TOPNEWS & REPORT馬場智行写真展「孤独の左目」

#NEWS & REPORT 馬場智行写真展「孤独の左目」

2023年1月19日~1月24日

2022.12.19

馬場智行写真展「孤独の左目」

馬場智行写真展「孤独の左目」が、Space Jingで開催される。

馬場さんの左目は、円錐角膜という特徴的な形状をしており、目が感受する光は円錐状の角膜の中で乱反射を起こし網膜に届く。その結果、不鮮明な像が脳内に投影される。本展は作者の身体的経験から、「視覚認識とは何か」を探究する試みでもある。

展示概要
視覚認識とは何か。本作は着想から10年余り続く、視覚認識の謎を巡る写真と思索の旅である。作者は鑑賞者をこの旅の同行者とするため、展示空間をこの問題を共有していく場として活用しようとしている。そのため、展示空間をただ鑑賞の場とするのはなく、能動的な体験の場として、プリントと鑑賞者の接続と対面を試みている。
ビジュアルコミュニケーションがこの問題のキーワードとなると考え、このコミュニケ ーションのあり方を知ることで、我々が身体に視覚を備えていることの本来的な意味の把握に近づこうとしている。現代における視覚的コミュニケーションが主としてデジタルを媒介している点と、視覚が身体の一部であるという点から、デジタルであることと身体性とが本作における要件であると考えている。そのため、Photoshopの簡易なツールを用いることで感覚的な操作(マニピュレーション)を行い、自身のユニークな左目の見え方に近付けたものが本作で示される写真となっている。
カメラの進化により高解像度の鮮明な写真を得られる現代において、”不鮮明な写真”というアビバレントなニュアンスを持つ写真と、機能として欠陥のある自身の左目えを用いて視覚という根源的な題材に向き合おうとしている。

ステートメント
テーマと着想のきっかけ
 視覚認識はときに曖昧とされる。そのように曖昧さを持つ視覚を認識のための手段として、我々は何故備えているのだろうか。本作は、この疑問に対してその活用の方法から答えに近付こうとするものである。
 この視覚認識に対しての疑問は、自身の写真作品の発表の場で起こったものだった。写真を鑑賞する際、鑑賞者は“撮り手の個有の視点”“鑑賞者の個有の視点”“社会全体で概念的に所有している公的な視点”という三つの視点の交錯を経て作品が理解されていくことを実感したことにある。この実感を経て、視点とはそもそも何か、という疑問が発生し、それが視覚による認識を何故我々は備えているのか、という疑問に発展していった。この疑問に対するのに当たって、視覚認識のされ方を知ることで我々が身体に視覚を備えていることの本来的な意味の把握に近づこうと考えたのが、この作品の始まりである。着想のきっかけが写真展であったことと、写真が純粋に視覚のみを用いた認識であること、記録性とそれに基づく事実性を備えているということから、写真によって本作が掲げる問いに対していくこととした。

本作で使用される写真についての要件
 写真作品が理解される様態とはビジュアルコミュニケーションである。このコミュニケ ーションのあり方を対象に視覚認識のされ方を探ろうとするものである。。現代における視覚的コミュニケーションは主としてデジタルを媒介としている。今目の前で起こるコミ ュニケーションを材料にする以上、現代的なビジュアルコミュニケーションであることが妥当であると考えた。したがって、使用される写真は現代の人々が慣れ親しんだデジタルプロセスによる写真であることが第一の要件であると考えた。そして、本作が対象とするコミュニケーションは、視覚が身体性に関わるものであることから、身体性が用いられたコミュニケーションであることが必要と考える。それは写されたものの情報のみに依拠する作品の理解のされ方だけではなく、非言語的な理解を含みながら鑑賞者の作品の理解のされ方を対象とすることである。したがって、鑑賞者の身体的な理解にアクセスする写真であることが第二の要件である。
この要件を満たすものとして、デジタルと身体性とが融合した写真が必要であると考え、身体性を用いてデジタルツールを使用する工程を持つ写真を製作した。
 身体性の所在を支持強調するものとして、自身の左目の視覚をモチーフにすることとした。自身の左目は円錐角膜という特徴的な形状をしており、目が感受する光は円錐状の角膜の中で乱反射を起こし網膜に届く。その結果、不鮮明な像が脳内に投影される。この像は欠損した情報の状態を持つユニークなものであり、このユニークな視覚の経験それ自体が身体性を持つものであると考えたからである。
 デジタルツールの使用については、Photoshopの簡易なツールを用いることとした。デジタルと身体性の融合は単にデジタルプロセスを通過することでは得られないと考え、感覚に依拠して使用が出来るより簡易的なツールの仕様を選択した。このようにして、デジタル上で自身の身体性に常にアクセスしながらの工程によって製作したものが本作の写真である。

