濱田英明さんが、写真集『DISTANT DRUMS』を発売する。この写真集は、自費出版で流通を通さず、ネットストア等で販売するという。
約1年前からTwitter上で、制作状況を告知することにより、フォロワーやファンと一緒に進行しているかのような共感を生み、7月の予約開始直後に初版2,000部が売り切れとなった。現在さらに2,000部増刷し、そちらに関しては8月中旬以降の対応ということだ。
アイドル系は別として、通常の写真集(印刷)は、初版300~500部、取次流通させるならば1,000部あたりが、ひとつの目安になっていることを考えれば、6,500円の写真集がここまで売れているのは驚異的だ。
そこで写真集『DISTANT DRUMS』のポイントを考えてみた。
1.企画から発売までの制作状況、写真集を作るにあたっての氏の考え方などを丁寧に告知。
2.出版社、取次を通さない直販ルートのみで販売。
3.予約特典のメリットの打ち出し。
1. 一般的には写真集発売前後に、出版情報や掲載作品がプレスリリースという形で発表される。
『DISTANT DRUMS』は濱田氏が日々、どのような考えで写真を撮っているか、という「日常の中の思い」と、写真集がスタッフィングを始め、どのような過程を経て作られているのか、というフローが「写真集『DISTANT DRUMS』制作日記 」(https://twitter.com/i/moments/993502818249015301)やSNSの中で語られている。
これを読んでいると、スタッフの一員になったかのような、また写真集を作ったことのない人への「リアル授業」でもあり、作り上げいてく過程で写真集への「共感・共有」が徐々に醸成されていくように感じる。
2. 出版社、取次を通して流通させることで、全国の書店へ配本され、また広告宣伝、書店への営業活動等も期待される。ただし近年、ある程度部数が見込まれる写真集以外、出版社が経費を100%負担して制作、発売するという企画本のハードルは年々上がっている。また著者の一部買取前提や印税契約では、なかなか売上は見込みづらい(作家側としては出版すること自体に意味がある、と考える人もいるだろう)。
直接販売することで利益率は高くなる。ある程度の知名度は必要だが「共感してくれる人たちに届けたい」という考え方はSNSともマッチしやすく、ネットワークを通じての告知効果も見込める。
3.事前予約をすれば、定価6,500円から500円ディスカウント。またオリジナルカード3枚が付くのは、素直に嬉しい。表紙カバーの色が2種類あるのも選ぶのに迷う。
「どちらかを選ぶ」という思考は、すでに購入前提に立った悩みであり、その時点で「買う・買わない」という段階を通りすぎている。自分用に2冊購入したり、共感してほしい大切な人に一冊プレゼントするという選択肢も生まれてくる。
「フィルム&標準レンズ」で捉えた濱田氏の作品は、奇を衒うギミックは何もない。でもそれゆえに人それぞれが持つ琴線に触れ、個々の思い出とのシンクロ率は上がっていく。
増刷が完売すれば4,000部。個人の写真集がこれほど売れることで、他の写真家も我々も希望が持てる。ネットで完結するのではなく、物質としての写真や印刷物を所有すること、そして作り続ける、発信し続けることは大切だ。
『DISTANT DRUMS』
仕様:上製本・箔押
判型:250x250x25mm カラー264P(写真200カット)
印刷会社:八紘美術
発売日:2019年7月12日
購入:https://hideakihamada.stores.jp/
濱田英明
写真家。1977年、兵庫県淡路島生まれ。2012年、35歳でデザイナーからフォトグラファーに転身。同年12月、写真集『Haru and Mina』を台湾で出版。雑誌や広告撮影など幅広く活動中。
Instagram @hamadahideaki
SHOOTING編集長・フォトプロデューサー
坂田大作
Web Magazine「SHOOTING」編集長。株式会社ツナガリ代表。もと月刊「COMMERCIAL PHOTO」編集長。フォトディレクター、エディター、プロデューサー。REP ONE(amana)マネージャー。
Webサイトを運営する傍ら、約600ページの「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」を7年連続で発行。アマナトークラウンジや、日本最大の写真イベント「CP+」で毎年多くのステージを企画・登壇するなど、「写真」を軸に、ウェブ、出版、トークイベント等、メディアの垣根を超えて活動していいる。
https://shooting-mag.jp/
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http://tsunagari.co.jp/