はじめに八木さんの経歴を簡単に教えてください。
2001年にレンタルスタジオに入社しまして、2003年からフォトグラファーの富田眞光さんの元でアシスタントをさせて頂きました。その後、2006年にロンドンへ留学をして、2007年に帰国。フリーランスとして仕事をし始めました。
僕の場合、高校時代に写真部だったとか、写真学校を卒業したわけでもなく、何の知識もないままレンタルスタジオへ就職しました。
そうなんですね。最初は大変ではなかったですか?
撮影するわけではないですし、まずスタジオのメンテナンスやライティング等、現場のサポート作業から始まるので徐々に慣れていきました。スタジオに入った当初は、レンズの単焦点とズームの見え方の違いもわからなかったんですよ(笑)。
その後、富田眞光さんに師事されたのはなぜですか。
デジタルカメラでの撮影が増えてきて、タイミング的にレタッチも含めたスキルを身に付けたいと思っていましたが、我流で学ぶには限界がありました。
そのタイミングで富田さんがアシスタントとレタッチャーを募集されていたので「これは!」と思って(笑)。ライティングやレタッチに関しての技術的なことは富田さんの元で教わりました。
その後、ロンドンに行かれたきっかけはあったのですか。
2001年にアシスタントを始めて2007年に独立したので、6年間アシスタントをしていたんですね。独立したら「ずっと写真で食べていきたい」と覚悟を決めていたので、オフを入れるなら卒業と独立して動く前のこのタイミングしかない!と思って(笑)、語学留学という形で渡英しました。
ロンドンではあまり写真を撮らないつもりでした。帰国したら写真を撮り続けるだろうし、撮らない期間があってもいいのかなと…。留学期間は10ヶ月くらいでした。
今さらですが、ロンドンでもフォトグラファーとして活動できるように、もっと精力的に動いておけば良かったかなと思います(笑)。
八木さんの写真は「肌のトーンが美しいビューティフォト」というイメージがあります。なぜビューティだったのでしょうか。
ビューティを撮り始めたのは、「ライティングの技術を見せたい」と思っていたからです。光を構築していくのが好きなので「肌の美しさを写真で表現したい」というのが一番にあります。
肌の立体感とか、キメとか。「究極に美しく撮るためにどうすればよいか」そういうマインドで仕事をしています。ただブツ(商品)撮りに関しては我流なんですよ(笑)。
スタジオスタッフ時代にフォトグラファーの仕事を見てはいましたが、専属アシスタントのように細かいところまで教わったことはないんです。
自分が物撮りに興味をもった時、海外で活動する物撮りのフォトグラファーだったり、かっこいい物の写真を撮る方が増えていった頃だったので、その写真を見ながらライティングを勉強しました。
ビューティとブツの両方を撮られるんですね。
自分の性格にも合っていたんだと思います。というのは昔、建築の仕事を少ししていたんです。ものづくりというか、理論的に構築して組んでいく作業が好きなんですね。あと彫刻もしていました。
そうなんですね。初めて伺いました。建築と彫刻、どちらも光を組み立てていくところに通じているんですね。
石膏美術をやっていました。設計や製図とかも好きなんです(笑)。
八木さんの撮影周辺機材を教えてください。
撮影現場は、MacBook Proでテザリングしていたのですが、ちょっと画面が小さいので、iMacを持っていきます。
中判カメラはRZとフェーズの組み合わせです。ただ最近は35mmでフットワーク軽く、という撮影が多くなってきました。35はキヤノンのEOS 5D Mark3、ソニーのα7 R3、R4です。ソニーが出てからは、ブツはソニーで撮っています。
αでブツを撮るのはなぜですか。
カメラというよりもαのレンズが堅めでシャープな絵が出るので、ブツ撮りに向いている気がします。僕の感覚だけかもしれませんが、ズームレンズが他メーカーよりもピントが深い気がするんです。ブツを撮る時にピントがビシッと深めに合ってくれるのが好きですね。
αの色は全域でニュートラルに出てくれるので、細かい色表現が求められるコスメの撮影にも適していると思います。
自宅で写真のチェックやレタッチもされますよね。
そうですね。現場はMacで、自宅はEIZOのCG2420を使っています。プロのフォトグラファーが使うモニターとしては、EIZOしか選択肢がなかったですからね。2016年の2月頃に発売されたモデルで、解像度はフルHDくらいだったと思います。写真のレタッチに関しては、4Kとかの高解像度は特に必要性を感じませんでした。
テレビや映像関係では4Kが標準になりつつありますね。
