TOPINTERVIEW加藤アラタ× Profoto B10 Plus

#INTERVIEW 加藤アラタ× Profoto B10 Plus

機動性に優れるバッテリータイプのモノブロックストロボ「Profoto B10 Plus」。最大出力はPlusになり、250Wsから500Wsに進化している。
音楽系やエディトリアルを中心に活躍されているフォトグラファーの加藤アラタさんと、自然光の入る古民家で撮影。自然光とストロボ、定常光(LEDモデリング)を組み合わせ、独特な世界観を表現してくれた加藤さんに「Profoto B10 Plus」の印象を訊いた。

Photo:加藤アラタ ST:高橋毅(Decoration)Hair:RITSU(Perle management)Make:YOSHi.T(AVGVST)Model:木村舞輝(étrenne)Dress : RYUNOSUKE OKAZAKI
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)

加藤アラタ× Profoto B10 Plus

「B10 Plus」はバッテリーストロボでありながら、定常光としても使える。プロフォトのアタッチメントを活かすことで、ストロボ的発想でクリエイションの幅を広げていける。

まず撮影のコンセプトから教えてください。

坂田さんの「被写体が発光しているような」というお話から、「繭」というワードが浮かびました。そこから転じて「羽化」というテーマで発光を効果的に使いながら、日本人女性モデルを起用し、“繭から成虫のように変化していくイメージ”を作りたいと考えました。

細かいところまで事前に決めていたわけではないですが、大きくは繭→誕生→成虫、的な3シーンで流れを作ろうと思いました。

1st scene

1シーン目は、繭に見えるように、また発光を意識できるようなオブジュクトを探していました。スタッフで話を進める中で、最初のカットは“生まれてくる前だから肌を見せた方がよいのでは”ということになり、それで1シーン目は肌にニュアンスのある布を纏わせて撮影しています。

今回メインではセレクトしなかったのですが、発光体をメタファーとして、「発光体+人間」を一緒に撮った写真もあります。それが最初の発想でした。現場でディスカッションを重ねるうちに、繭(卵)→誕生、ではなくて「人間自体が繭的に見えている方がよいのでは」という方向性にシフトしました。

加藤アラタさん。

その場で出てきたアイデアを活かすのは大事ですね。

ありがとうございます。事前に決めていることがあっても、現場でのいい流れはどんどん取り込んでいこうという気持ちは強いですね。

2nd scene

そこから孵化して出てきた、という感じでしょうか。

そうですね。人間というよりは昆虫だったり、ちょっと別の生命体的なイメージですね。この撮影では、一般的なポートレートとかファッションという枠組みには収めたくない気持ちがあって、こういう形になっています。

普段の仕事も、CDジャケットや舞台など、ストーリーを感じさせるような撮影が多いので、人間が写ってはいるけれど、その背景にある世界観を見せたいなと常に思っていて、今回はヒトのような何かが生まれて、そこから羽ばたいていく、という少し漠然としたイメージを持っていました。

Works:Aimer「Re:pray/寂しくて眠れない夜は」

2カット目は、生まれた生命が羽化する途中の状態を作っています。ストッキングを破って使うのはスタイリストの毅さんからのアイデアでしたが、それがどのような形になるのかは、予想がつかなかったですね。それに合わせてYOSHiさんが、首から上を作ってくれました。「成虫になろうとしているんですけど、まだ膜を破れない」みたいなニュアンスです。

この撮影では、邦画とか江戸川乱歩の小説とかもイメージにあって、やや湿度の高い感じでまとめたいなと思っていました。ただ衣装を和服にしてしまうとかなり昭和な感じになってしまうので(笑)、古民家と反発しそうな衣装で、レトロさとうまくミックスできたかなと思います。

坂田さんや平井さん(プロフォト)との最初の打ち合わせで「日本」とか「日本人」というキーワードが出てきた中で、日本の侘び寂びというか、西欧的な派手さとは違う、どちらかというと“抑制された中に感じる熱量”をどう上手くまとめられるかというのはチャレンジでもありました。

