TOPINTERVIEW五十嵐隆裕 x Profoto「Pro-D3 & ハードリフレクター ホワイト」

#INTERVIEW 五十嵐隆裕 x Profoto「Pro-D3 & ハードリフレクター ホワイト」

2024年10月1日

五十嵐隆裕 x Profoto「Pro-D3 & ハードリフレクター ホワイト」

プロフォトから各パーツの耐久性を高めたハイボリュームな撮影向きのストロボ「Pro-D3」と、内面にホワイトコーティングを施したハードリフレクターが発売された。
新しいストロボとライトシェーピングツールを使用した撮影を、フォトグラファーの五十嵐隆裕氏に依頼。ディフューズしない、ストレートな光を肌に当てた「Pro-D3」の光質は、五十嵐さんにどう写ったのか。また「骨格を見ながら最高に美しく見えるスポットをさぐる」という五十嵐さんの照明論も伺った。

Photo:五十嵐隆裕(SIGNO) ST:竹内大海(SIGNO) Hair:TETSU(SIGNO) Maku Up:ITSUKI(SIGNO) Retouch:ベッチャー 海(IINO GRAPHIC IMAGES) 撮影協力:イイノ・メディアプロ Model:LIAN(tomorrow tokyo)
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長) BTS Photo:中西太河

坂田 はじめに、フォトグラファーになるきっかけを教えてください。

五十嵐 そもそものお話すると、私の場合は父がカメラマンで母がスタイリスト、という家庭だったので、その環境が影響していると思います。

竹橋の科学技術館ってありますよね。あそこの企画展のポスタービジュアルを父が撮っていて、小学校3年の時に、僕がそのモデルになっていたんです。

手を広げて「キッズの未来!」みたいなポーズで(笑)。現場にいって、スタイリストが準備してくれたものを着たり、「みんなでつくる」という経験をしていたので、それが原体験的なところです。撮影や、「現場でものをつくる仕事がある」というのは子供の頃から知っていました。

五十嵐隆裕さん。

一般社会では父親が出勤して何をしているのか、子供にはわからないじゃないですか。うちはたまたま、すごくわかりやすい仕事だったので、その影響は大きいと思います。

あとはプリクラ世代だったので、ものすごくプリクラを撮って、友人がたくさん写っているシール手帳を何冊も持っていました。今でいう「オレ、こんなにフォロワーいるぜ」的なものだった気がします(笑)。その後は「写ルンです」でも撮っていましたね。写真を撮る行為が日常でした。

坂田 「写ルンです」はフィルム時代、すごくヒットしましたね。

五十嵐 ものすごい量を撮っていました。

坂田 写真を撮る、撮れる環境が影響しているのですね。

五十嵐 中学、高校生の頃は、かばんの中が「写ルンです」でいっぱい、ということがよくありましたね。そのくらい撮りまくっていました。

僕はアーティストではないので、作品展示をするとか、写真集にまとめるという方向に興味が沸かないんです。自分の作品や仕事を見返して楽しむ、ということをあまりしません。

昔も今も、「撮っている現場」が好きなんです。子供の頃に撮った写真をプリントして、みんなにあげたら喜んでくれたので、小さい頃から「撮る」という行為を楽しんでいました。

「Pro-D3+マグナムリフレクター ホワイト」を使用し、パウダーをモデルにかけた一瞬を切り撮る。
フリーズモードで発光(以下同)。

坂田 写真学校を出た後にアメリカ留学されていますが、それはどういう目的からでしょうか。

五十嵐 2000年代はとにかく写真が流行っていたし、フォトグラファーやスタジオアシスタントをやりたい人もいまより多かったですね。うまい人も山のようにいる。

その中では「人と違うことをしないとダメだ」というのが漠然とありました。その時期に偶然、リチャード・アヴェドンの『In the American West』という写真集を書店で見て、「この人につきたい!」と思って渡米しました。

坂田 ものすごい行動力ですね!

