蓮井幹生個展「詠む写真、とその周辺 −循環と相似形」が、WHYNOT.TOKYOで開催される。
ステートメント
循環と相似形
2010年にフランス国立図書館に収蔵された作品「詠む写真」のテーマは循環。この第一作の17点は水の循環をテーマとしている。
水を巡るイメージを日本の俳句に見立てて、17音ならぬ17点のミニマムな写真作品によって構成している。
それは、自然摂理における水の循環が人の生活や環境にどう表現されているかを描いたつもりである。
だが、あれから10年以上が経過してしまった。
その間、第二作となる「詠む写真」の制作に何度も挑んだ。
そのために撮りおろした作品のカット数は数百カットになるだろう。
その中から新たな17枚を選んで次のテーマとして物質の循環を描こうと何度も試みた。しかし未完成のままである。
果たしてこの手法による17枚の組み写真に新たなテーマの可能性はあるのだろうか。いまだに暗中模索である。
今回「詠む写真」とその周辺として展示する3点の森の写真は、その手探りの作業から生まれてきたものである。
私は、物質の循環というテーマの上に木々の命の移り変わりを描こうとした。それは土に始まり土に終わる。
木々は生きる過程の中で、さまざまな元素を作り出し、それらは私たちの生活の中にも浸透していく。やがて私たちの命の循環となる。
だが、17点の写真作品でその世界を構築するのはとってもハードルが高く、半ば諦めていた。
そんなある日、パソコンの画面に貼り付けられた素材としての森の写真を眺めていて面白いことに気づいた。
それは、その枝や幹が織りなす造形が、自分自身の身体と相似形だということだった。ここにおける相似形とは物理学的、または数学的な相似形ではなく、生理的な意味合いでのことだ。
神経、脳、血管。それぞれは生命維持における循環を司るものだ。
そのことに、心象的イメージのとても深いところで造形が全く重なり合うのだ。
これは、考えてみれば他にも類似したことが数多くある。
葉脈が木のシルエットと相似形だったり、森の石に這う苔などは写真という表現に置き換えれば、遥か一万メートルから見たランドスケープにも見える。
また、今現在わたしたちを苦しめるコロナウィルスも、そのスパイク形状が太陽のコロナを連想させるからコロナウィルスと名付けられた。
太陽系の構造は原子構造と似ている。その先には銀河系があり、その先には、、、
今一度そのような視点で自然界や身体を見直すと、広大な宇宙の構造がイメージされてくるのは、大変興味深い。
夜空を見上げるとそこには無数の星を見ることができる。
私が住む長野県の茅野市は晴天率が高い地域で、特に空気の乾燥した冬の夜には、
その日が新月であったとするなら尚一層に星の数は増え、天の川さえも綺麗に見ることができる。
私たち人間は地球という小さな星に暮らし、ただ一点から宇宙と繋がっている。小さな小さな一点だ。
しかし不思議なもので、その小さな一点の世界は無限の広がりである宇宙と、実は相似形だということに気がついた。
まさにこの宇宙に存在する全てが相似形であり、循環という構造で成り立っているのではないだろうか。
「詠む写真」とその周辺として展示するこの3点の森のシリーズは、そういう意味においてやはり「詠む写真2」なのである。
「詠む写真2」のテーマは、木と身体のイメージの循環である。
2022年2月
蓮井幹生
写真家。1955年生まれ。
明治学院大学社会学部社会学科に入学。アートディレクター守谷猛氏に師事しデザインを学ぶ。1984年から独学で写真を始め、1988年の個展を機に写真家への転向。1990年代から撮影が続く『PEACE LAND』は作家の世界観の中核を成す作品群であり、作品集の出版を通して継続的な発表が行われ2009年にフランス国立図書館へ収蔵される。現在は、長野を拠点に制作を行う。
- ギャラリー名
WHYNOT.TOKYO
- 住所
東京都目黒区五本木2-13-2 1F
- 開館時間
13:00〜18:00
- アクセス
東急・東横線 祐天寺駅 徒歩4分
- URL