映像の編集をする方には、4Kで見ることが求められるので、マストでしょうけれど、写真、特に紙媒体の印刷はいまでも175線ですし、モニターにはそれほど解像感は必要ないかも。
「SW270C」は2Kで、これで十分な気がしますが、メーカーにはこのタイプで4Kを望む声もあるそうです。
フォトグラファーでもムービー撮影を始めている人も増えているので、今後は4Kも必須になっていくのでしょうけど、僕は4Kモニターでレタッチをしたことがないので、どんな感じなのかもよくわからないですね(笑)。
レタッチする際は、100%表示で作業されるのですか。
100%表示でレタッチし始めたら、作業が終わらなくなっちゃう。逆に細かくやり過ぎることがよくない時もあります。まつ毛が少し曲がっていたら、直してあげることくらいはしますよ(笑)。
ただ自分でレタッチするのは雑誌の仕事だけで、広告の場合は外部のレタッチャーに依頼することがほとんどです。
写真展「Y-EN」は、クリエイションにこだわった美しいビューティフォトを展示されていました。肌とメイクの質感が半端なくクオリティが高いと感じました。
ありがとうございます。「顔とメイク」という世界で、どれだけのことができるか、今の自分を見せるよい機会になりました。
基本的にメイクさんが描いたものを色味はあまりいじらず仕上げています。レタッチは入れているのですが、「どこをレタッチしたのかわからない」くらいのレベルに仕上げたつもりです。
展示は1mくらいのパネルになるので、肌のキメや質感を残したまま、大きくしても自然に見えるように、作りました。
肌の質感にこだわる八木さんに、新型の「SW270C」をしばらく使って頂きましたが印象はいかがですか。
今まで使っていたiMacは発色が派手で、コントラストが少し強いですね。EIZOのモニターだと浅い感じがしてしまう。かつ少しフィルターがかかっている気がするんです。あくまで僕の印象ですが、よく見ると画面があってその手前の薄い膜を通して見ているような…。
この「SW270C」は、MacのRetinaのような派手な色彩ではなく、現物の商品に近い色が出ていますね。膜を感じないし、シャドウ部のグラデーションもなめらか。派手すぎず地味すぎず、ちょうどいいさじ加減だなあという印象を持ちました。フォトグラファーが使うにはバランスが良いと思います。
特にスタジオで、テザー撮影する際のモニターとしてはベストです。Macのモニターだと派手に見えて一見良さげなんですが、僕の仕事のような肌のキメや、コスメブランドの商品の色味、グラデーションを正確に見せるには、ちょっとコントラストが強すぎるんですね。
とはいえモニターの発色を印刷(CMYK)に近い設定にしていると「この色でゴール(正解)なんですか?」って聞かれてしまうことがあるんです。
今はスマホの液晶を含め、派手な発色に皆の目が慣れてしまっています。「このモニターの発色は、印刷の色に合わせているんですよ」とお伝えしても、クライアントの「え〜?ほんとに」という言葉で表さない空気を感じる(笑)ことが実際にあるんです。「このフォトグラファーは色が出せないのでは?」と不安を与えてしまいかねないです。
「SW270C」は、ボタン一つで違う色域を見せられるので、「現場で撮っている製品の色」と「印刷ではこのくらいになりますよ」という、両方を提示できるので、クライアントを安心させられて、仕事が進めやすくなりますね。
印刷に近い色を提示するのは大事ですね。
そうなんですが、特に立会いがある撮影現場って、ある意味“フォトグラファーのプレゼンの場”でもあるんですね。やっぱり見栄えよく見えていた方がいいんです。とはいえMacだとコントラストが強いし、シャドウ部分のグラデーションが潰れがちだったり…。ハイライトに近い部分も白飛びしやすい。
Retinaの場合、RGBのハイエストライト(255)とブラック黒(0)の手前でコントラストがあがるんです。それよりもBenQモニターの方が、派手すぎず地味すぎず、プレゼンテーションという意味では、ベストな感じがしました。
SW270Cは、擬似的ですが画面を2分割して別の色域表示ができます。左にAdobe RGBで右にsRGBとか。
このコントローラーで色のモードを割り当てられるんですね。オリジナルも入れられるのですか。
キャリブレーションをとると、デフォルトで入っているもの以外にも色設定をして入れられるそうです。
なるほど。 そしたらここに「5500ケルビン」とかに設定したモードを入れておけば、一発でモニターの色が変えられるのですね。ワンクリックで「現場で見せる用」「印刷用」「モノトーン」とかを切り替えられるのはすごくいい。
あと最近は、媒体がWebのみという仕事も増えてきているので「PC画面用」とかを割り当てられたら、めちゃめちゃ便利ですね!
