現在、茅ヶ崎市美術館では、「瀧本幹也 LUNATION 朔望―海から天体を読む」が開催されている。本展は、瀧本氏にとって国内美術館では初の大規模個展となっている。
広告写真や映画で活躍する一方、数々の作品を精力的に発表してきた瀧本氏には「SHOOTING」でも節目節目にインタビューを行なってきた。
今回は仕事と作品づくりをボーダレスに渡り歩く瀧本氏に、本展示のコンセプトと新作について会場で伺った。また創作活動のモチベーションから生成AIまで「写真・映像業界の今とこれから」についても話を訊く。
Interview:坂田大作(SHOOTING編集長)
Writer & Photo:河野鉄平
「朔望(さくぼう)」をテーマにした今回の展示について
坂田 今回の個展は、国内では初となる公立美術館での開催ですね。まずは開催までの経緯を教えてください。
瀧本 2021年にクリエイティブディレクター、デザイナーの藤原大さんの個展『human nature Dai Fujiwara 人の中にしかない自然 藤原大』が茅ヶ崎市美術館で開催されたのですが、その際キービジュアルを担当させてもらったのがご縁です。その後に学芸員の方からお声がけをいただいて、1年半程かけて準備を進めてきました。会場入り口にも、きっかけとなったその作品を展示しています。

瀧本幹也氏。
坂田 瀧本さんは国内外さまざまな場所で展示をされていますが、茅ヶ崎市美術館で個展を行う上で、意識したポイントはありますか?
瀧本 茅ヶ崎市美術館は海にも近く建築も特徴的で、屋根の形状はカモメが羽ばたいているようでもあり、また船のようにも見えます。どのような内容にするか考えていた時に、茅ヶ崎の海で新作を撮り下ろしたいと思い、私の写真の原点でもある天体や宇宙と海街に佇む美術館の特性をうまく組み合わせられないかなと。
茅ヶ崎の海を新作で撮り下ろすと想像していた時に思い浮かんだのが、月の満ち欠けや潮の満ち引きでした。これが写真展のタイトルでもある「LUNATION 朔望」という言葉につながった。今回の展示ではタイトルが先に決まり、それに合わせて展示内容や構成を練っていきました。

今回の展示会場となっている茅ヶ崎市美術館。歩いて10分ほどの場所に茅ヶ崎海岸がある。
坂田 “朔望”とは月が太陽と同じ方向にあり、月が姿を消す「朔(新月)」と、太陽の反対側に位置して月が輝く「望(満月)」、その満ち欠けの周期を指す言葉だそうですね。新作「LUNATION 朔望」は茅ヶ崎市美術館からインスピレーションを得た作品なんですね。
瀧本 撮影も茅ヶ崎の海辺で行っています。月明かりに照らされた波打ち際の様子を撮ったものです。全ての生命は海から生まれてきています。そこに生命の根源的な光のようなものが捉えられないものかと思い制作しました。

瀧本幹也《SURFACE PULSE: CHIGASAKI #01》 2026年 C-type print 101.2×73.8cm
© Mikiya TAKIMOTO/ Courtesy of MT Gallery

瀧本幹也《LUNATION: CHIGASAKI #01》2026年 C-type print 49×32.6cm
© Mikiya TAKIMOTO / Courtesy of MT Gallery
坂田 闇に浮かぶ煌めきが、なんだか宇宙のようにも見える。不思議な作品です。
瀧本 今回の展示では、「GRAIN OF LIGHT」や「LAND SPACE」のようなスケールの大きな視点で捉えた作品と、「LUMIÈRE」や「PRIÈRE」のようなミクロの視点で撮った作品を、フロアを分けて展示しています。
「LUNATION朔望」はこのふたつをつなぐような、その中間にある作品に仕上がっているように思います。

地上フロア。正面壁が「GRAIN OF LIGHT」の作品群。右壁は「LAND SPACE」の作品群。スケールの大きな作品が並ぶ。
美術館内は、フローリングだが、このフロアは白の絨毯をこの展示のために敷き詰めている。天窓からの自然光が柔らかく反射して心地よい明るさの空間になっている。