五十嵐 周囲には「バカなの?」って言われましたが…。無知は武器でしたね(笑)。

でもアポをとるためには、英語も話せないといけないし、写真のことももっと深く知る必要もありますよね。日本の写真学校は好きでしたが表層的に感じる部分もあって、まず渡米してアメリカの学校で学び始めました。

父親が使っていた「Pro-2」

坂田 プロフォトはいつ頃から使われているのですか。

五十嵐 父のスタジオが乃木坂にあったのですが、ジェネはすべて「Pro-2」でした。小学校が近かったので毎日学校の帰りにスタジオへ寄っていました。

「Pro-2」は音が独特で、ジェネレーターから常に音がなっているんです。「デュデュデュ、、」という。蓄電のためなのか、怖かったのですが(笑)。それが僕の知っている「ストロボの音」でした。

坂田 幼少期のスタジオ体験が「Pro-2」ってすごいですね。

五十嵐 そうなんです。「Pro-2」は僕の2代目のアシスタントに譲ったので、手元にはないのですが…。

坂田 アメリカにいらした時は機材はどんな感じでしたか。

五十嵐 向こうでもプロは使っていました。 プロフォト歴は、かれこれ35年以上です(笑)。最初は鉄の箱でした。それはそれでカッコよかったですよ。

Pro-D3とマグナムリフレクター ホワイト。

坂田 今回、新製品の「Pro-D3」と「ハードリフレクターホワイト」で撮影をお願いしました。

五十嵐 僕は「撮影道具は食材」だと思っています。照明機材は料理に例えることが多いです。まず自分を「新しい食材を与えられたシェフ」だと仮定するんです。そうしたらまず「生でその食材の味」を確かめます。魚だったら「まずは刺身で食べてみよう」と同じです。

製品の特長や光質を知るために「仕込みなし=直射」というのは最初から決めていました。Pro-D3はAC電源のモノブロックということで、機動性の良さを活かしたいなと、思いました。

ムービーの仕事もするようになって、「一瞬を切り撮る写真の強さ」を再確認しているところだったので、今回は写真でしか撮れない絵にしたかった。モデルは食材だと思っているので、旬のモデルと、Pro-D3、ハードリフレクターホワイトで「生の光と肌をかけ合わせること」をテーマにしました。

後は「誰でも再現できそうな設定にしたかった」ということです。難しいことをしたり、多灯するほど、その偶然性は再現しづらいものになるので、1灯で(他者が再現できる)必然性を高められるように、セオリーに沿ったセッティングにしました。

タイミングを合わせ、パウダーをモデルにかける前後のタイミングで連写している。

坂田 打ち合わせの時に「定常光しか使わない年」とか、自分の中にブームがあるとおっしゃっていました。

五十嵐 そうなんです。一昨年はそういう時で、かなり定常光推しで撮っていました。でもストロボじゃないとできないことが沢山あるんですよ。この作品もLEDとかでは絶対に撮れない写真ですしね。

坂田 プロアマ問わず、撮影ではLEDライトが普及しつつありますが、逆に瞬間光をコントロールできる人が、よりプロフェッショナルな仕事のオファーがきそうな気がします。

五十嵐 そう思います。昔よりも写真学科生やアシスタントの希望者も減っていますよね。でもストロボ撮影こそ一つの「職人技」だと思うんです。だからこそ、それを身につけた人はスキル(武器)として価値が上がるのだろうなと。

自然光が好きな人はたくさんいますし、僕もそうです。ただ「自然光とちょっとフィルライトを足しました」という程度の感覚では、仕事のオファーを受けるには心許ないものがあります。

坂田 光をわかっていないと、特にスタジオでの撮影はハードルが上がりますね。

五十嵐 そうなんです。シビアな広告仕事になると途端に太刀打ちできなくなっちゃう。

バックは両サイドからアンブレラで4灯、下部とトップから各2灯の合計12灯を設置。
五十嵐さんは、光を均質化したりムラを作るために、できるだけ多灯で個別調整するという。

五十嵐 照明って、学問的には4パターンしかないんです。いま日本では5パターンあると思っていますが、その中から一つを選べばいいんです。1/5の話。だけど日本で学問としての照明を学んだフォトグラファーがほとんどいないのが現状です。そして様々なメーカーから、多種多様な照明機材が発売されているので、種類が多くて色々なことができそうな気がしてしまうんですね。それが逆に迷いを増幅させてしまいかねない。

でも今日は「この5パターンのうちのこれでいく」と決めて、試合(撮影)に望めば、何も怖いことはありません。

坂田 パターンを知って、そこからの応用(アレンジ)ということでしょうか。

五十嵐 照明に関しては、実は応用というのはあまりなくて、後は高さ(光の位置)の話なんです。XとY、Zという3軸の中で、最後に高さを決めればいい。そこで見え方を変えていくということです。