モノクロモードはいいですね。「モノクロで見てみたい」というフォトグラファーは多いです。カラー用の写真をモノクロにしたらトーンが浅く見えてしまう時があります。モノクロに合うトーン調整や露出調整があるんですよね。
一点一点グレースケールにするのも面倒ですし、撮ったカットをサムネールでたくさんブラウジングして見られると助かります。「印刷用」「Web用」「モノクロ」で割り当てておけるのは最強ですね。
27インチという大きさはいかがですか。
撮影現場では画面が大きい方が、関係者やスタッフが小さいノートPCを覗き込むよりもいいと思います。メイクチェックや服のディテールを確認するのもしやすいですね。
自宅では24インチを使っていてこれに慣れていますが、ツールパレットを広げることを思えば、27インチあってもよいかもしれません。
今の自分の仕事の状況としては、2Kあれば十分でした。ただ今後のことを考えると4Kモニターもあればあったでよいのかなと、考えてもいます。
画面のムラはどうですか? ムラ補正をするユニフォミティという機能が搭載されています。
僕が使っている限りでは、全然気にならなかったですね。
このモニターで、ムービーも見てみたのですが、やはりなめらかというかトーンジャンプしない感じでした。
メーカーの代わりに言いますと、パソコン側で表示解像度を1080(HD)に変更すれば、24Hzのリフレッシュレートに変換可能となり、 1080/24Pのリアル再生ができるそうです。 通常モニターの60Hzリフレッシュレートによって生じるソース映像の歪みがなく、 24Pのフレームで表示されます。
そうなんですね。シネアドの制作にはこのモードがあるとベストですね。でもそれを知らなくてもキレイでした。
今、お見せしているのは、「Y-EN」のメイキング映像です(上)。
編集で少しトーンをいじっていたのでノイジーな感じがあったのですが「SW270C」で再生した方がモニターの性能がいいからなのか、滑らかに見えますね。
僕はビューティを撮るので、ブツ撮りのライティングも「メイクをしていく感覚」に近いものがありますね。モノに光でメイクしていくので、「この商品はどこにハイライトを入れたらかっこよく見えるんだろう」とか、そういう事をいつも考えています。正解はないにしても、そのセンスや経験値って、すごく出るんです。
だからこそ、商品撮影をするフォトグラファーには、正確な色再現とか階調をしっかり出してくれるモニターはありがたいですね。
先ほど撮影現場はプレゼンの場でもあるというお話をしましたが、このモニターはUSB Type-Cで、変換せずそのままMacに繋がるので作業スペース周辺がシンプルなのもいいですね。「スマートさ=仕事ができる感」にも繋がりますからね。
キャリブレーションについてはどうされていますか。
今のCG2420は自動調整タイプなのですが、以前はハードキャリブレーションタイプを使っていました。自動調整は楽ですが、自分で調整するのもそんなに苦ではないです。その分、価格も安いですしね。
アマゾンでSW270Cの実勢価格は約91,000円(2019年11月)です。
ハードウェアキャリブレーションとムラ補正、遮光フード付きでこの価格なら、非常に買いやすいんじゃないですか。
プロフォトグラファーなら、カメラとレンズはもちろんですが、色管理は最重要ポイントなので、1台目のメインモニターとして導入しやすい値段だと思います。MacのノートPCだけで仕事をしている人は、Retinaの派手な色しか見ていないということですからね。「繊細な色彩感覚」を持っているプロには、クライアント側からしても安心して任せてられるのではないでしょうか。
あと台数が必要なレンタルスタジオや、人数の多いレタッチカンパニーは買っていいと思います。台数が多いとコストもかなり違ってきます。
今回「SW270C」を使用して頂いて、八木さんの選択肢には入ってきますか。
モニターも消耗品である限り、長年使っていると買い替えサイクルがきます。僕が独立した時は、プロが使うカラマネモニターは限られていたので、1社しか知らなかったんですよね。でもこうして、BenQのモニターを使わせてもらって、クオリティとコストの両立は、企業努力の成果だと思いましたし、個人的な選択肢に入りました。
僕が所属している「SIGNO」のスタジオで他のフォトグラファーもテストしたところ、評判は良いみたいです。「ベンキュー」というブランド名を、フォトグラファーやレタッチャーにはもっと知ってもらいたいですね。
BenQ SW270C
主な仕様
27インチ WQHD (2560 x 1440) の解像度
正確な色再現を可能にする「AQCOLOR」技術採用
Pantone/CALMAN認証取得
Adobe RGB 99%、sRGB 100%、Rec.709 100%、DCI-P3/Display P3色域を97%までカバー
Palette Master Element(無料ダウンロード)によるハードウェアキャリブレーション
視野角(左右/上下)178°/178°
10bit(約10億7,000万色)カラーディスプレイ
遮光フード 標準装備
Photographer
八木 淳
1977年 宮城県生まれ。
2001年 エガリテ スタシオン 勤務。
2003年 富田眞光氏に師事。
2006年 渡英。
2007年 帰国後から本格的にキャリアをスタート。
Beautyを中心にファション、ポートレート、スティルライフなど幅広いジャンルを手がけ、活躍の場も広告、雑誌、ムービーと多岐にわたる。
2019年6月、初の個展「Y-EN」「A sense of Hong Kong」を開催。
http://www.signo-tokyo.co.jp
http://www.atsushiyagi.com/