2023年も今日が大晦日。
店舗やネットでは、11月には「日本の四季」「世界遺産めぐり」的な、2024年(令和6年)のカレンダーが発売されていました。
特にここ数年、写真系のカレンダーを見ていて感じることがあります。それは、
色がギトギトで彩度が高すぎないか!
ということです。
世の中はスマホ全盛で、SNSでどれだけ「いいね!」がもらえるか、承認欲求の競い合いです。
特に、風景写真やスナップは、インスタ映えや写真投稿サイトの影響もあり、どんどん派手な色、より目を惹く方向へ進んできました。
目立つ方法論として、
・お花畑やグリーンなどの原色系の彩度アップ
・マスク、またはパートごとのレタッチ
・別々の写真を合成
・逆光や赤い夕陽などのドラマチックな過剰演出等
パーツごとに調整された切り貼り的な風景写真(と呼ばれるもの)が溢れています。
デジタル全盛の時代に、もはや一発写真やJpeg撮りっぱがよいわけでもないし、風景写真にも定義はありません。
どうしてこうなっているのか?
それはSNSや投稿サイトで、「少しでも人よりも気を引きたい」という思いからだと思います。最近ではSNSでも収益化が可能になってきており、ビジネスとしての側面もあります。
なぜそれが可能なのか?
それは画像処理ソフトのAIを含むアップデートで簡単にドラマチックな写真が作れる。
またテレビ、PCモニター、スマホ、デジタルサイネージの「彩度」や「輝度」が上がり、透過系ディスプレイの色域が広がってきたから。
印刷(紙媒体)はどうでしょうか?
一般的なオフセット印刷は、基本的にはCMYKの4色インク、175線がベースです。
しかしそこから特色の追加、高精細、高濃度印刷、FMスクリーニング他、様々な技術向上により、色域や彩度も広がってきました。
印刷よりも、一般家庭に普及しているインクジェットプリンターは4色インク以上があたり前で、写真品質のプリンターは色域も広いです。
これらによって、反射原稿も益々、派手目な写真が増えています。
風景写真とカレンダーの役割
カレンダーは一度買うと、家や会社でも1年中見て使う、という役割があります。
私は特に自宅のカレンダーには、ほとんど絵画やイラスト系を買っています。
なぜかというと、一般的に売られている風景カレンダーは彩度が高すぎて、家の中で見ると落ち着かないから。これは人それぞれの感覚なので、何とも言えませんが、私はそうなのです。
岩宮武二氏の言葉
写真家の岩宮武二氏が、大阪芸大の写真学科長だったころ、先生がおっしゃっていた言葉あります。
記憶が鮮明ではないですが、「風景写真は曇りの日がよい」と。
ピーカンだと影がはっきり出過ぎてしまい情緒がない。曇りや薄曇りの時は、光がやわらく注ぎ、草木が美しく見える。
このようなニュアンスだったと思います。
当時カラーは、リバーサル(ポジ)フィルムが主流で、鮮やかに見えるフィルムが受け始めていたので、そういう傾向に警鐘を鳴らされていたのかもしれません。
温暖化による、四季の変化
ここ数年の温暖化、特に夏の暑さは異常です。
春夏秋冬が3ヶ月ごとだったのが、いまは、「夏冬が5ヶ月、春秋が1ヶ月」、のように感じています。
そうするとどうなるでしょうか。
秋の紅葉は一瞬で枯れ果て、春の温暖な気候を満喫するまでもなく、夏日になっていく。
写真に写すのは自ずと夏と冬の写真が増え、季節の移り変わり、そこでの「ゆらぎ」のような曖昧さが薄れていきます。
科学的な裏付けはわかりませんが、これはかなり日本に住む人の感覚にも影響すると思います。
日本は
花冷え、春眠、陽春、惜春、花曇り、新緑、薫風、
雨でも、梅雨、小ぬか雨、小雨、霧雨、雷雨、五月雨、氷雨、長雨、豪雨、時雨、春雨、緑雨、秋雨、秋霖、、
季節や自然現象に多くの季語があるように、その季節や天候を言葉で表してきました。
「うつろい」や「曖昧さ」って、人間には必要で、白黒はっきりクッキリだけが「美」ではありません。
ビューティや商品撮影でも、日本人のフォトグラファーは「グラデーション」に繊細な感覚を持っていると感じています。
このまま四季が二季に近づき、ディスプレイがさらに進化して、日本人独特の「間や風情」を感じるの感覚が希薄になっていくことを危惧します。
地球環境の変化やネット環境などに適応していくのが人間であり、進化なので、それを受け入れることも大事です。ですが、中庸、グラデーションに美しさを感じる感覚を大事にしたいなと思いつつ、2024年を迎えたいと思います。
来年もよろしくお願いいたします!
SHOOTING編集長・フォトプロデューサー
坂田大作
Web Magazine「SHOOTING」編集長。株式会社ツナガリ代表。フォトディレクター、エディター、プロデューサー。
Webサイトを運営する傍ら、書籍「SHOOTING PHOTOGRAPHER + RETOUCHER FILE」を12年連続で発行。アマナトークラウンジや、日本最大の写真イベント「CP+」で毎年多くのステージを企画・登壇するなど、「写真」を軸に、ウェブ、出版、トークイベント等、メディアの垣根を超えて活動している。
2021年11月より、写真家らと組んで「NFT Art作品」の販売をスタート。「普遍的な作品の価値」を追求している。
https://shooting-mag.jp/
https://shooting-nftart.com/