肩が向いている方向から光を当てることをブロードサイド、逆をショートサイドと言いますが、スタジオスタッフには「今回はショートサイドからキーライト30度くらいで組んでおいて」というように伝えておけば、自分がスタジオ入った時にはベースのライトができています。詰める段階で被写体の骨格に合わせて高さを調整すればいいわけです。

具体的な指示を出しておけば、スタジオスタッフのセッティングも早い。

照明学はパターンから学んでいく学問なのに、(自分の学生時代は)日本ではあまりそういうこと学べなかった。「好きなように光を当ててみればいい」みたいな(笑)。自分の好きな光が見つかれば、あとはTTLに任せておけばやってくれる的なことですね。

坂田 機材の性能がいいですからね。

五十嵐 そうなんです。それが通じるのは1灯の時だけじゃないですか。多灯を個別にコントロールはできません。ということは“雰囲気系”の撮影しか対応できないフォトグラファーが量産されてしまう。

一時期、クリップオンで正面からドスンと撮るのが流行って、その後衰退したのが、今年はまた突然増えたとスタジオアシスタントに聞きました。狙ってそれをするのであればよいのですが、頼りすぎると技術のなさが露呈してしまいます。

左からテレズームリフレクターホワイト、マグナムリフレクターホワイト、ズームリフレクターホワイト。内面がホワイトコーティングされているのが特長。

「Pro-D3」と「ハードリフレクターホワイト」の印象

坂田 今回新型のPro-D3と、内面がホワイトのリフレクターで撮影をお願いしました。瞬間を止めるという「写真らしい表現」でしたが、光質などの印象はいかがでしょうか。

五十嵐 そうですね。使った印象として光質も色味も「今っぽい」と思いました。D2とは違い、発光菅もコンデンサーも全て耐久性の高い素材で新設計されているということで、連写しても1コマのブラックアウトもなく発光していました。

プロへッドやジェネの「Pro-11」が、超高性能のスポーツカーだとすると、この新しいフラットヘッドは、高性能な最新型の電気自動車のよう。最大出力が750/1250Wsなので、一般的な撮影では十分使えるし、今回使った「フリーズモード」や、逆に機材の寿命を伸ばすための「エコモード」などは、最新機種らしく、耐久性の面でもよく考えられていると思いました。

写真はレスポンスが大事なので、カメラの性能にもよりますが「ここだ!」と脳が思って、指に伝達されてシャッターを押してから、ピカっと光って撮れて、モニターに映るまでの時間が短い方が仕事が効率的なんです。そのスピードが早くなっていると感じたので、仕事ではより使いやすいなと思いました。

Pro-D3のフリーズモード撮影だと、視覚では追えない液体の表情も写し止めることができる。

坂田 Pro-D3に新しく追加された「フリーズモード」により、短い閃光速度が今回の撮影では有効でしたね。バックは左右で8灯、上下に4灯、合計12灯を「Pro-11」に繋いで、1灯1灯の閃光速度を速めるセットアップを組んでいました。

五十嵐 そうですね。でも僕の中では「もうちょっと灯数があってもよかったかな」と思っています。多灯にする意味は、今回のような連続発光にもついてこられるためと、あと1灯ずつ光量を制御したいからです。

坂田 逆に被写体には1灯で、ディフューズやフィルターをかけずに生光で当てられていました。

五十嵐  僕が新しく直アシについてもらう人たちに伝えるのは「最初は必ずスペキュラー(生の光)を使いこなすこと。ディフューズを最初に選ぶのは弱者の選択である」という言葉です。自分がアメリカで最初に教わった事をそのまま伝えています。

坂田 かなりストレートな言葉ですね。

五十嵐 アメリカで学んでいた時に「ディフューザーには手を出すな」と、まず言われるんです。全てはスペキュラーをマスターしてからです。照明の世界では、切れ味の鋭いスペキュラーを下手に当ててしまうと、ガッチガチになってしまう。けれど今回の作品を見てもわかる通り、思ったほど硬くないわけです。

肌もツルっとしているし、ヘビーなハイライトも出ていません。ギラギラもしていない。実は撮影途中で(高さを)拳2個分ほど下げているんですね。この角度が数度変わるだけで、ギラギラがなくなるスポットがあるんです。