ライティングのポイントも教えてください。

お題を頂いた時に“ライティングを見せる”という観点でどのような3シーンがあった方がよいのかも考えました。一つはB10 PlusのLED(モデリングランプ)を定常光として使いたいなと。B10 PlusのLEDは色温度が無段階に調整できるので自然光と混ぜて表現してみたかった。

画面の右側に元々ついていた窓があってそこから外光を入れていました。それがベースにあって、B10 PlusのLED定常光を使っています。

OCF ソフトボックス(60x90cm)を取り付けて後ろの壁に向けて打っているのが、部屋全体を少し明るくするためのライトです。低めの位置からソフトグリッドを装着した OCF ソフトボックス (60x90cm)を、足元側のディテールを出すために使っています。

下に向けて打つと、床に左側から照射している光の帯が反射してばれてしまうので、上向きにして床にはかからないけれど、体のラインには光があたるような角度で当てています。

あとは顔の周りはもう少し明るくてもいいかなと思って、B10 PlusにOCF II スヌートを付けてLEDの定常光をほんのり当てています。あまりライティングをしている感はないと思いますが、実は3灯使っているんですね。

OCFIIスヌートをつけたLEDの光をスポット光として顔に照射。

こちらは左サイドから定常光を照射した1st sceneのアザーカット。

照射しないと顔の左部分や腕は潰れがちになる。

2シーン目は少し明るい自然光が入っているのに対し、右側から1灯照射し、外光がはいるシチュエーションとストロボをミックスしています。「B10 Plus 1灯あれば、こういう使い方ができますよ」という一つの提案ですね。

3シーン目は陽が沈んだ暗い状況の中で、人工光だけでみせるやり方。表現と同時に、それぞれの工夫のバリエーションが見せられたらいいなと思いながら、撮影しました。

3rd scene

LEDメイン、自然光+ストロボ、ストロボ+LEDと、3シーンとも違うライティングですね。

そうなんです。3シーン目はB10 Plusを2灯並べて、スローシャッターを切っています。
1灯はストロボ発光で動きを止めて、もう1灯はLEDの定常光として使うことで、被写体の動きをブラし、羽ばたく寸前に蠕動しているようなイメージを意識しました。

B10 Plus 2台にOCFソフトボックス(60x90cm)を装着。バッテリータイプなのでどこへでも持ち運べる。 うち1灯にはさらにグリーンフィルター+ソフトグリッドを装着し、LEDの定常光として照射した。

今回は右サイドからも紫系の光をあてていますが、これにはC1 PlusのLED定常光を使っています。出力が小さいと思われがちですが、地明かりがほぼない状況ではかなり効果が出ています。1/4インチネジ穴があいているので、撮影時に1つカメラバックに入れておくと何かと便利かなと思いました。
C1 Plus フラュシュ:最高4300 ルーメン、モデリング:最高280ルーメン)

右サイド(赤丸内)からフィルターを付けたC1 Plusを定常光として照射。

ストロボとLEDの光量、被写体の動き、シャッター速度等、全てのバランスをとっていく必要がありますね。

そうなんです。何パターンか試行錯誤しましたが、ここに出しているのはシャッター速度1秒で撮ったものです。

このシチュエーションでは定常光の出力をコントロールできることがかなり重要で、定常光(LED)とストロボ、プラス右サイドのC1 Plusの出力、背景の古民家の窓灯りと、結構複雑です。

それがB10 Plusを使うことによって自由にコントロールできる。やろうと思えばめちゃめちゃブラすこともできるし、もっとブレを少なくすることもできる。唯一夜空だけはコントロールできないので、空と古民家の屋根の境界線が見えるシャッター速度が1秒でした。1/4や1/8秒では空が沈んでしまうので、そこの見え方も考慮しました。

C1 Plusも活用されているのですね。

古民家の窓灯り(オレンジの光)にもB10 PlusのLED定常光を使っているので、実はストロボが足りなくなってしまい(笑)、それでC1 PlusにClic カラーフィルター ローズピンクを付けて画面の外から光らせています。手の平サイズのコンパクトなライトですが、光量的にこの撮影では問題なく使えました。

