石塚元太良「Gold Rush California/NZ」が、KOTARO NUKAGAで開催される。
紹介文
石塚は10代の頃から世界を旅し、大判フイルムカメラで極地方のランドスケープを撮影してきました。ドキュメンタリーとアートの境界を横断するように、ランドスケープが詩情的なイメージを想起させる独自のスタイルは「コンセプチュアル・ドキュメンタリー」と評されています。
今回発表するテーマは〈ゴールドラッシュ〉。1848年、アメリカ・カリフォルニア州で始まった現象であり、一攫千金を狙う多くの人々が金脈を追って移住した結果、アメリカの経済や人口移動に大きな影響を及ぼします。その後、世界各地で辺境の地に富を求めて、人間が自然を開拓していきます。
石塚の探究は2011年、アラスカ全土に点在するゴールドラッシュの遺物を撮影したことに始まります。パイプラインや氷河という、ランドスケープの中で自ら選んだ被写体を追い続けるアラスカの地で石塚が発見したのは、訪れる街の多くがゴールドラッシュ由来であること、山道の多くは発掘者たちが山に入った時に拓かれた路であること、つまり現代のアラスカの下には「ゴールドラッシュ」という歴史的地層が横たわっていることでした。その後、発祥の地であるアメリカのカリフォルニア州、さらにはニュージーランドへと、異なる時と場所からのアプローチが続いています。今回は、2016年以降に撮影された〈ゴールドラッシュ〉シリーズからの新作発表となります。
雄大な山々や川というおよそ150年前とほとんど変わらないランドスケープとは対照的に、かつて栄えた街は廃墟となった建物に名残をとどめます。崩れかけた小屋、埃を被ったテーブルの上には食器がそのまま残され、当時そこにあった人間の営みが、時空を超えて目の前に立ち上がってきます。過去から現在へと至る時の流れは一本の主流だけではなく、歴史的な出来事の背景には、風土に根ざした一人一人の細やかな営みが存在します。重層性と時事性をもって歴史を紐解いた時に目の前に新たな景色が開ける感覚を、石塚は写真という手段で捉えようとしています。
また、8×10という大型フィルムカメラで撮影された石塚の写真は、わたしたちの視覚に揺さぶりをかけます。大型カメラの特性を生かした緻密なピント調整によって、実際にはあり得ない光景が写真の上で作り出されています。まるで「時空を歪ませる」ように撮られたそれらの写真は圧倒的な存在感と驚くべき深度で目前に迫り、観る者をイメージに没頭させます。それこそが、遠く離れた場所にまで大型の機材を抱え撮影に臨む石塚の重要な意図でもあります。
辺境地を切り開き、土地を掘り尽くした歴史の残像からは、夢や情熱の儚さやいつの時代も変わらぬ人間の業といった側面も見て取れます。現代に生きるわたしたちは、その痕跡に何を感じることができるのでしょうか。新たに開かれた視点で、100年前そして100年後という遥かなる時と遠い場所に思いを馳せるきっかけとなれば幸いです。
- ギャラリー名
KOTARO NUKAGA
- 住所
東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
- 開館時間
12:00〜18:00 日月祝休 ※会期・時間は国や自治体の要請等により変更の可能性あり
- アクセス
りんかい線 天王洲アイル駅 徒歩8分
- URL