狙い
 本作で示される写真は自身の左目の見え方をモチーフにしている性質上、不鮮明な写真となっている。この不鮮明さに二つの狙いを託している。
 一つは、不鮮明さによって普段無意識に瞬時になされている視覚認識のスピードを緩めることである。これによって意識下で視覚認識の道程を辿らせる。この道程を知ることで、視覚情報を認識に至らせるのに使用されているものを炙り出そうとするものである。そうして表出したものに本作の問いに対する答えに至るための要素が含まれていることを想定している。
 もう一つは私自身が本作について、その構成が論理的に展開されたものではなく、むしろ自身の詩的な感覚によって展開さたものであると認識しているからである。そのような私の認識によれば、本作は視覚の謎を巡る旅であり、その旅の途上で詠われる視覚認識の詩である。そして、この作品の鑑賞者はこの旅の同行者であり、その詩の聴き手である。
 かつて、カスパー・ダーフィト・フリードリヒの《浜辺の僧侶》という風景画が、ロマン派のイコンとされた時代があった。その時、風景画には鑑賞者に“遠くへの眼差し”を誘起させる体験的な鑑賞に価値が見出されていたからだ。この体験的な鑑賞は、風景の中の事物を明瞭に描くのではなく、輪郭をぼかし風景の中の境界線を曖昧にすることによって誘発されていた。それは、描かれた表面を走査することに満足することではなく、不鮮明によって確保される想像と思考の余地による、描かれた内面に思いを馳せることだったのだろう。そしてそれは、現生からぼんやりとした彼方への、あるいは描かれた風景への旅のようなものだったのだろう。
 本作が持つ不鮮明さにも同様に、鑑賞者を旅へと誘う効果を信じ託している。その旅とは、左目の不鮮明によって導かれる、“見てきたこと”への回帰という旅である。

本作は視覚認識を曖昧であると糾弾するような、視覚への信頼という聖像の破壊を目論むものではない。そして、論理的な分析によって視覚の謎を解いていくのでもなく、体験的な鑑賞を経て起こる省察によって喚起されるものの中に、その答えを得ようとするものである。

馬場智行
1981年 和歌山県生まれ
2003年 天理大学文学部歴史文化学科考古学専攻卒業
2011年 日本写真芸術専門学校1部3年制フォトアートコース卒業
2010年 グループ展 GAW展7「路地から路地へ in 西脇」(兵庫)
2011年 個展「Acryl」 Nikon Salon(新宿・大阪)
2012年 「Elements of light それぞれの光—partⅡ」日本写真芸術専門学校(渋谷)
グループ展「存在—そこにある場所—」若手写真家4人展 ナグネ(新宿) 2014年 作品集「ACRYL」刊行 第56回全国カタログ展「全国中小企業団体中央会会長賞」受賞
「Elements of light −それぞれの光 −partⅢ」 日本写真芸術専門学校(渋谷)
2015年 個展「ACRYL」「Suburbian Tapestry」undo(三ノ輪)
個展「ACRYL」TAP(清澄白河)
「Elements of light −それぞれの光−オハラブレイク」(猪苗代湖) 2016年 グループ展 「日本の写真 ー新たなる世代ー 」田園城市(台北)緑光+MARUTE(台中)
2017年 個展「孤独の左目」G gallery(台北)
2021年 個展「孤独の左目」KYOTOGRAPHIE PLUS (京都駅)
http://babatomoyuki.com/

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ギャラリー名

Space Jing

住所

東京都渋谷区神宮前5-45-5 中澤ビル B1F

開館時間

12:00~19:00 (月曜休廊・最終日は17:00まで)

アクセス

東京メトロ 表参道駅 徒歩5分

URL

http://spacejing.com/

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