Works:鈴木みのり「夜空」

加藤さんの写真は、仕事でも作品でも「光」を意識させられるものが多いです。

デジタルカメラになって、見た目でライティングを決められるようになりましたよね。とりあえず1回撮ってみる。例えばブレ幅を小さくしたり、色を淡くするために出力を下げたち、逆に足したりとか。“光を直感的に扱えること”が大事なんです。

現場では割と感覚的にライティングすることがあって「状況に対して、光をどう組み立てていくか」というプロセスが好きなんです。それには機材のフレキシビリティがとても重要。その機材一つで何ができるのかという…。

B10 Plusは首のネックが三脚座と切り離せるのもすごくよくできています。今回はやらなかったのですが、古民家の梁に固定して、上から吊るしたライティングも考えていました。複雑な構造や狭い場所からでも当てられるし、コンパクトなのに500Wsもある。

大広間の上部には梁がたくさん組まれていた。

電源を取れるところならACに繋いだままでいけるし、バッテリータイプだから容易に持ち出せる。「こういうふうにしたい」と思った時に、電源がなくてもどこにでも置ける。アクセサリーが豊富で光質が変えられるとか、作りたい絵柄に対して、躊躇なく踏み込んでいける機材ですね。

僕はProfoto B1ユーザーなので、B1の時点ですでにその恩恵を受けているのですが、B10 Plusは、よりフレキシビリティが増した感じ。もし僕が初めてストロボを買うならB10 Plusかな(笑)。ロケ撮影が多いですし、自然光やその場の光にプラスする撮影が多いので。

B1/B1Xはチャージが速いですが、フル出力で連続発光とかはそんなにしないので、軽さと携帯性を優先すればB10 Plus一択です。今回使ってみて、本気で購入を検討しています。

2シーン目は、秒2〜3コマペースでシャッターを切られていました。

自分ではそれほど気にしていなかったですが、ハマるとパンパン切りますね。あとで写真データを見た時に、発光していないカットもありましたが、何十カットを撮った中の数枚だったので、よくついてきてくれていたと思いますよ。

ここでは、襖の後ろからOCF ソフトボックス(60x90cm)でライティングをしています。この障子は中央が透明ガラスで、まわりが障子紙のタイプ。そのため周囲はディフューズされて真ん中だけが堅い光が当たります。それが逆に使える!と思って、このアングルにしました。

写真で言うと、上半身はソフトボックスの光がそのまま通っていますが、下半身はやわらかくディフューズされた光が当たっています。紗幕の真ん中だけ穴が空いているのと同じ効果ですね。モデルにも光の当たり方を説明して、顔や体の動きを考えてもらっています。

そういう意味では、現場の構造とかで使えるものは使い、どんどんトライしていくタイプかもしれません(笑)。

外光も感じつつ、ガラスへの襖の写り込みも綺麗です。

右サイドから照射しているからここまで写り込んでいるんですよね。

自然光のみでは、両サイドは白く飛び気味になってしまう(右)。 最終的には襖のガラスとほぼ同じ高さにして発光。正面襖の開閉量でも光量を調整している。

被写体に露出を合わせると、自然光だけでは飛び気味なります。全体の露出を少し落としながら、日中シンクロすることで、外の風景と、部屋からの光の両方を感じとることができます。

部屋の中の襖を少し開けたり閉めたりすることでも光量が変わるので、色々撮って調整しています。

Works:TV Bros 2019年6月号

仕事で定常光は使われますか。

屋内の撮影だと定常光を使うことは多いです。普段の僕のやり方としては、パネルライトとB1を持っていって、状況に合わせてどちらを使うかを判断していました。

B10 Plusだと自然光に対して出力と色温度を変えて馴染ませられるし、もう少し強い光、ストロボ的な光が欲しい時は瞬間光として使うという判断を、セットを変えることなくその場で決めていけるのはいいですね。2台持っていかなくてもよくなります(笑)。

Works:舞台「ピサロ」

加藤さんにとってライティングはどういう意味を持ちますか。

照明機材は、太陽光の再現として使うのが好きな人も多いと思うのですが、僕の場合はそれよりストーリー性とかドラマティック性とか、自然な感じとは違う“絵の中のフック”を作るためのライティングが好きかもしれないです。

