TOPEDITOR'S BLOG1枚絵に「時間を凝縮させる」プロ・レタッチャーの技 REMBRANDT展「gradation」

#EDITOR'S BLOG 1枚絵に「時間を凝縮させる」プロ・レタッチャーの技
REMBRANDT展「gradation」

2023年6月30日~7月13日

1枚絵に「時間を凝縮させる」プロ・レタッチャーの技 REMBRANDT展「gradation」

REMBRANDT作品展「gradation」を、Sony Imaging Galleryで観てきました。

REMBRANDT(レンブラント)は、博報堂プロダクツの中の画像や映像を取り扱う部署。
広告写真のレタッチも請け負っているところです。

「REMBRANDT」作品展は過去にも開催されていて、
前回までは豊洲の博報堂プロダクツ内のフォトクリエイティブ事業部に通じるエントランスで開催されていましたが、今回初めて外部のギャラリーでの展示でした。

ポイントは二つ。

・毎回テーマが設定されている。

・自分でアイデア(企画)から考えて、フィニッシュまでを行う。

広告は、その目的があって作られているわけですが、本展はクライアントワークではないので、
自分がディレクターとして、企画から考えて絵として定着させるので、レタッチャーの個性が出る。

今回は「グラデーション」がテーマです。

会場で気になった作品をいくつか紹介します。

與川拓海「薄明」

一見、普通の夕景かなと思いました。
でもよく見ると、夕陽があたっている場所から、夜景へと変化しています。
つまり夕暮れから夜までの時間帯が1枚の絵の中に収められています。
スパッと切り替えられるわけではないので、違和感のないようにレタッチされています。

石井幹也「Countdown」

これは石井さんのキャプションをそのまま掲載します。

「赤は止まれ。青は進め。
しかし、黄色だけは当事者に判断の一切を委ねることがある。
刻一刻と移りゆく状況、タイミング。
黄色信号には目には見えないが多くの階調が凝縮されている。

個人の判断に委ねられる黄色。確かに!

止まるのか、進むのか、そこには「判断のグラデーション」が含まれていますね。
それを、いかにも本当にありそうなトーンで制作しているとこに、完成度の高さを感じます。
 

竹﨑愛子「gradus」

生きているものは「段階的変化」がおこる。

このリンゴの作品は、一見地味だなと思ったのですが、よく見ると右側にかけて徐々に朽ちています。

一つのリンゴの中に時間経過が凝縮されているのですね。
シンプルに見えて、深いです。

写真に時間を閉じ込める」というと、映画を投影し、上映一本分の光量で長時間露光した杉本博司さんの「劇場」シリーズを思い浮かべたりしますが、レタッチ、画像処理という方法で、1枚絵の中に時間軸を凝縮できるのは、現代ならではと思います。

と、その前に、
一般的には「レタッチャー」という言葉、職種がまだまだ浸透しておらず、レタッチ、画像処理というと、電線消しから、タレントやモデルの顔修正、人物と商品の合成など、わかりやすい「修正」や「合成」をする仕事、と思われている面があります。

一方で若年層を中心に、アプリでの写真加工は身近なものになっています。編集部では「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」を12年続けて発行していますが、それも含めてまだまだ啓蒙活動は必要だなと感じています。

プロの世界においては、これからは「技術力の高さ」と「アイデアをどこまで昇華させられるか」という点で、レベルの差が出てきます。

今回の展示はそういう意味で、普段、広告案件を数多くこなすプロのレタッチャーならではの完成度の高さを感じました。

REMBRANDT展「gradation」
ギャラリー名:Sony Imaging Gallery
会期:2023年6月30日~7月13日
展覧会詳細:https://shooting-mag.jp/news-report/13974/

SHOOTING編集長・フォトプロデューサー

坂田大作

Web Magazine「SHOOTING」編集長。株式会社ツナガリ代表。フォトディレクター、エディター、プロデューサー。

Webサイトを運営する傍ら、書籍「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」を12年連続で発行。アマナトークラウンジや、日本最大の写真イベント「CP+」で毎年多くのステージを企画・登壇するなど、「写真」を軸に、ウェブ、出版、トークイベント等、メディアの垣根を超えて活動している。
2021年11月より、写真家らと組んで「NFT Art作品」の販売をスタート。「普遍的な作品の価値」を追求している。
https://shooting-mag.jp/
https://shooting-nftart.com/

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