そのスウィートスポットって、ほんとに小さいのですが、その人の骨格に応じたポイントがあります。生光であればあるほど、逆にやわらかく見える瞬間、というのがあります。それが探しやすかったのは「Pro-D3」のLEDモデリングの明るさでした。このモデリングの光量があるから、キーライトとして使えるんですね。

坂田 Pro-D3のモデリングは6300ルーメンで、色温度もストロボとほぼ同色らしいので、五十嵐さんの言われるポイントを探りやすいのかもしれませんね。ストロボを直射しているのに、肌がギラギラしていません。

五十嵐 そうなんです。これにディフューザーをかませると「面」でテカってしまうんです。

でも仕事でスペキュラーを使うのって、難しいし怖いんですよ。だから学んでいない人は傘トレとか、ソフトボックスに始めから手を出す。何ならディフューザーを内側と2枚重ねる人もいますよね。

本来なら「キーライトの基本はスペキュラー」というのが正攻法のはずなんですが、特に日本では「キーライトをデュフューズする」がデフォルトみたいに思っている人が多い気がします。

泡立てたソープを使用。

坂田 内面がホワイトのリフレクターは、シルバーほど硬すぎないので、直射でのビューティ向きかもしれません。

五十嵐 モデル側からも見ていたのですが、発光部が白いと撮られる側にもやさしいというか、瞳への負荷が少しやわらぐ気がしましたね。モデルの素質にもよるでしょうけれど、LIANは粉や液体をかけられていても眉間にしわも寄せず、平常心のままだったので、プロ意識を感じました。

今回はモデルをアジア人にした理由は、アジア人以外を撮るとカッコよく見えてしまう面があるからです。ホワイトリフレクターで、同じアジア人を撮ることに「リアリティとカッコよさ」を見出したかった。

ストロボって強制的な光だから、普段記念写真で撮られる時も違和感ってあるじゃないですか。でもそれを「嫌じゃないようにできるポイント」があるんです。ほんとのスウィートスポットに芯を刺すことを心がけています。

それを知っていると撮影時間が短縮できたり、早くゴールに近づける。写真には正解のポイントがあります。「とりあえず色々試して後から選ぶ」でもいいのですが、そうすると時間もコストもかかるので、なるべく早くいいものを撮るための技術と、目を養うことが重要かなと思います。

粉体や液体をかけるタイミングを合わせながら連写していく。

坂田 ホワイトリフレクターは日本人、アジア人には向いているかもしれないですね。

五十嵐 今回使ってみて、そう思いました。それと色温度が少し高めですよね?

坂田 フリーズモードで発光した場合、ストロボの色温度は通常より2~3000K高くなり、6,400~9,000Kほどだそうです。

五十嵐 ですよね。少しGぽっさが入っていて、アジア人の肌だと暗部に赤黒さを含んでいるので、そこに対してコンシーラー的な効果もあると思いました。もちろんレタッチもするんですけどね。

Capture OneとかLightroomを使っている人なら、少しコントラストと明るさを調整すれば、すぐに使えるデータになりますよ。

坂田 今回の肌メイクですが、かなり薄く感じました。

五十嵐 スキンはほぼ素肌に近いです。スポットでコンシーラーとかも使わないでとお願いしてあります。艶のあるベースにしているのですが、テカリはそれほど感じない光にしてあります。

顔の掘りについてなんですが、アジア人の“見た目の良さ”はストラクチャーではなくパーツなんです。目と鼻と口の角度と分布している比率で“見た目の良さ”が決まっているので、そこを引き立たせるのが大事です。肌のトーンにフォーカスさせるよりもそちらが重要になってきます。

坂田 メイクがナチュラルトーンだったので、色に目が奪われることもなく、肌の美しさと絡ませた素材の質感を注視できました。

五十嵐 アイシャドウや強い色のリップとかで、パーツを際立たせるようなことはしていません。その方が、光の質がわかりやすいのと、顔と素材の一体感と異質感を優先しています。ディフューザーをかければかけるほど、メイクの見え方もダメになっていくので。

メインライトはPro-D3を直射で使用。バック用にPro-11+ヘッド12灯で広い範囲の連続発光をカバー。

坂田 肌をキレイに見せるためにディフューザーをかける、という風潮がありますね。

五十嵐 逆なんです。肌をキレイに見せるためには生光がいいんです。勘違いですね。

坂田 まず「1枚かけましょう」という教わり方をしますよね。

五十嵐 光を包丁に例えるなら、スペキュラーライトを当てることは、長い柳刃包丁でスパッとお刺身を切るイメージなんです。でもそこにディフューザーをかければかけるほどノコギリでお刺身切っているみたいになる。ビューティ撮影の肌にはかけないでほしいなと思いますね。