瀧本幹地《LUNAR TIDE #15》2022年 C-type print 43×31.1cm
© Mikiya TAKIMOTO / Courtesy of MT Gallery


地下フロアには、「LUMIÈRE」や「PRIÈRE」の作品群が展示されている。
これは「LUMIÈRE」の作品群。コロナ禍で社会活動が制限されていた時期に撮影したもの。

新作の「LUNATION朔望」の展示エリア。全体が暗箱のように囲われていて、まるで宇宙空間のよう。左に見える筒を覗くと、海面の煌めきが。望遠鏡で星空を眺めているような錯覚に陥る。

映像作品もふたつある。これは「LUNATION朔望」の映像作品。「PRIÈRE」の映像作品も見ることができる。
坂田 世界各地の風景や海、スペースシャトルなどの壮大な作品が展示される一方で、コロナ禍を通じて撮られた足元の草花や静寂に満ちた寺院など身近な存在を写した展示の対比が面白いですよね。そこに「LUNATION朔望」が加わり、会場全体で宇宙や生命、太古から続く地球の営みのようなものをさらに深く感じられる構成になっているように思います。

展示室では、瀧本氏が11歳のときに望遠鏡にカメラを装着して撮影した天体写真のインスタレーションも見ることができる(写真下)。直線上の奥の作品が呼応し、光の煌めきが惑星のように見える。
瀧本 「LUNATION朔望」は月の光で撮っているのがポイントで、太陽の光だと、当然ながら目で見えているものがそのまま撮れる印象があります。
一方、月明かりは目に見えにくい。月の光は約1.3秒で地球に届くと言われています。この作品では露光時間を1.3秒に設定し、月光が海面に届き消えゆくまでをイメージして撮影を行っています。
言葉にしにくいのですが、そこに時間や距離のようなものを気配として写せればなと考えました。そこに存在する奥ゆかしさのようなものが撮れたらいいなと思ったんです。

坂田 「LUNATION朔望」の作品群は、まるで銀河に見えます。
瀧本 そうなんですよね。結局、子どもの頃から星空を眺めて空想していたわけで、その感覚が大人になっても変わっていないんですよね。興味のある事柄は根源的に変わっていない。
今回展示については先にコンセプトを立てて構成してみましたが、実際にこのように展示してまとめてみると、自分がこれまでどんな視点で撮っていたのかが俯瞰して見られて、そこにはさまざまな気づきがありました。天体や宇宙への関心や興味の強さを自分でも実感できたと言いますか。

ボーダレスに活動する瀧本氏の原動力とは
坂田 瀧本さんは広告写真(スチル)からスタートして、CM(ムービー)、そして映画の撮影など多岐に渡り活動しています。
長年、多くのフォトグラファーを見てきているけれど、自分の得意ジャンル以外に仕事を拡張する、また作家活動、作品発表をしている商業写真家はまだまだ少ない。でも瀧本さんはその境界を意識していないというか、軽々と超えて活動しているように見える。その原動力は何なのでしょうか?
瀧本 やはり写真が好きですし、純粋に「好奇心」かなと思います。
たとえ仕事で撮る場合でも、自分が“こう撮りたい”というものを追求していくスタンスなので。
いろいろなジャンルの撮影をやりたいというよりは、広告でも、映画でも、そして作品制作でも、自分が撮りたいものを撮っているだけというか…。そこに境界線がないんです。ただ、自分が好奇心で動いていると、不思議と向こうから興味のある仕事が来たりするんですよね。
坂田 呼び寄せてますね(笑)。

