と言うと堅く聞こえますが、情報共有や、例えば社長のメッセージの社内配信とか、インナーコミュニケーションにも有効です。
本格稼働はいつ頃からでしょうか。
今年の1月に出来たばかりで、まだ社内周知をしている段階です。今後認知が広まれば、急激に忙しくなるんじゃないかと思います。
Creative Labから、スタイリストや美術を直に発注することはないので、そこはもともとあるクリエイティブ本部とCreative Labが合わさって、一般にいうコンテンツスタジオ的な機能を果たしていければと思っています。
宣伝部の撮影が内製化された分については、コストダウンになりますか。
かなりなると思いますが、ただ我々も単価が安いだけの撮影をいくら撮っても、売り上げは上がりません(笑)。市場の適正価格や過去の実績と照らし合わせて提案していきます。
Creative Labに出すことで、コストダウンに繋がる可能性はありますが、それが主目的ではありません。「クオリティとスピード感を担保する」これが第一です。そのクオリティも、製品ごとのマーケティングの意向であったり、その製品の魅力や何をアピールしたいのか等、でき上がったものにそれが十分担保されていることが重要です。
外のスタジオを借りると「二日間で撮らないといけない」とか、時間の制約があります。限られた時間内で最高のクオリティを突き詰めるのも重要なスキルですが、社内のファシリティが充実することで、余裕を持って試行錯誤できる面は、メリットだと思います。フォトグラファーの伊東祥太郎、大谷麻葵もテンション上がっているみたいです(笑)。
企業は、内部に宣伝・制作機能を持たず、外部に委託するという流れはあるかと思いますが、「Creative Lab」は人材育成の側面もある気がします。
この場所はフォトグラファーだけではなく、アートディレクターや若いデザイナーも出入りします。「こんな事を試したいのだけど」「これって出来ますか?」とか、そういうやりとりの中で新しい表現が生まれる場所になってほしい。そこにマーケティングの人が加わるとか、そういう輪が広がっていけばいいかなと思います。2020年からの資生堂の写真や映像コンテンツに注目して頂きたいです。