ディフューザーは背景だったり、被写体に対して面積を大きく照らしたい時に形に合わせて使うものなんです。昔のハリウッド舞台の照明をみていると、人間にはスペキュラーのスポットライトを当てるじゃないですか。そこにディフューザーをかけている人はいない。あれが基本なんです。

ディフューザーはエフェクトの一つなので、何かそういう目的がある時に使えばいい。そういった「照明学」を教えてくれる写真学校は、日本にはゼロですし、海外でも減っています。

「光」はフォトグラファーのステートメントである

五十嵐 「光はフォトグラファーのステートメントなんだよ」とアメリカの学校で教わりました。自分の言語がディフューズされたステートメントだったら、「ゴニョゴニョしたことしか言えない人」になるんです。でもスペキュラーでパンとしたステートメントを持っている人はわかりやすい。

ライトも同じで、いくらフォトグラファーが自身満々で現場にやってきても、まずキーライトにディフューズをかけ始めたら、やっていることがチグハグに見えますよね(笑)。

坂田 「自分はこういう光が好きなんだ」という芯を持っているかどうかが大事ですね。

五十嵐 そうです。ただ広告写真の場合は、自分の作品ではないわけだから、クライアントから「こういう人物像を作りたい」と言われた時に、自分なりのステートメントを言葉で考えて、それを具現化していきます。

「幻想的」「均質的」「暗い雰囲気」とか、ディフューズされた世界を求められていれば、それを作ればよいし、明るくて爽やかで、という人物像を求められていたら光もスペキュラーにしないといけない。「その方法論を武器として持っておく」ということですね。

液体や粉体をかけるのは一発撮りの要素が強いため、ヘア、メイク、スタイリングを現場で入念に詰めていく。

坂田 とりあえずフラット気味に撮っておいてレタッチで締める、という方法が普及していますが、それだと他者と差別化するのが難しい時代になっているかも。

五十嵐 レタッチの技術含めて、クオリティが均質化している気がします。失敗もないけれど、そこから人と差がつくような写真は生まれづらいでしょうね。

3種類の中でマグナムリフレクター ホワイトを選んだ理由

五十嵐 私は映像を絵とは別にヒストグラムで見ています。RGBで「0から256までの範囲」で、どのように画像の波形を持っていくのかを考えていて、その数値でマグナムリフレクター ホワイトをメインに選びました。

この色の波形というのは、音にも近いんです。今回はピーキーすぎたとか、低音が効きすぎとかって言いますよね。

テレズームは一番指向性が高い分、硬めでピーキー、ズームリフレクターだと少し広い。この撮影では、マグナムリフレクターホワイトが、自分のやりたい表現に一番近かったからチョイスしています。

僕は音楽もやっていたので、写真をドンシャリ(低音と高音が立つ設定)とか、カマボコ型、バランス型とか、そういうイメージでも捉えています。その差はレタッチである程度補正できるものなのですが、撮影の意図としてはじめに選んで使う方が、ゴールに早く近づけますね。

「テレズームリフレクターホワイト」は、ドラマチックな演出にしたい時にはハマります。レンブラントとかで少しダーク調の世界にしたい時です。「ズームリフレクターホワイト」は一番汎用性が高いと思います。

アクセサリーをつける時に使いたいですね。ちょうちんとか、天紗幕に何灯も仕込むとか。汎用性が高いです。

左から、テレズームリフレクター ホワイト、マグナムリフレクター ホワイト、ズームリフレクター ホワイトで撮影。
テレズームが最もコントラストが高くなる。

あとこれが一番勘違いされやすいのですが、ライトを近づければ近づけるほど「光が強烈になる」「硬くなる」イメージがあるようです。近づけるほど強い光になると思っていますが、実は逆で、ライトを離せば話すほど硬くなって影がくっきりしてきます。そういうバランスもありますね。

この撮影は、ビューティにしてはモデルと光源には少し距離があります。それは液体や粉を使うリスクを考慮したためです。なので少し硬めには出ているかなと思います。

坂田 ライトを近づけることを怖がってはいけない、ということなんですね。

五十嵐 そうです。寄った方がやわらかくなるのです。

坂田 「Pro-D3」は初期の導入機材としてはどうでしょうか。

五十嵐 初期投資としては、それほど高くないかなと思います。昔の商法では、株式会社は1,000万円、有限会社は300万円の資本金が必要だったわけじゃないですか。今は1円から作れますが。

