嶋田篤人写真展「そこ一里 #02」が、金柑画廊で開催される。
2021年にリコーイメージングスクエア(#00)、2022年に金柑画廊(#01)で展示されたシリーズの3弾となります。嶋田篤人は、2011年から房総半島を撮影したゼラチンシルバープリントの作品を制作し続けています。彼にとって房総半島は故郷であり、名もなき場所で記号を持たない場所でもあります。そういった身近で遠い場所に彼は戻り続け、撮影し続けることで、取るに足らないであろう微細な変化や自身の変化をつぶさに観察し続けます。継続していく中で、変わらぬ土地にも変化が生まれ、だんだんと記録の要素も作品に内包されるようになりました。物事は精進によって徐々に昇華されて、その些細な変化に目を向けることが日々を豊かにしてくれる。継続・観察・記録が彼の作品をどのように変容させていくのか、今後も撮り続けるこの作品群の行程を見続けたいと思います。この機会にご高覧ください。
太田京子(金柑画廊)
ステートメント
繰り返し房総半島で写真を撮っている。写真を撮り始めた頃、私は身近な対象に目を向けたいと感じた。レンズを通して見慣れた場所と新たに出会おうと考えたのだ。低い山並みは雲に届かず、半島故この道は海で終わる。房総に生まれ育った私にとって、この象徴性に乏しい場所こそが見慣れた原風景だ。しかし見知っているはずの場所がレンズを通すことで遠い辺境のように立ち現れることがある。そしてその光景が暗室作業を経てプリントになる時、親しみ深くも他所他所しい郷愁に私はとらわれる。そうした新しい郷愁に心を震わせ、房総の旅を繰り返している。その道はまるでこの土地のお国柄言葉「そこ一里」※のようになかなか終着しない。いくら撮っても「まだ何か」という気がしてならず、後ろ髪を引かれる思いでまた撮影の旅へ向かう。一見同じように見えてもまるで小さな声のような変化がここにはある。耳をそばだて、明瞭な視線でゆっくりと歩く。そうある限り私にとっての房総半島はどこまでも果てなく続く道となる。そして私の撮った写真が存在することも、また私という存在や意識も、そうした変化と等価なモノとしてこの土地へ吸収されていくのであろう。ならばそれでよし。私は写真を通した世界観の移ろいに、確からしい寄る辺を求め撮影を繰り返している。
※房総で現地民に道のりを尋ねると「すぐそこ、あと一里だ」と答えるが、いくら行けどもその問答の繰り返しでなかなか到着しないこと。かつて浮世絵師の歌川広重は房総を旅し「菜の花や 今日も上総のそこ一里」と詠み、また夏目漱石は小説『こころ』で「我々は暑い日に射られながら、苦しい思いをして、上総のそこ一里に騙されながら、うんうん歩きました」と綴っている。
嶋田篤人/Atsuto Shimada
1989年千葉県生まれ。2011年東京工芸大学芸術学部写真学科修了。2011年から房総半島を撮影し、自身で現像・プリントをしたゼラチンシルバープリントの作品を制作し始める。主な活動として、個展「堰を切らぬ廐」(2016年、Pond Gallery、東京)、「待つ」(2018年、Alt_Medium、東京)、「そこ一里(#00)」(2021年、リコーイメージングスクエア、東京)、グループ展 PGI Summer Show 2019 “monoとtone”(2019年、PGI、東京)などがある。塩竈フォトフェスティバルポートフォリオレビュー特別賞(2011年)、ゼラチンシルバーセッションGSS フォトアワードグランプリ(2013年)など受賞。
- ギャラリー名
金柑画廊
- 住所
東京都目黒区目黒4-26-7
- 開館時間
12:00〜19:00 開廊日:木、金、土、日(祝祭日)
- アクセス
東急東横線 祐天寺駅 徒歩17分/目黒駅西口より東急バス 元競馬場前または目黒消防署 下車 徒歩3分
- URL