伊奈英次写真展「残滓(ざんし)の結晶~ CRYSTAL of DEBRIS ~」が、キヤノンギャラリー Sで開催される。
ステートメント
2年前の春、私は三重県楯ヶ崎海岸近くの撮影場所まで行く途中の崖から転落し三重県防災航空隊のヘリで救助された。ICU に4日間、40日間余り入院し回復までに半年を要した。脊椎損傷もなく腰椎を3箇所骨折したが、奇跡的に重い後遺症もなく回復した。転落した自由落下の数秒間、私は周りの風景が渾然一体となり乱反射する万華鏡のような世界を垣間見た。その後この時に見た映像をもう一度再現したい衝動に駆られた。
これらの画像はバク ( 欠陥 ) の集積を戦略として再構成されたイメージである。バグは、プログラムの設計過程において発生する無限ループや計算間違いなどを引き起こし、時にはコンピュータを暴走させたり、逆に停止せたりする。バグ画像が生成する瞬間を発見したのは複数の写真を合成する作業をしている時であった。バグ( 欠陥) を利用して、バーチャル画像を創造することを目論んだ。個々の小さな部分撮影画像は現実の単なる切り取られた断片であるが、その集積は整合性が破綻した虚構と現実の複製ミスを伴ったシャッフル画像である。自身の意図を空回りさせ、合成プログラムが台無しになることを意識的に目論むことによる失敗画像とでも言い得ようか・・・。
バグのコピーを繰り返すとある単純な反復画像が出現する。その反復画像を元の画像を再び合成する事でまた新たな差異を伴ったバグ画像が現れる。そしてその作業を繰り返すと単純な反復画像に再び回帰して行く。この単純画像の再帰性のジレンマを回避するため、コピーの過程で遊びや気まぐれといった恣意性を伴うコピーレイヤーを重ねていく作業を続けると、永遠に作品は完成しない。時間の制約という言い訳や単純作業に嫌気がさした時点で、作業は中断しそして作品は完成する。
欺き欺きかえさせられるという反復作業で成立したこれらのバグ合成写真は、欺瞞と真実と虚構を伴う格闘の痕跡なのか、或いは転落の瞬間に見た万華鏡世界の再現なのかも知れない・・・
伊奈英次
1957年、愛知県名古屋市生まれ。
1977年、中部工業大学工業物理科中退。1984年、東京綜合写真専門学校研究科を卒業。
現在東京綜合写真専門学校校長。
1984年、東京の都市景観を8×10の大型カメラで精緻に捉えたモノクロ写真を発表。以後、日本各地の在日米軍基地の通信アンテナ、産業廃棄物、都市に点在する監視カメラ、天皇陵などといった、都市、環境、軍事、歴史など日本の近現代をテーマに制作発表している。2019年よりCrystal of Debris「残滓の結晶」シリーズにおいて、デジタルバグの可能性を追求している。
- ギャラリー名
キヤノンギャラリー S
- 住所
東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階
- 開館時間
10:00〜17:30 日・祝休館 ※年末年始休館:2020年12月29日~ 2021年1月3日
- アクセス
JR 品川駅 徒歩約8分
- URL