そもそも300万円を準備できない人が、ビジネスを立ち上げるのはなかなか難しいですよね。フォトグラファーならカメラとレンズは持っていると思うので、50〜100万円を周辺機材に投資するのは有効な選択だと思います。

最新のデジタルカメラは優秀ですが、数年前のボディでも十分仕事で使えます。写真は「光と影を撮る」ものなので、むしろ照明機材に目を向けてほしいですね。

最先端の部品で構築されたPro-D3のパフォーマンス

坂田 液体や粉体をかける瞬間の連写にもPro-D3はしっかり発光(同調)していました。バックにはPro-11を使いましたが、その組み合わせでの撮影はスムーズでした。

五十嵐 連続発光したい時は出力を絞って多灯します。今回も100%発光していたし、自分の感覚についてきてくれましたね。背景12灯はバリエーター1以下でフリーズモード設定なので、おそらく1/70000秒ぐらいの閃光速度です。

新しい機材での撮影ということで、僕は思ったのですが、オペレートしてくれるスタジオスタッフの力量も大きいなと思います。スタジオスタッフが「全灯をフリーズモードにして、シンクロはこのシャッター速度だといけると思います」とか、サポートしてくれているのは心強い。

全ての機材、設定をフォトグラファーが指示を出したとしても、ぬける時がありますからね。ノーマルモードで撮っていたらダメなわけです。今回入ってくれたイイノのチーフは僕の写真学校の後輩で、長くサポートしてもらっているのでかなり信頼しています。「五十嵐さん、ちょっと色温度違いませんか?」とか、数枚テスト撮影してそれに気づけるんです。自分の判断で動いてくれるスタッフがいることもスタジオの良し悪しに大きく影響すると思います。

そういう意味では、将来撮影(写真)の仕事をする上では「スタジオで働く」というのが、かなり重要になってくる気はします。

坂田 人物を撮る時に気にかけていることは何でしょうか。

五十嵐 まずその被写体となる方が現場に入ってきたら、すごくよく見ます。特に骨格ですね。皮膚を取り除いたら、そこにどういう骨があるのか、めちゃくちゃ見てます。左右どちらが映えるかなとか。

「蝶形骨」ってわかりますか?頭蓋骨の一部で眼球の奥側、ちょうど蝶が羽を広げたような形の部分です。その開き具合が大事なんです。蝶形骨が開いていると浅く、閉じていると深めからとかを決めます。それを毎回記録しています。あと眼窩、アイホールの深さですね。それも見ながら、キーライトの角度と被写界深度を決めます。

坂田 「光を設計」している感じですね!

五十嵐 そうですね。光が好きなので、光学的な欲を満たせる仕事ですね(笑)。その人を最も美しく照らし出せたら最高じゃないですか。

モデルと会話しながら肌の質感や骨格も観察して最適な光をさぐっていく。

俳優の〇〇さんには、このマグナムリフレクターを使おう。でも前回毛穴を気にされていたから、これくらいのディフューザーを発光部に近い所に貼ろうとか。先ほど生光から入るべき、という話をしましたが、ディフューザーにも10種類以上あるので、被写体が持つ特性に合わせて能動的に使用します。

坂田 個人ごとに「最適解の光」を持たれているんですね。

五十嵐 「この俳優にはこの光が一番美しい」という、僕が思う「光のノウハウ」を持っているので、それを評価して頂いているためか、長く指名してくださる方が多いですね。

初めてお会いする方の場合、広告写真では「笑顔」を求められることが多いじゃないですか。なのでその時は先に話をして、笑ってもらったり会話をしながら、骨格をものすごく観察しています(笑)。ヘアーも大事なので、地毛がどちらにうねっているとか、髪の形や質も見ますね。

