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#COLUMN STREET 古き良き米国の残り香を紡ぎだす
マイケル・デウィック

アート写真最前線 vol.6 | BLITZ GALLERY 福川芳郎

古き良き米国の残り香を紡ぎだす マイケル・デウィック

©Michael Dweck Sonya, Poles, Montauk, New York, 2002

マイケル・デウィック(1957-)は、いまのアート写真市場において、次世代を担うと期待されているアーティストだ。2018年10月3日、ササビーズ・ニューヨークで開催されたコンテンポラリー写真オークションでは、彼の代表作「SONYA, POLES (MONTAUK),2002」が、落札予想価格5万~7万ドル(@110円/約550~770万円)のところ、なんと16.875万ドル(@110円/約1856万円)で落札された。これは2010年にプリントされたエディション5の、137.2×109.2cmサイズの大判作品だった。

© Michael Dweck Dave and Pam in their Caddy, Montauk, New York, 2002

彼は1957年生まれの、まだ61歳。現代アート系のオークションでは、ウォルフガング・ティルマンズ、アンドレアス・グルスキー、リチャード・プリンス、シンディー・シャーマン、ピーター・ベアード、杉本博司など、現存アーティスの写真作品が高額落札されるケースは決して珍しくない。しかしアート写真分野では、マン・レイ、ラースロー・モホリ=ナジ、ヘルムート・ニュートン、ダイアン・アーバスなど、物故写真家の作品が高値で取引されることが一般的。現存写真家では、昨年94歳になったロバート・フランクや、今年80歳になるウィリアム・エグルストンなどの20世紀写真の巨匠くらいに限られる。ちなみにササビーズ・ニューヨークでは、上記のコンテンポラリー写真オークションの前に小規模だがデウィックの回顧展を開催している。アート写真業界の彼への期待の表れと言えるだろう。

© Michael Dweck Adriana at the Panoramic View, Hither Hills, 2002

デウィックは、米国ニューヨーク州生まれ。長年広告業界で活躍した後、40歳代に写真家に転身している。ニューヨーク州ロングアイランドの漁村モントークの消え行く地元サーフィン文化をドキュメントした「The End: Montauk, N.Y.(ジ・エンド:モントーク、N.Y.)」シリーズで2002年に作家デビューする。本シリーズのメイン・ヴィジュアルが、昨年の上記オークションで高額落札された「SONYA, POLES (MONTAUK),2002」。オール・ヌードの若い女性がサーフボードを抱えて光り輝く砂浜を走っていく作品だ。

© Michael Dweck Old boards in Tony’s backyard Montauk, New York

撮影場所のモントークはロングアイランドの東端に位置し、ニューヨーク市マンハッタンから約100マイルの距離にある。米国イースト・コーストのサーファーズ・パラダイスと言われている。80年代くらいまで、住民たちはみなが仲間同士で、その狭いコミュニティーの中で自分たちだけのルールを守り自由気ままに暮らしていた。90年代以降になると、若いエリート・サラリーマンのヤッピーたちがマンハッタンから大挙してモントークを訪れるようになる。ニューヨーカーのデウィックは、1975年以来毎年この地を訪れている。彼は観光地化して、町の魅力が失われていくことに危機感をいだき、古き良き時代のモントークとその象徴のサーファーたちをドキュメントしようと試みたのだ。2000年代前半、彼が撮影を行ったモントークには、まだ古き良き時代のアメリカンシーンの断片が残っていた。デウィックはそんなシーンを人が少ない早朝や街の片隅で見つけ出して撮り続けた。それらをまとめたのが上記の彼のデビュー・シリーズなのだ。同シリーズの被写体はすべてモントークのローカル・サーファーだった。しかし、作品発表時にはプロのモデルをモントークで撮影した作り物のファッション写真だと勘違いした人が非常に多かったそうだ。