長時間露光とか、スローシャッターとか、定常光とのミックスや何かが発光しているとか、そういうのが、使い方としては多い気がします。

人工光を感じさせない使い方があるとしたら、逆にそれを意識させる使い方もあるということですね。

そうですね。役割を持たせた使い方で、且つ何か絵的なフックになっている絵作が好きですね。

繭の中にC1 Plusを仕込む。ワイヤレスで出力・発光をコントロールできるので、パーマセルで固定しても問題なく使える。

3シーン目の衣装も素敵でした。

毅さんに準備して頂く衣装は、着せて撮るとそれだけでもインパクトはあるのですが、フォトグラファーの立場としては、それをさらによくするために抗うというか(笑)、そこから先の切磋琢磨というか…。

事前に思い描いていた雰囲気やムードもあるわけですが、現場でのセッションでよい方向に持っていけるならそれを優先したいし、服をしっかり見せる企画ではないので“そこに存在しているけれど幻”のような見え方はいいなと思っています。

衣装自体が複雑なので、ブレることで動きがランダムになり、ザワザワした感じに見えると嬉しい。先ほど少し話しましたが、F2.8でシャッター速度は1秒、ISO400で撮っています。最初のカットもそうですが、暗いシーンでの撮影を想定していたので、カメラはソニーα9 IIを使っています。ただ繭の1シーン目と襖の2シーン目は“瞳フォーカス”はまったく効かなかった。カメラは「ヒト」だとは認識していなかったんでしょうね(笑)。企画としては成功です。

Profotoアプリは使われてみて、どうですか?

3シーン目は、家の中からの灯りにB10 Plusを使っています。本来なら誰かがそこについているか、光量調整のために行ったり来たりしないといけないわけですが、それをカメラポジションから調整できるのは、めちゃめちゃ便利でした。Bluetoothの電波も有効範囲内で余裕でした。

それもフレキシビリティなんですよね。離れた場所でも「ちょっとだけ光を加えたい」という時の対応力と利便性はいいですね。

Profotoアプリからモデリング、発光出力、色温度等をコントロールできる。スタッフはカメラ位置で光のバランスを見ながら詰めていきやすい。

B10 Plusはコンパクトでもプロフォトのアタッチメントが全て使えるじゃないですか。特にスヌートとグリッドが定常光で使えるのはすごくありがたい。自分の好きな光として「やわらかい光なんだけれど、広げすぎたくない」というシチュエーションがあるんですね。

LEDのパネルライトだと、黒ケントで光を切ったり、トレペをかけてデイフューズをするわけですが、工夫には限度があります。それが「ストロボ的な発想を、定常光に持ち込める」わけで、定常光の作り方を拡張したすごい機材と言えます。

12KwのHMI等は映画やコマーシャルで需要があると思いますが、575wクラスはLEDに置き換わっていくでしょうね。ただ変わるだけではなく、さらに光質のバリエーションが増えて応用範囲が広がっていきますね。

そうですね。HMIも好きなんですが、部屋の中での取り回しは気を使う面もあります。LEDは熱もなくて消費電力も低い。尚且つB10 Plusの定常光なら、スチルがメインの方は直感的に詰めていきやすい。

デジタルカメラは高感度特性もよくなっているし、ムービーも撮れます。瞬間光と定常光、スチルとムービーの両方を扱う人には、ベストな選択だと思います。

Profoto B10 Plus

主な仕様
最大出力:500Ws
出力レンジ:10 f-stop (1.0-10)
定常光:最高2500ルーメン
バッテリー容量:最高出力で最大発光回数200回
最大定常光出力で最長75分
バッテリー充電時間:最大1.5時間
大きさ:235×150x100mm (スタンドアダプター含む)
重さ:1.9kg(バッテリー・スタンドアダプター含む)
本体価格:1灯キット 250,000円(税別)2灯キット 490,000円(税別)
https://profoto.com/jp/b10

Photographer

加藤アラタ

1975年、東京生まれ。同志社大学卒業。
菅原一剛氏に師事後、独立。
CDジャケットを中心に、舞台、雑誌、書籍などで
人物、風景、静物撮影を手がける。
2015年、ミュージックジャケット大賞、準大賞。
https://www.katoarata.com/

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