「骨に光をひっかける」という感覚

五十嵐 僕はけっこう「引っ掛ける」という表現を使います。光を当てるというよりも、骨にひっかけていく感覚なんです。

坂田 それは撮影の仕事を続ける中で、そういう感覚になっていったのですか。

五十嵐 そうですね。骨格と照明を意識する中で、「ここに引っ掛かるように当てたいな」とか、自然とそういう言葉を使うようになりました。

坂田 日本人、アジア人とライティングは違いますか。

五十嵐 全然違いますね。光の肌への浸透性も違うし、反射の仕方も違います。日本人、中国人、韓国人も厳密には肌の色も肌理も全く違います。

「写真を撮る」という行為はそもそも、その人のいい点、魅力的な所を探す作業なので、それをいつも忘れないように心がけていますね。光で「その人が一番輝く瞬間を撮りたい」と思っています。それがどんな顔だろうと、どこの国の人であっても、必ずそういうポイントがあるので、それを見つける作業でもあります。

坂田 最後に写真を生業としていきたい若手へメッセージをお願いします。

五十嵐 日本では、個人の作品だけで食べていくのは厳しいですよね。とすると依頼される仕事で何かしらの意図や目的を写真に反映させなければいけないわけです。クライアントのための写真なので、完全に技術職なんです。

坂田 依頼する立場として「感覚だけに頼る人」は避けたいです。

五十嵐 「感覚」とか「感性」だけで長く食べていくのは撮影仕事では難しい。僕だったら「パーンといこうよ!」みたいな感じの人には頼みたくないです(苦笑)。

でも2パターンあるとは思っています。僕は技術だったり、ライティング・スキルを重視していますが、ピープル・スキルを磨く人もいますよね。ライトは同じパターンだったり、逆に光を意識させないようにして、しゃべりとタイミングで「どう動かすか」だけに集中するのも素晴らしい技術の一つです。

若手は技術を勉強した方がいいと思う。あとは続けること。最近は独立して1〜2年以内にこの業界から去ってしまう人もいるので、焦る気持ちもわかるのですが、まず技術力を高めながら営業して、クライアントと地道に信頼関係を構築していってほしいです。

坂田 デジタルカメラは感度をあげてもノイズが少ないですし、手ブレ補正もかなり効きます。カメラ任せでもそれなりに撮れることで、プロとアマチュアの差が近づいてきている気がします。

五十嵐 これは日本人の悪いところなんですが「毎日撮りなさい」とか「カメラを触っていれば上手になるよ」とか、感覚や個性を重んじる風潮があります。それは逆だと思っています。ただ毎日カメラを触っても上手くはなりにくいです。フォトグラファーを目指すなら、スタジオに入って、その後照明の事を知っている師匠につく方が、結局は近道だと思いますね。ただもちろん自分のセンスだけで食べていける、類稀な才能を持っていればそれは必要ありません。

コツコツ学ぶこと、写真も所作も人に見られていることを意識する。これを続けていけばどこかで開花していく時期がきます。そこまで頑張れるかどうか、なんだと思います。

Pro-D3

主な仕様
最大出力:1250Ws()内は750Ws
出カレンジ:11f-stops(1.3~1250 Ws) / 11f-stops (0.8~750Ws)
リサイクルタイム:200V/50Hz:0.01~0.8秒(200V/50Hz:0.01~0.5秒)
フラッシュモード:Eco(Normal)、Boost、Freeze
モデリングランプ:LED(56W)
調光範囲:100~1%
大きさ:幅130 x 長さ345 x 高さ200mm
重さ:4.1kg(3.6kg)
価格:649,000円(489,060円)
製品詳細:https://profoto.com/jp/pro-d3
 

 
マグナムリフレクター ホワイト/テレズームリフレクター ホワイト/ズームリフレクター ホワイト

主な特長
・内部をホワイトコーティング
・Profotoズーム機能で光の広がりを調整可能
・その他のアクセサリーと組み合わせることで、さらに汎用性が向上
・プロの撮影でも長年使用可能な設計
・ドーム型とフラットフロント型のフラッシュヘッドの両方に対応
製品詳細:https://profoto.com/jp/products/light-shaping-tools/hard-reflectors

Photographer

五十嵐隆裕

1980年東京生まれ。
日本写真芸術専門学校を卒業後、2001年アリゾナ州ツーソンへ渡り、その後カリフォルニア→ニュ ーヨークへ。Brooks Institute、I.C.Pを卒業後、リチャード・アヴェドン・ファンデーションでのインターン、伊島薫氏の助手を経て2014 年(株)ゴーニーゼロ設立。2016 年(株)シグノ所属。国内外作家の器のギャラリー「FOOD FOR THOUGHT」のオーナーでもあり、工芸全般に造詣が深い。
https://signo-tokyo.co.jp/artists/takahiro-igarashi/

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