© Michael Dweck Mermaid 18, Weeki Wachee, 2007

デウィックは、モントークを美しい男女が周りの目を気にしないで自由に暮らせる理想郷として描いた。当時の多くのアメリカ人は2001年の同時多発テロのショックで自信を失っていた。またグローバリズムの波及と、地域コミュニティーの崩壊が世界各地の社会で意識され始めた時期だった。デウィックの作品は、時代の気分と見事に合致していたといえるだろう。多くの人は、幼少時代に垣間見た理想のアメリカンシーンの残り香をデウィックの写真の中に見出したのだ。また著名コレクター、有名人がデウィック作品をコレクションしたこともマスコミで話題となる。2004年に刊行された写真集のオリジナル版は、発売後わずか数週間で5000部が完売し、その後レア・フォトブック市場で、1万ドル(@110円/約110万円)で取引されたという。2015年には、発売10周年記念版が刊行されている。

© Michael Dweck Mermaid 37, Miami, 2007

デウィック作品は、日本や欧州でも人気が高い。彼の追い求めていたのは日本や欧州の人が抱いていた、戦後の理想的なアメリカンシーンと重なってくるのだ。テーマのサーフィン自体が戦後の日本人が憧れた米国文化の象徴そのものだ。米国人写真家ブルース・ウェーバーが日本で支持されるのと同じ構図だといえる。ウェーバーのファンなら、間違いなくデウィックの写真に共感してしまうだろう。

2008年、デウィックは第2作の「Mermaids(マーメイド)」で、フロリダ州の小さな漁村アリペカを舞台に、澄み切った水と共に実際に同地で生活する美女たちをドキュメントしている。彼女たちを現代のマーメイドに見立てて、理想のアメリカン・ガール像を探求した。ブロンドヘアーの女性たちは、水中空間を背景に、光、影、反射、水のレンズ効果を駆使することでまるで抽象絵画のように表現されている。

2011年の「Habana Libre(ハバナ・リブレ)」では、デウィックは階級がないはずの共産主義国キューバに存在するクリエィティブな特権階級のファッショナブルなライフスタイルを探求。西側はもちろん、キューバでも知られていない、同国内のシークレット・ライフを初めてドキュメントしている。米国とキューバとの複雑な文化的な関係性を取り上げるとともに、将来の国交再開を示唆した作品として注目された。

© Michael Dweck Rachel and Giselle cruising down the Malecon, Habana, 2009

その後、デウィックの関心は映画製作に移っている。しかし、彼の追い求めるテーマは一貫して、今や消えつつある古き良きアメリカンシーンを現在に提示することだ。今回は、アメリカの地方でかつて人気の高かったストックカー・レースとそれに関わる人たちを、ニューヨーク州リバーヘッドのレーストラックでドキュメントしている。完成した映画作品「The Last Race」は、2018年のサンダンス映画祭で公開された。彼は映画と共に写真での撮影も行っている。それらは、レースカーを白バックで撮影してフォルムを比較するタイポロジー的な作品。カラフルなレースカーのボディーを接写した抽象的な作品に仕上がっている。映画の仕事に区切りが付いたら、写真集制作、ギャラリーでの作品展示を行う予定だと聞いている。ギャラリー関係者、コレクターは、彼の新作完成を待ちわびている。

BLITZ GALLERY

福川芳郎

ブリッツ・インターナショナル代表。金融機関勤務を経て1991年にアート写真専門のブリッツ・ギャラリーをオープン。写真展やイベントの企画運営、ワークショップやセミナーの開催など、アート写真に関する多様な業務を行っている。1999年にアート写真総合情報サイト『Art Photo Site』を開設。写真市場の動向や写真集の情報を提供している。共著に『グラビア美少女の時代』(集英社新書ヴィジュアル版、2013年刊)、編著に『写真に何ができるか』(窓社、2014年刊)。著書にアート写真集ベストセレクション101(玄光社、2014年刊)がある。

http://blitz-gallery.com/
http://artphoto-site.com

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