瀧本 とてもありがたいことなのですが、そういった意味では、今はやりたいことをさまざまなフィールドで実践できている感じがします。すべてのことを楽しめているというか、そういうところはありますね。
坂田 写真や映像を撮っていて、昨今の生成AIの動向はどう見ていますか?
瀧本 業界全体でガラッといろんなことが変わってきていると思いますが、一方で、だからこそ、より個人による「人間的なクリエーション」が重要視される時代になっているのではないかと思います。
例えば、撮影自体も人が頭を使って行い、暗室でプリントして仕上げるようなところに価値が出てくる。私も作品集を毎回紙でつくっていて、ネットだけで完結してしまいがちな今の状況に抗いたい意志もあります。

今回の展示では展覧会図録も制作。瀧本氏がこれまで取り組んできた作品約100点を掲載している。
表紙にアクリルを使い、そのエッジは「宇宙」と「地球」を隔てる大気圏を想像させる蒼い光が放つ仕掛けで、こだわりの詰まった図録になっている。
坂田 写真もSNSで簡単に見れてしまう時代です。でも、今回の瀧本さんの展示のように、写真展に実際に足を運ばなければ得られない感動もあります。
瀧本 両方あっていいと思うんです。それぞれに良さがあるので。ただ、残していかなくてはいけないものもある。私は写真をプリントして残したい。
写真集の装丁へのこだわりもそうですが、実際のモノをやっぱり見てもらいたい、残したいという思いが強いです。写真展にも足を運んで、オリジナルのプリントを見ていただきたいですね。
写真展「瀧本幹也 LUNATION 朔望ー海から天体を読む」
会期:2026年9月2日(水)-11月8日(日)
時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(9月21日、10月12日は開館)、9月24日、10月13日
会場:茅ヶ崎市美術館(神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45)
観覧料:一般1,200円(1,100円)/大学生1,000円(900円)/市内在住65歳以上600円(500円)
※高校生以下、障がい者およびその介護者は無料
※( )内は20名以上の団体料金
アーティストトーク
アーティスト自身の言葉で語る作品世界
出演:瀧本幹也 (写真家)
日時:9月19日(土)、11月1日(日) 各日15:00-15:45
会場:茅ヶ崎市美術館 展示室
料金:無料(要観覧券/事前申込不要)
ゲストトーク「撮ること、見ること」
写真家と専門家による写真の魅力について語る対談
出演:伊藤貴弘(東京都写真美術館 学芸員)✕ 瀧本幹也(写真家)
日時:10月12日(月祝) 14:00-15:30
会場:茅ヶ崎市美術館 エントランスホール
定員:50名
料金:無料(申込不要/当日先着順)
〈講師略歴〉
伊藤貴弘(東京都写真美術館 学芸員)
1986年東京生まれ。2013年より東京都写真美術館に学芸員として勤務。主な企画展に「アレック・ソス 部屋についての部屋」展、「即興 ホンマタカシ」展、「松江泰治 マキエタCC」展、「琉球弧の写真」展、「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」展、「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家 vol. 15」展、「長島有里枝 そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」展など。
ギャラリートーク
担当学芸員による展覧会の魅力紹介
日時:9月27日(日)、10月25日(日) 各日14:00-14:45
会場:茅ヶ崎市美術館 展示室
担当:藤川悠(担当学芸員)
料金:無料(要観覧券/事前申込不要)

瀧本幹也
1974年生まれ、愛知県出身。写真家。1998年、瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、エディトリアル、作品制作、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける。映画撮影では、是枝裕和監督作品『そして父になる』(2013)でカンヌ国際映画祭コンペティション審査員賞、『海街diary』(2015)で日本アカデミー賞最優秀撮影賞、『三度目の殺人』(2017)でヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門を受賞。その他、CANNES LIONS GOLD、ニューヨークADC GOLD、ロンドンD&AD YELLOW PENCIL、東京ADC賞、ACCグランプリ、CLIO AWARDS GOLDなど、国内外での受賞歴多数。作品はメトロポリタン美術館(ニューヨーク)、フランス国立図書館BnF (パリ)、東京都写真美術館(東京)などに収蔵。
https://mikiyatakimoto.com/
https://www.instagram.com/mikiya_takimoto/








